家同様にわたしたちの暮らしを支えてくれる「屋根」。
屋根が無ければ風雨を凌ぐことができずにその場で生活することは困難でしょう。
わたしたちが生活するうえで、当たり前のようにある「屋根」。
この屋根も、卓越された技術の結晶でできていて、工事するにあたっては非常に高度な技術を必要とされています。
そのような職人たちがいるからこそ、わたしたちは安心して屋根のある家で生活することができます。屋根と言うと、天井にある雨風を凌ぐ単体なものと考えがちですが、実は屋根と言う言葉は非常に不思議で、天井にあるのになぜか『根』が付いています。
これは、屋根がしっかり地面に付いていた時代の建築物の名残だそうで、平安時代まで農家のスタンダードだった竪穴式住居を想像していただくとわかりやすいかと思います。
いわゆる『屋根』は家全体を表していたということになります。それが徐々に柱や壁ができ、屋根は家全体を示す範囲から雨を凌ぐ部位へと変化していったのです。
今回は古くは家全体を指し、建築物を構成するうえで極めて重要な『屋根』について、その工事の種類や工事にまつわる資格について説明していきたいと思います。
そもそも屋根って何?
屋根とは主に建物の上部を覆う構造物で、外の天候の変化(雪、強風、太陽の日差し、気温の変化、工場のばい煙、大気中の粉じん)などから守るものを言います。
屋根を覆うことを「葺(ふ)く」と言い、屋根に使われる素材(トタン、レンガ、瓦、スレート、コンクリート)によって「〇〇〇葺」と呼ばれています。建物の構造はそのままで屋根だけを交換することを「葺き替え」と言います。
屋根はそのデザインや土地の風土によって、積雪で家屋がつぶれないように尖ったものや、緩やかな曲線を描くもの、平らなものなどがあります。
また、使用される素材によって、土地や時代、文化圏で利用しやすいものが使われている物もあり、それぞれの屋根はその土地の風景や景観を醸し出しています。
屋根の形状や素材を決めるうえで基本として求められるものがあります。それは、耐震性、防水性、防火性、耐久性、断熱性です。木造住宅の場合には屋根材の重量によって耐震性を向上させるために、壁の量を増やす場合があります。
屋根構造の基本
出典:ハウス情報ドットコム住宅総合研究所
https://housejoho.com/roof-structure
屋根の基本的な構造は、「垂木」「野地板」「ルーフィング」の3つの部材の上に、屋根材(スレートや瓦など)が設置されていて、この3つは、どんな屋根の種類でもほとんどその構造や機能は同じになっています。では、この3つの部材について見ていきましょう。
垂木(たるき)
垂木は屋根に傾斜をつける木材のことで、屋根の一番高いところ(棟)から一番低いところ(軒)に向かって斜めに長井木材が使われるのが一般的です。
野地板(のじいた)
野地板は屋根の木下地のことで、屋根本体を保持させるための重要な建材で、特徴やグレートも様々なものがあります。
野地板も雨漏りなどを防止する屋根構造として重要な役割を持っていて、屋根の形を整えます。野地板が傷むと屋根が波打つなどの変形が起こってしまい、素材選びは非常に重要になってきます。
ルーフィング
ルーフィングは、屋根の防水シートのことで、二次防水として雨水の侵入を防ぐ役割を持っています。
一般的には瓦などの屋根材が破損することで雨漏りが発生すると言われていますが二次防水であるルーフィングで最終的に雨漏りの侵入を防いでいる重要な役割を持っています。
裏を返せば屋根材はあくまでも見栄えを良くするための化粧材でしかないと言うことです。もちろん屋根材にも防水機能はありますが、屋根材よりもルーフィングの方が保護性能を充分に発揮しています。
屋根工事の種類
これまで、基本的な屋根の構造について説明してきました。
ではその工事にはどのような種類があるのか見ていきましょう。
屋根工事の種類はおおむね6種類の工事に分かれています。
屋根葺き替え工事
屋根葺き替え工事は簡単に言うと「いまある屋根を取り除いて新しい屋根材に作り替える」ことです。
葺き替え工事では、野地板から屋根材までをすべて取り外し、新しいものに取り換えていきます。
工期の目安としては約1週間から2週間ほどで出来上がります。
主な工事内容としては、
1. 足場の組み立て:屋根の上は2メートル以上の高さになるものが多く、足場が必要になってきます。家の周りを囲むように組んでいきます。
2. 既存屋根材の撤去:今現在ついている屋根材をすべて剥がします。
3. 下地の状況確認、修繕:屋根材をすべて取り除いた後に下地の確認を行います。このときに必要であれば補強や修繕を行っていきます。
4. 野地板の設置:下地の上に野地板を貼り重ねていきます。重ねて張ることで屋根の強度が向上されます。
5. ルーフィングの設置:ルーフィングを野地板に貼り付けていきます。これによって雨水に強い屋根になっていきます。
6. 新屋根材の設置:新しい屋根材を貼り付けていきます。屋根材にもよりますが、工期は1日から2日ほどで完了します。
屋根重ね葺き工事(カバー工法)
屋根重ね葺き工事は、既存の屋根の上にルーフィングと新しい屋根材をかぶせていく工法です。
スレートや軽量金属屋根などのような平板の屋根材の上にかぶせることができる工法です。
葺き替え工事に比べて既存の屋根を剥がす手番が無いため、工期は比較的短くなっています。
その他のメリットとしては、元々あった屋根の上から新しい屋根材を重ねるだけの工事なので、古い屋根材を撤去するための人件費や廃材の処理費が発生しないため、費用が安くて済みます。
さらには騒音やほこりのトラブルも少なく、アスベストなどにも対応できます。
また既存の屋根と新しい屋根の二重構造になるため、非常に断熱性や遮音性、防水性が向上します。
一方でデメリットもあります。屋根重ね葺き工事は屋根全体の重量が増えるために、耐震性能において若干低下します。また瓦屋根にはほぼ対応できません。
なぜなら、元々ある屋根の上にフラットな金属屋根材を固定するために、瓦屋根のような波型の屋根や、厚みのある屋根では固定することが極めて難しくなるからです。
屋根塗装工事
屋根塗装工事は、屋根をキレイに洗浄した後に、専用の屋根塗料で屋根を塗り替えていきます。遮熱に特化したものや、耐候性に優れたものなど、さまざまな塗料から用途に合わせて選択していきます。
漆喰補修工事
まず漆喰(しっくい)とは石灰が主成分の建材で、防水や接着の機能に優れています。
屋根においては頂上の瓦と瓦を接着・固定し、さらに瓦の内部にある葺き土に水が浸入してくるのを防いでいます。
漆喰が劣化したまま放置してしまうと雨漏りや水はけの低下などが発生してしまいます。
劣化の程度によって補修方法は変わってきますが、概ね2種類の工事方法からなっていて、劣化した漆喰を剥がして新しい漆喰を塗る「漆喰詰めなおし工事」や、瓦を取り外して内部の漆喰や葺き土を新しく積んでから瓦を積みなおす「瓦取り外し工事」があります。
板金交換工事
板金交換工事は、部材が屋根の頂上に使用されている場合が多く、ここは台風などによる飛来物が一番多く当たる部分にもなっており、壊れやすい箇所になっています。
また劣化によって使用されている釘が緩んできて、強風などで浮き上がってしまい、そのまま放置した場合には雨漏りの原因にもなりかねないので、この場合は交換工事が必要となってきます。
工事は、棟板金をいったん取り外し、新しい棟板金に交換していきます。このときに、棟板金の下地木材も点検し、必要ならば交換や修繕を行っていきます。
雨樋交換工事
樋は屋根にあった雨水を外に排出していく役割を持っています。
建物を守り雨音を和らげるなどの効果もありとても大切なものです。その雨樋の継ぎ目がずれていたり、破損や変形、金具の外れ、経年劣化による破損などで交換する場合があります。
雨樋の種類は雨水を受け止める「軒樋(のきとい)」や軒樋に集まった雨水を排水溝まで運ぶ「竪樋(たてとい)」、その他「集水器」や樋同士をつなぐ「継ぎ手(つぎて)」など、さまざまな種類のパーツで構成されています。
出典:外壁塗装コンシェルジュ
https://gaiheki-concierge.com/article/gutter-exchange/
屋根工事に必要な資格
屋根とは何なのか。また、工事の種類はどれだけあるのか。などを見てきましたが、これらはすべて職人がいなければ成り立たないものです。
では、屋根工事をするにあたり、どのような資格があるのかを説明していきます。
屋根職人自体は資格が無くてもなることができます。昔は地元の大工さんがいい屋根職人を連れてきてくれたり、地元に根付いた信頼度で仕事を頼んできました。
しかし、近年では近所づきあいや地元に根付いた業者も少なくなり、インターネットの普及とともにその風土はなくなりつつあります。
インターネットで情報が溢れかえっている時代で何が必要かと言えば「資格」です。資格の有無によってその職人の技量が計られる時代に来ていると言ってもいいでしょう。
かわらぶき技能士
かわらぶき技能士は、日本の国家資格の技能検定制度のひとつで、瓦屋根を施行する職人のための国家資格です。
かわらぶき技能士には1級と2級があります。
1級は2級に比べ難易度が高く、実技試験の中には、一文字軒という瓦を架台に葺く実施試験があります。
この一文字軒は焼物でできているので、不揃いな瓦を鏨(タガネ)で綺麗に切りそろえて軒先を直線に仕上げていきます。時間をかけて丁寧に行えば可能ですが、試験ですので制限時間が設けられているので、熟練した職人でも簡単には合格できないほど難関となっています。
実務経験は
の実務経験が必要となっています。
瓦屋根工事技士
瓦屋根工事技士は一般社団法人全日本瓦工事業連盟が行う試験に合格することで取得することができます。
この資格は、瓦屋根工事の工法や施工、設計から品質管理まで十分な知識と経験を証明できる資格になります。
また、かわらぶき技能士と合わせて取得すると、上級資格とされる瓦屋根診断士の受験資格を得ることもできます。
瓦屋根工事技士の受験資格は、実務経験3年以上が必要で、学科試験はかなり難易度が高いそうです。裏を返せばその分知識を求められる資格と言うことができます。
瓦屋根診断技士
もともとこの資格は、1995年(平成7年)に発生した阪神淡路大震災の時に、被災者から法外な金額の工事を請け負う悪徳業者が横行し、当時の建設省から全日本瓦工事業連盟に安心で安全な屋根診断に関わる資格を持った人を創出するように要請があったことからできたものだそうです。
瓦屋根診断技士は日本の全日本瓦工事業連盟が発行する資格で、適正な屋根の診断を行える資格として中立な立場で屋根診断を行う特徴があります。
この資格には下記3つの要件をすべて満たす必要があります。
2. 瓦屋根工事技士の資格を持っていること。
3. かわらぶき技能士(1級または2級)の資格を持っていること。
とあります。
この要件を満たし、正規に認定を受けた人だけが瓦屋根診断技士の称号を使用することができます。
この資格は瓦屋根においての専門的な知識の講習(更新講習は5年毎)を実施しています。
この瓦屋根診断技士は、いわば瓦の資格の中で最上級の資格と言うことができ、現在全国で約2500名がこの資格を有していると言われています。
まとめ
屋根についての役割や重要性、工事内の種類などをご紹介してきました。
屋根と一言で言っても様々な役割や必要性がご理解いただけたと思います。屋根はその役割だけでなく、その土地の風土などによってすばらしい景観を作りだしてくれるものでもあります。
しかしその屋根を施行するのは卓越した技術を持った職人たちです。この職人がいなければ屋根を作ることはできません。屋根職人の技術は、他の部材のように寸法通りに制作することが極めて困難です。
現場での加工が必ず必要となってきます。そのために瓦の素材や知識を知り尽くしていなければ正確な施工ができないほど高度な技術を必要とします。
最近では施工が簡単な瓦が普及していますが、それでも収まりが難しい部分では熟練した技術が必要になってきます。屋根職人になるために必要な資格は特にありませんが、キャリアップや自分の持っている技術の証明をするために様々な資格も存在しています。
これから屋根の工事に携わりたい。自分の技術を証明しさらなる技術の向上に努めたい。
と思っている方がいればこの記事を通じてなにかを感じていただければ幸いです。
近年、屋根職人のみならず建築に携わる職人の数が減少してきています。この記事を通じて少しでも屋根職人を目指す方が現れることを切に願います。