建築士の資格は国家資格の中でも取得が難しい資格です。
取得方法はさまざまな方法がありますが、中でも人気なのが大学に通って学ぶという方法です。
大学で建築について学んだ実績があれば、二級建築士だけでなくさらに一級建築士にキャリアアップする際にもメリットがあります。
建築士を目指すためにはどんな大学を選べばいいのか、大学では何を学べるのかについて解説します。
建築士になる方法と建築士の難易度
建築士の資格は国が認める資格です。そのため民間資格とは違い受験条件や合格の基準が非常に厳しくなっています。
建築士を目指すにはどんな道筋があるのか、そして建築士の資格の合格率はどれくらいなのかなど解説します。
二級建築士の資格を得る
建築士の資格の中でも一般的に知られているのは二級建築士と一級建築士ですが、さらに木造建築士という資格もあります。
木造建築士は木造の二階建ての建物までしか対応できませんので、建築士として業界で活躍していくためには二級建築士の資格は必須と言えます。
そしていきなり一級建築士を目指せるわけではなく、最初に二級の資格を取得して、その上で一級建築士の資格試験を受験します。
四年生の大学で指定された科目を履修すれば、資格の試験を受けなくても二級建築士の免許が与えられます。
高校を卒業してすぐに現場で働きながら資格を取得する方もいますが、このようなメリットから大学できちんと学んでから働きたいという方も多いです。
一級建築士の受験資格である実務経験とは
大学に通っていても、いきなり一級建築士になれる方法はありません。一級建築士の試験の受験条件には一定年数以上の実務経験が求められています。
大学に進学せず高校を卒業してから働き、独学、または専門学校や予備校で建築について学び二級建築士に合格すると、その後建築士事務所などで4年間の実務経験がなければなりません。
ですが上記のように、大学で学び二級建築士となった方は、求められる実務経験は半分の2年間になります。
大学に進学した方がより丁寧に、そして最新の建築について学べるだけでなく、よりスピーディーにキャリアアップを目指すことができます。
建築士の合格率は10~20%
国家資格の中でも、建築士の合格率は低めです。
建築家になるために最低限持っておかなければならないとされる二級建築士の合格率ですら20%程度です。一級建築士を目指すとなると合格率は10%程度に留まります。
建築士の資格試験は年に一度しかおこなわれず、学科試験と設計製図試験の二つの試験を受け、双方で合格点を出さなければなりません。
試験対策もしっかりしなければならないため、独学だけで建築士の試験に合格できる可能性は非常に低いです。大学で学びつつ試験対策をしたり、現場で働きながら通信講座、予備校で試験について勉強する方がほとんどです。
建築士の資格を取得する主な3つの方法
建築士を目指せる方法は主に3つです。
必ず大学に進学しなければならないというわけではありませんので、将来設計などを考えた上でどの進路に進むかを考えましょう。
現場での経験を7年積む
大学や専門学校に進学しなくても、すぐに現場で働きつつ国家資格の取得に向けて準備をすることもできます。
この場合、二級建築士の試験を受けるためには最低でも7年間の経験を積まなければなりません。
7年かけて働き続けて二級建築士となり、さらに4年間の実務経験を積んで一級建築士を目指せます。
この場合は一級建築士になれるまで最低でも11年間が必要です。若いうちから業界でどんどん建築士として活躍したいという方の場合はもどかしい思いをすることもあるかもしれません。
また、実務経験とは単なる工事作業だけでなく、現場の管理や指導、建築工事に関する一式などと詳細に定められています。試験を受ける際には建築士事務所などが発行した実務経歴証明書を提出する必要があり、虚偽の報告をした場合は受験資格の取り消しや罰則を受けることになるかもしれません。
就職活動の際には、希望する事務所が建築士事務所として登録されている事務所かどうかも確認しましょう。
短大、専門学校、予備校に通う
短大や専門学校、予備校で建築について学び、国家資格の試験を受けることもできます。
建築学科のある短大に入学して学んだ場合は、卒業してから3年、または4年の現場経験を積んだ後、一級建築士の受験資格が与えられます。
短大には2年間だけの学校と3年間学ぶ学校があります。何年短大に通ったかによって実務経験の必要な年数が変わりますので注意してください。
建築についての専門学校に通った場合は2年間のみですので、卒業してから必要な現場経験の年数は4年間ということになります。
その他にも必要な実務経験の年数は通う学校によって詳細に決められていますので、進学する前にしっかりと確認しておく必要があります。
建築を学べる大学に進む
早く一級建築士を目指したいのであれば4年間建築学科のある大学に通うことがおすすめです。
建築を学ぶために進学する場合は、どの科目を学ぶかについてもよく考えてください。
大学では建築家に求められる基礎的な技術や知識についてはもちろん、その他に建築計画や建築工学など、さまざまな部門に特化した教科がたくさんあります。
住宅を建てる仕事をしたい、大きなビルやホテルを建てたい、デザイン性の高い建築物を建てたいなど、建築士になる目的は人それぞれです。
将来どういった働き方をしたいのかを視野に入れ、目的の学科を選ぶようにしましょう。
また、今後転職をすることも視野に入れなければなりません。一つのジャンルに特化せず、さまざまな教科にチャレンジしてみることも大切です。
建築学を学べる大学を目指そう
何度もご紹介している通り、業界で求められる人材となるために建築の勉強をするのであれば大学への進学が有利です。
AO入試や奨学金制度などを利用するなど、サポート制度も調べてみてください。
ですが、建築学科がある大学ならすべてで同じカリキュラムを受けられるというわけではありません。
建築士の合格率や在籍している教授、さらに学びたい学科があるかなどを確認して大学を選びましょう。
建築士の合格率をチェック
その大学から合格している建築士の数をチェックしてみましょう。
日本大学や芝浦工業大学、東京理科大学などは現役でも活躍している一級建築士をたくさん輩出しています。
その大学の建築士の合格率が高いということは、建築についての授業や試験対策もしっかりしているという証拠でもあります。
ですが建築士になった数が多ければいいというわけでもありません。どのような試験対策をしてくれるかなども確認しておきましょう。
輩出率が低い大学であっても、建築士になれないわけではありません。建築についての授業をきちんと受け、試験対策をし、時には教授にアドバイスをもらいながら大学のサポートを受ければ合格できます。個人のがんばりだけでなく大学側もしっかりフォローしてくれるので、不安なときは気軽に教授や学生センターに相談しましょう。
学びたい学科がある、学びたい教授がいるなどの点にも注目してください。
学びたい教授がいるか
建築学科のある大学では、有名な建築家が授業をしてくれるところも多いです。
素晴らしいデザインで海外からも注目を集めた建築家や、大手のゼネコン会社で経験を積んだ建築家などから現場の話を聞けるチャンスがたくさんあります。
今後建築業界で長く働く上で貴重な話もたくさんあるでしょう。
そして、建築業界では人脈も重要です。顔の広い建築家の教授と交流を持つことで、今後の建築士としての活動にいい影響が出る可能性もあります。
学びたい学科が充実しているか
建築学部のある大学にはさまざまな学科があります。
個人に寄り添う建築家になりたい、地図に残るような大きな建物の建築に携わりたい、デザイナーとして活躍したいなど、人によって学ぶべき学科は変わります。
建築学科のある大学のすべてが同じ教科を取り扱っているわけではありませんので、進学する際は科目も事前に調べておく必要があります。
あとから後悔しないよう、仕事に役立つ勉強ができる大学を選びましょう。
大学で学べる建築の科目
建築関連の授業がある大学ではどのような科目があるのかを紹介します。
下記のような教科以外にも、その大学独自の科目を用意しているところはたくさんあります。
大学内で学ぶだけでなく実際の建物を見学したり建築現場を見学したり、さらに海外留学をして建築について学べる大学もあります。
事前に資料を取り寄せるなどして、興味のある科目に特化しているか確認してください。オープンキャンパスで学べることや授業の雰囲気を見てみるのもいいでしょう。
建築計画
建築計画とは、その建物の使いやすさや住みやすさを考えるための科目です。
一般の住宅からオフィスビルやホテル、商業施設などをいかに使いやすく、快適に過ごせる場所にするかについて学んでいきます。
建築家として建築業界で活躍するためには必ず理解しておかなければならないことがたくさんあります。
座学だけでなく、実際に建物の見学に行って学ぶこともあります。実際に目で確認することで、普段何気なく使っている建物にあらゆる工夫がされていることがわかるでしょう。
自分で建物の設計を考えて発表するなどの授業もあります。どのような工夫をしたか、どのような人に使ってもらうことを想定しているのかなどを発表し、よりよい建物作りをできるように学んでいきます。
建築工学
建築工学は、建物の見た目や使いやすさだけでなく工学的な理論を学ぶ科目です。
どんなに美しく、住み心地のいい建物であっても、耐震性や耐久性、耐火性に問題があれば建物としては機能しません。
建物は非常に細かな計算、工学によって成り立っています。
また、近年は省エネのために建築業界ができることにも注目が集まっています。
冬は暖かく、夏は涼しく、エアコンを必要以上に使わずに済む建物の作り方などを学ぶことができます。
物理学的な面もあり、複雑な計算をしなければなりません。ですがこれも建築を学ぶ上では非常に大切です。
建築ならではの計算式などもあり、覚えることはたくさんあります。そして実際の現場ではこの科目で学んだことを応用し、建物の設計などに役立てます。
意匠設計
意匠設計は人の動きを考えたデザインや、見た目の美しさを考えたデザインを学ぶ科目です。
家事をスムーズにできる家ならストレスなく長時間過ごせますし、狭い家でも広々と見せることができれば窮屈に感じません。
どんな動きやすさを求めているか、どんな美しさを求めているかは人によってさまざまです。さまざまなクライアントの要望に応えられるように、しっかりとデザインを学んでいきます。
意匠設計は建築計画の中で触れられることも多く、意匠設計の科目自体がない大学もあります。
よりデザインについて知りたいという方は、意匠設計に関する科目がある大学を目指す必要があります。
構造設計
建築物の強度を高めるためにどんな工夫ができるかを考えるのが構造設計の科目です。
一軒家とタワーマンションでは構造が大きく違いますが、それぞれに耐久性を高めるための独自の工夫があります。
どれくらいの規模の建物でどれくらいの被害が出るのか、どんな構造なら被害を最小限に抑えられるのかを学びます。
地震や津波の危険性が高い日本での建築においては非常に大切な科目です。
環境設計
環境設計は、その土地の環境を踏まえた上でより快適に過ごせる建物を作るための科目です。
建物には窓や扉があり、自然光や風、その土地ならではの気候なども住みやすさ、過ごしやすさに影響を与えます。
そのようなことを考えた上で建物を設計しなければなりません。
例えば北向きに窓を作ってしまうと一日中日当たりが悪くなってしまいますし、海沿いの街であれば潮風の影響を受けないような建物の構造を考えなければなりません。
建築の基礎を押さえていてもこのような配慮ができていなければ立派な建築家にはなれません。
材料科学
建築に使われる材料にはさまざまなものがあります。
木材からコンクリート、アスファルト、タイル、塗料、ガラス、金属など、それぞれの特徴や役割について学んでいきます。
ただそれぞれの知識を得るのではなく、物理学的に、科学的に研究していく科目でもあります。
建物の種類や目的、建設する土地や環境によって最適な材料は違います。そして新しい材料は日々研究、発表されていますので、大学で最新の情報を学ぶことは大切です。
都市計画
都市はどのような構造なのかを学ぶ科目です。
ただ住宅があるだけでなく、学校や病院、商業施設など、人が集まる街にするためにはどのような計画を立てていくことが必要なのかを知ることができます。
他の科目のように物理学や化学の難しい計算などは必要なく、文系学科としてカウントされることもあります。
建築を学べる大学を探す際には建築系の科目ばかりを調べてしまますが、このような文系科目にも興味のある分野があるかどうかをチェックしておくことも大切です。
建築士を多く輩出している大学
建築士を多く輩出している大学の一部を紹介します。
下記のような大学では建築士を目指すためのカリキュラムも充実していますので、進学先を選ぶ際の参考にしてください。
東京大学
言わずと知れた東京大学は、建築士になるためのカリキュラムが豊富に用意されています。東京大学出身の有名な建築家も多いため、憧れの建築家が東京大学出身の場合は授業内容を調べてみてもいいでしょう。
しかし当然東京大学自体の合格率は非常に低く、超難関校です。
受験勉強はもちろん、合格してからも常に勉強を続けるモチベーションを維持しなければなりません。
東京工業大学
東京工業大学は工業系に特化した大学で、理系の高い知識が必要なため東京大学よりも入学するのが難しいと言われることもあります。
ですがその分授業内容は充実しており、建築以外にも学べることは多くあるでしょう。
建築や工業の業界で活躍している方も非常に多く、実際に現場を経験した先輩からの話を聞ける機会も多いです。
横浜国立大学
横浜国立大学は有名な建築家が多く教授を務めていることで有名な大学です。
中には日本だけでなく世界で活躍している建築家も在籍しており、教授の授業目当ての留学生も多いです。
東京大学などと比べると偏差値はやや下がりますが、それでも難関校であることに違いはありません。
東京藝術大学
東京藝術大学は美術を学ぶ大学ではありますが、建築学の分野も充実しています。
デザイン性の高い建物を作りたい、独自のセンスを活かした建築士になりたいという方におすすめです。
有名な建築家も教授として多く在籍しています。
美術系の大学に入学するには一般試験だけでなくデッサン試験などもあり、専用の勉強をしなければなりません。
美術の歴史を学ぶ授業や課題などもありますので、建築以外にも芸術分野全般に興味がある方におすすめです。
京都大学
関西では京都大学が建築士を多く輩出しています。
合格率はもちろん低く難関校ではありますが、東京大学よりもより自由な発想を尊重する傾向があります。
建築の分野も充実しており、満足のいく学びを得ることができるでしょう。
京都大学への入学自体の難易度は高いですが、上記で紹介した大学に比べると建築学科に関してはやや難易度は下がります。
明治大学
東京の有名私立大学をまとめてMARCHと称することもありますが、その中でも明治大学は建築学科があることで人気です。
大学自体の入学の難易度も、建築学科の合格率も、他の大学と比べるとやや劣ります。国公立大学の滑り止めとして明治大学を受けるという方も多いです。
ですが明治大学は院まで進むと国内だけでなく国外での建築にも視野を広げた授業を受けることができます。
別の大学に通い、明治大学の院に進んで建築についてより深く学びたいという方もいます。
大学で建築士になるための勉強をしよう
建築士になる方法はたくさんありますが、大学に進学して学び資格を取得する方法もあります。
4年制の大学を卒業していれば一級建築士を目指すために必要な実務経験の年数も短くなるので、最短で一級建築士を目指せるというメリットもあります。
建築学科のある大学はたくさんありますが、どんな分野に特化しているかは大学によってさまざまです。
これから建築士になるために大学進学を考えている方は、建築学科という点にだけ注目するのではなく、どれくらい建築士を輩出しているか、どんな分野に特化しているか、どんな授業を受けられるかなどを確認しましょう。