建築業界への就職、転職を考える際にかならず耳にするのが「ゼネコン」という言葉です。なんとなく大手の建築会社という理解をしている方も多いですが、ゼネコンについての正しい知識を得ておきましょう。
建築の仕事をする上で、また就職や転職を考える上では正しく理解しておくことが大切です。
ゼネコンの定義から種類、年収やゼネコンで働くメリット、デメリットを紹介します。
ゼネコンの定義
ゼネコンという言葉は「ゼネラルコントラクター」の略です。直訳すると「全体の請負人」という意味で、建築に関する総合的な仕事をおこなう会社がゼネコンに分類されます。
ゼネコンにはっきりとした定義があるわけではありませんが、設計も施工も研究も一つの会社でおこなっていることが条件とされています。
このような3つの分野を同時におこなえる建築会社は意外と少なく、売り上げが年間数千億、数兆円もあるような大手の建築会社数社がゼネコンに分類されます。
中小規模の建築会社では設計や施工をおこなうことができても研究まで手が回らないことがほとんどです。
勤めている会社がゼネコンに分類されるか、転職したいと思っている会社がゼネコンに分類されるかをチェックしてみてください。
ゼネコンのさまざまな種類
一口にゼネコンといってもさまざまな種類があります。ゼネコンの種類によって微妙に仕事内容も変動しますので、あらかじめ確認しておきましょう。
スーパーゼネコン
スーパーゼネコンはゼネコンに分類される建築会社の中でもとくに規模の大きな会社のことです。
年間の売り上げが1兆円を超え、国内だけでなく海外でも仕事を請け負っていることも多いです。
現在日本国内でスーパーゼネコンと呼ばれているのは鹿島建設、大成建設、清水建設、大林組、竹中工務店の5社です。
鹿島建設は江戸時代に創業された歴史のある建築会社で、現在でも都市部のランドマーク的な建物の建築に多く携わっています。
清水建設も江戸時代に創業した建築会社です。大規模な建物の建築に携わるだけでなく、歴史的建造物の修築、改築もおこなっています。
竹中工務店も江戸時代からの歴史がある建築会社です。建築業界でも高く評価される建物の建築を多く行っており、多くの賞を受賞しています。各都市のランドマークとなるような唯一無二の建築物の建築に定評があります。
大林組は大阪城の改修など、歴史的建造物の修築も多く請け負っています。海外の道路工事なども多く手掛けています。
大成建設は青函トンネルの建築など、国家的な大規模な建築も請け負っています。
中堅ゼネコン
スーパーゼネコン、ゼネコンに次いで規模が大きいのが中堅ゼネコンです。はっきりとした定義はないですが、「中堅ゼネコン」などで検索するとその代表的な建築会社をいくつかチェックすることができます。
中堅ゼネコンはスーパーゼネコンよりも規模は小さいですが、その分自由な社風だったりさまざまなことにチャレンジできたりなど、大手とは別の魅力も持っています。
サブコン
ゼネコンとは別にサブコンと呼ばれる建築会社もあります。
サブコンは「サブコンストラクター」の略です。簡単に説明すると、ゼネコンから仕事を請け負っている建築会社のことです。
サブコンはさまざまな建築会社に下請けを依頼しますが、その中でもゼネコンから直接依頼を請けるような建築会社のことをサブコンと呼びます。
中小規模の建築会社よりも雇用している職人の人数が多く、それぞれのジャンルで活躍している一流の職人ばかりです。現場監督を務めるのもサブコンの仕事です。
マリコン
マリコンは「マリンコンストラクター」の略です。ゼネコンに分類される規模の建築会社の中でもとくに埋め立て工事や湾岸施設の建築、海底トンネルなど、海に関わる建築の仕事を請け負っています。
一般的なゼネコンとは違い、大型の船を操縦して資材を運搬したり、建築をしたりといったスキルが必要です。マリコンで身に着けた知識やスキルや生涯役に立つものばかりで、よりよい条件のマリコンへの転職や海外への進出も目指せます。
日本のマリコンの技術は世界的に見ても非常に高く、大手のマリコンは海外の仕事を請け負っているところもあります。
ゼネコンの年収
ゼネコンは建築会社の中でも非常に年収が高いことで有名です。
大手のゼネコンやスーパーゼネコンと呼ばれるような建築会社に就職した場合、700万円から800万円の年収を得られるでしょう。資格を所持していたり、役職についたりすると年収は1000万円を越えることも少なくありません。
中堅ゼネコンの場合は600万円から700万円程度が年収のボリュームゾーンです。スーパーゼネコンと比較すると劣りますが、それでも十分に高収入を得られます。
小規模のゼネコンの場合は500万円から600万円が年収のボリュームゾーンです。一般的な工務店やハウスメーカーで長く働いてやっとこれくらいの年収になる人も多い中、小規模であってもゼネコン会社に就職できれば比較的早い段階でこれくらいの収入を目指せます。
ゼネコンの仕事内容
ゼネコンに定義される建築会社は設計、施工、研究をおこなっています。
それぞれにどんな仕事をしているのか、具体的な内容を見てみましょう。
ゼネコンでは将来役立つスキルをたくさん身に着けられます。これらすべての仕事についてよく理解しておくことが大切です。
意匠設計、構造設計、設備設計
ゼネコンでおこなう設計とは、意匠設計、構造設計、設備設計のすべての設計を意味します。
意匠設計とは建物全体のデザイン、内装のデザイン、さらに生活のしやすさ、快適さなどをデザインする設計です。
構造設計は地震や津波の多い日本でも耐えられるような構造の建物を設計することです。
さらに設備設計はエアコンや電気といった、建物になくてはならない設備の設計をおこなうことです。
小規模の建築会社の場合これらすべてに特化した職人を雇うのが難しく、下請けなどに依頼しなければなりません。その分マージンが発生し、どうしても依頼費用が高額になります。複数の会社が介入することで納期が遅くなったりスケジュールに乱れが生じやすくもなります。
一方でゼネコンに依頼すれば一度の依頼ですべての設計を任せられます。依頼する側としてはコストを抑えられるだけでなくスムーズに作業を進行でき、納期を早めることも可能です。
施工全体の管理
ゼネコンが行う施工管理は、工事全体の中でも非常に重要です。工程やコスト、品質、安全性を管理し、安全かつスピーディーに作業を進めるためには欠かせません。
まずは工事のスケジュールを作成し、問題がないかを確認します。建築の工程にはさまざまな人や会社が介入します。この工程管理がきちんとできていないと進行に乱れが生じ、スケジュールの大幅な遅れにつながります。人件費や資源などの無駄なコストが発生してしまう可能性もあります。
次にコスト管理です。見積もりを取っていても、実際に工事が始まると資源や人件費などが予想以上にかかってしまうこともあります。それでも後から高額な請求をすることを避けるため、資源や人件費を極力カットしたり、上手な配置を考えてコストカットを図ります。
法律や自社の基準に則って、問題のない建築がおこなわれているかを確認するのが品質管理です。実際に計測してデータ化したり、報告書を作成したりしてその都度品質が一定以上に維持されているかを確認します。
さらに現場の安全管理も欠かせません。ゼネコンでは大規模な仕事を多く請け負っており、その分危険な仕事も伴います。従業員や周辺の安全を守るために安全点検を定期的におこないます。また、大規模な仕事でスケジュールに乱れがあると残業も増えてしまいます。過労死や過労自殺を防ぐため、残業時間の管理などをおこなう必要もあります。
施行についての研究
ゼネコンが他の建築会社と違う点がこの研究です。
より地震や津波といった天災に強い構造、火災時にも燃えにくい構造、強度の高い素材作りなど、施工に関する研究をおこないます。
これまでの実例から研究テーマを見出し、時代に合った研究をおこなわなければなりません。そしてその研究結果を発表することで建築業界全体のスキルや知識、技術が高まり、日本国内の建築業界全体がレベルアップできます。
ゼネコンが人気の理由
建築業界への就職、転職を目指す方の中でもゼネコンを目指したいという方は多いです。
どうしてゼネコンは人気なのか、その理由をチェックしてみましょう。
地図に残る仕事ができる
小規模の建築会社では主に戸建ての住宅やマンション、アパートなどの建設をおこないます。
一方でゼネコンはランドマークとなるような大規模な建物、唯一無二の建物、さらにトンネルや橋、道路、空港といった、大規模な建設業務に携われます。
地図に残る仕事がしたい、社会貢献度の高い仕事がしたいという理由で建築業界を目指す方にとくに人気がある理由がこれです。
日本では少子高齢化の影響から建築業の衰退が懸念されていますが、大手ゼネコン会社であれば道路の補修工事や海外での建設業務なども安定して請けることができ、景気に左右されず仕事を続けやすいです。
独自の建物の建設に携われる
ハウスメーカーなどの場合、決まったデザインの建物を安く建てられることを売りにできます。ですが自分のセンスを出せない、評価されにくいとったデメリットがあります。
日本国内だけでなく世界で活躍できる建築家になりたいというのであれば、独自の感性をデザインに反映できる建築に関わる必要があります。
ゼネコン会社は東京タワーやフジテレビなど、名前を聞いただけでそのデザインが思い浮かぶような唯一無二の建物の建築に携われます。
もちろん自分のセンスを活かした建物のデザインを提案できるようになるまでには時間がかかりますが、それまでにも働きながらゼネコンならではの勉強がたくさんできるでしょう。
福利厚生がきちんとしている
建築業界に関わらず、どの業界でも規模が大きければ大きいほど福利厚生がきちんとしているところが多いです。
人材不足の中小企業では残業や休日出勤は当たり前で、手当てがつかなかったり給料が仕事に見合わないことも多いです。
ですが大手ゼネコン会社なら仕事をすればそれだけ高収入も目指せます。大手であれば残業や休日出勤がないとは言い切れませんが、その分有給消化率が高かったり、手当てがしっかりしていたり、独自のサービスを受けられたりといったメリットがあります。
安定して仕事を続けられる
上記でも簡単に解説した通り、日本の建築業界の将来性は高くありません。
オリンピック開催により一時的に建築の需要は高まりましたが、今後も安定して景気がよくなるようなことはないでしょう。
今後中小の建築会社は立ち行かなくなる可能性も高いです。
一方で大手ゼネコンであれば民間からでなく国からも仕事を請けることができます。大型施設の建設、道路や空港など大規模な工事、修繕、歴史的建造物の改修などを請け負えるので、将来的にも長く安定して働き続けられるでしょう。
就職や転職をする際はその会社、業界の将来性も見極める必要があります。
豊富なスキルを身に着けられる
大手ゼネコンではさまざまな仕事をしなければなりません。
基本的な事務作業からスケジュール管理、現場監督、大企業との打ち合わせなど、一つひとつの仕事の責任が重いのも特徴です。少しのミスで数億円の損失を出してしまう可能性もあります。
ですがその分豊富なスキルを身に着けられます。中小企業で働いていたら決してできなかった経験ができるのも、ゼネコンならではのメリットです。
ゼネコンが人材不足の理由
ゼネコンは建築会社の中でも安定している、高収入を得られる、将来性があるなどの理由で人気です。
ですが人材不足を懸念する声もあります。
少子化という理由もありますが、あえてゼネコン会社から中小の建築会社に転職する有資格者もいます。
どうしてゼネコンから離れてしまうのか、その理由もチェックしておきましょう。
仕事内容がハードすぎる
ゼネコン会社の仕事は中小企業の仕事に比べると非常にハードです。
大規模な工事にはその分多くの企業や人が関わります。それらを一括で管理しなければならないのがゼネコンの仕事であり、責任でもあります。少しのミスも許されず、スケジュールに遅れが生じると残業をして現場を管理したりスケジュールの変更に奔走しなければなりません。
残業時間や休日出勤の多さ、責任の重さによるプレッシャーなどに耐え切れずゼネコン会社からリタイアしてしまう方は少なくありません。
ゼネコン会社に就職、転職するには一級建築士の国家資格が必要不可欠とも言われていますが、この資格を持っていれば中小企業や異業種にも転職しやすいです。
スキルを評価されにくい
ゼネコン会社はその規模が大きければ大きいほど組織がしっかり出来上がっています。
若いうちからしっかり働いて結果を出しても、年功序列のシステムが崩されずなかなか出世できないという悩みを抱えている方も少なくありません。
派閥争いがあったり、上司との関係が上手くいかず評価されなかったりといった人間関係のストレスからゼネコンで働くことを辞めてしまう方もいます。
出世欲が強い、早く独立したい、自分のセンスを活かした建築物を作りたいといった方や、日本の古い経営形態に合わせた働き方が苦手という方にはゼネコンは向かない可能性も高いです。
危険な仕事も多い
ゼネコンでは大規模な建築をおこないます。高層ビルでの作業や大きな資源を使う作業も多いです。
少し足を滑らせただけで大怪我をしたり、最悪死亡するリスクも伴います。自分だけでなく周囲を巻き込んでの大事故につながる可能性もあります。
ゼネコン会社では安全管理を徹底していますが、それでも完全に事故を防ぎきれるわけではありません。
慎重に作業をおこなわなければならないのはゼネコンの大規模な工事に限った話ではありませんが、怪我や事故のリスクが怖くてゼネコンでの仕事を辞めてしまう方もいます。
実際に事故を起こした、怪我をしたという理由でゼネコン会社を退職する建築士も少なくありません。
ゼネコンについて詳しく知ろう
ゼネコンについて詳しく解説しました。
ゼネコンとは、設計や施工だけでなく研究も自社でおこなうような大規模な建築会社のことです。
他にはないデザインの建物や、道路や橋など人々の生活に直接影響する建築物などに携わることができ、建築士としてやりがいを感じながら働けます。
一方で責任が重く、出世しにくい、大事故につながる工事もあるなどの理由から離職してしまう方もいます。
大手ゼネコン会社には大手ゼネコン会社の、中小会社には中小会社のメリットとデメリットがあります。
建築業界に就職、転職したいとお考えの方は、自分にはどんな働き方が向いているのか、将来どのような人材になりたいのかを明確にしてから求人情報をチェックすることもおすすめです。