建築基準法は、建築業界に携わるなら必ず頭に入れておかなければならない法律です。
建築士はこの法律を遵守した上で設計、建築をおこないます。
万が一法律違反をした場合はどうなるのか、そして実は意外と多い違法建築の実例などをチェックしていきましょう。
違法建築とはどんなもの?
違法建築とは、その名の通り法律を守らずにおこなわれた工事を指します。建築基準法などの法律を守っていない物件を違法建築物件といいます。
建築基準法だけでなく消防法、都市計画法、その他各自治体の定める条例など、建築物を建てる際はさまざまな条件を守る必要があります。
建築に関する法律を守ることは、その建物での快適な暮らしや安全な毎日を守るためには欠かせません。法律を遵守せずに建築物を建築した場合は下記で詳しく紹介するような重いペナルティが科せられます。
また、建築基準法などの法律は絶対に変わらないものではありません。事件や事故、災害に備えて改定されることもよくあります。建築した当時は法律違反ではなくても、改定後にそのままにしておくことで違法建築物件となってしまうケースも。
どうして違法建築物件が生まれるのか
建築物は通常、建築基準法をもとに設計図を作成し役所に提出した上で建築の許可を得なければなりません。
建てられている建物はすべて役所の許可を得ているはずなのに、どうして違法建築物件が生まれてしまうのでしょうか。
さまざまな要因がありますが、大きく分けて手抜き工事によるもの、法改定によるもの、個人の増築によるものといったケースがあります。
それぞれを詳しく見てみましょう。
手抜き工事によるもの
役所に法律を遵守した設計を提出して建築の許可を得たあとに設計を大幅に変更してコストカットや人件費削減をおこなうというもっとも悪質なケースです。
役所も依頼主も気づきにくく、実際に災害で大きな被害を受けてから手抜き工事が発覚するという事例も少なくありません。
車庫スペースと申請しておきながら居住スペースに勝手に変更し、違法に賃料を取るなどの問題も実際に起きています。
昭和から平成にかけてこのような悪質な建築は盛んにおこなわれており、今でもその時期に建設された物件の多くは違法建築物件ではないかと言われることもあります。
法の改定によるもの
その建築物を建てたときには何の問題もなくても、後に法律が改定されるケースもあります。
防火性、防音性、景観、採光、建ぺい率など、さまざまな項目が常に変更されています。
法律が改定されればその新しい法律に則った建築物を建てなければなりませんが、改定前に建築された物件も本来ならリフォーム、改築をして新しい基準に合わせる必要があります。
ですが個人宅に住んでいる方全員が常に建築基準法をチェックし、理解できるわけではありません。多くの場合は改築はせずにそのまま住み続けてしまうでしょう。
事故や災害時に危険な目にあう可能性が高くなるといった問題だけでなく、その家を売ろうと思ったときに現在の法律に違反している物件は売値がつきません。改築してから売りに出さなければならず、その分売却にも費用がかかります。
個人のDIYや増築によるもの
建築に関する法律に明るくない個人がDIYをしたり、地元の工務店に増築を依頼するなどを繰り返した結果違法建築物件になってしまうというケースもあります。
DIYは人気も高くホームセンターに行けばさまざまなアイテムを揃えられます。中にはウッドデッキやガレージなどをDIYする人もいます。
ですがウッドデッキやガレージ、物置などは、大きさや高さによっては建築物扱いとなり、役所に申請をしなければなりません。申請をしたとしても土地面積に対して建築物が大きすぎる場合は許可されません。
知らずに勝手に物置やガレージ、カーポートなどを設置してしまった場合、行政処分や勧告があり、無視していると罰せられます。
また、少しずつ増築を繰り返している場合は知らず知らずのうちに違法になっている可能性もあります。工務店ではいちいち法律違反かどうかをチェックしてくれないので、不安な場合は別途建築士事務所などに相談する必要があります。
違法建築の持つリスク
違法建築物件はコストや期間がカットできる、利回りが高いといった理由からかつては建築業界で横行していました。
ですが違法とされるにはそれだけの理由があります。
違法建築にはどんな問題、リスク、デメリットがあるのか、建築業界で今後長く活動するためにも必ず理解しておきましょう。
入居者が安全、安心に暮らせない
建築基準法はその建築物に住む人、仕事をする人、その施設を楽しむ人などが安全に過ごすために考えられているものです。この法律を違反するということはその人々の命の安全を脅かすということです。
例えば大きな地震があった際、建築基準法を遵守している物件なら多少の揺れだけで済んだとしても、建築基準法に反している物件だと基礎から建築物が倒壊し、大事故につながります。
火災についても同じことが言えます。大火災が発生した後の調査によって違法建築が発覚したというケースは少なくありません。
このように、建築物のせいで本来なら失われずに済んだ命さえ奪う可能性もあります。
購入時に銀行融資がつかない
違法建築物件は現在でも数多く存在しています。
あとから発覚したものの住み続けていたケース、法改定後も改築せずに済み続けたケース、違法増築をしたまま住み続けたケースなどがあります。
このような建築物は売りに出されることもありますが、非常に金額が安いです。違法建築物件を好んで買いたがる人は少ないためです。
ですが、中には違法建築物件を購入した後に改築して住みたいという人もいます。
家を購入する際は銀行が融資をしてくれることも多いですが、違法建築物件に対しては銀行の融資は期待できません。
もちろん、金融機関以外からの融資ならしてくれる可能性は高いです。ですが金利が高く、長く返済に苦しむことになるかもしれません。
いくら安くてもキャッシュで支払える金額ではない建築物も多いため、余計に買い手が見つかりにくくなってしまいます。
行政からの勧告、指導
違法建築が発覚した場合、行政に改築、撤廃などを勧告されます。
どんなに個人の住居の増築であっても近隣からリークされて違法建築が発覚することは珍しくありません。
行政から指導が入り、きちんと確認をした上で法律違反が発覚すれば撤去が命じられます。
また、その建築物を建てた建築事務所も指導を受けることになります。悪質な場合は業務停止命令が下されることもあり、今後の活動に大きく影響します。
売却しにくい
違法建築物件は所有者にとってもリスクが高いです。事故に遭いやすい、被害が大きくなりやすいといった点だけでなく、売却しにくくなるというデメリットもあります。
前述のとおり、違法建築物件を購入したいという人に対して銀行は融資をしません。そのため「それなら別の物件を探そう」となるのが一般的です。
マイホームを手放すことになった際、法的に問題があると発覚したが故にまったく価値のつかないものになってしまったというケースは珍しくありません。
結局改築や解体に莫大な費用をかけてから売却し、購入が決まったとしても出費の方が大きかったというケースも多いです。
よくある違法建築の実例5つ
ここで、よくある違法建築の実例を見てみましょう。
違法建築物件は今でも多く存在しています。上記で紹介したようなさまざまなリスクを抱えているため、発覚次第改築、撤去など適切な対応をしなければなりません。
また、今後新しく建築する場合においても法律違反にならないように設計を考える必要があります。
下記のような実例はやってしまいがちな違反行為ですので、くれぐれも注意して計画を進めていきましょう。
建ぺい率をオーバーしている
違法建築物件になりやすいのがこの建ぺい率のオーバーです。
建ぺい率とは、敷地面積に対する建築面積のことです。
この建ぺい率は全国一律ではなく、市区町村や自治体によって詳細に定められています。広いエリアに対応している建築事務所の場合はまず建築物を設計する地域の建ぺい率を確認しなければなりません。
建ぺい率は、建物面積を敷地面積で割った数字を示します。
建築した時点では建ぺい率の基準以内に収まっていたとしても、後に大きなガレージや物置など、建築物に該当するものを敷地内に建ててしまうことで違法建築物件となるケースも多いです。
彩光不良である
建ぺい率オーバーの次に多いのが彩光不良による違法建築物件です。
現在の建築基準法では建物に対して7分の1以上の大きさの窓を設置することが義務付けられています。
彩光は暮らしには直接影響がないと思われがちですが、日光が差し込まないことで日中も暗い中で生活しなければならないのは精神的にも大きな負担となります。医学的にも彩光の重要性は認められています。
また、風の通る窓がないと湿気がこもって家具や家電製品などに悪影響が出る、日中から照明やエアコンをつけなければならず電気代が高くなるといったデメリットもあります。
彩光の基準をクリアしていても、近くに大きな建物ができた、となりの敷地との距離が短いために窓はあるのに光が差し込まないなどのケースもあります。
彩光の問題は解決するのが非常に難しいです。他の建物が邪魔をしている場合はその建物の所有者に相談しなければなりませんし、改築しようにも窓を新しく設置したり窓を大きくするのは現実的ではありません。
そのため違法建築物件とは理解しながらもそのまま住み続けている人は多いです。
違法増築を繰り返している
10平方メートル以上の増築をおこなう場合は、申請をしなければなりません。この申請をしないまま増築をおこなうと違法建築扱いになります。
違法建築が発覚すると行政から勧告、指導が入り、悪質な場合は取り壊し命令が下されます。
ですがそもそも申請をせずに増築しているため行政が違法な増築に気づきにくく、発覚しにくいという問題もあります。違法な増築と理解しながらも気づかれなければ問題ないと思い黙っている施工主も少なくありません。
近年は個人でも簡単にDIYでガレージや物置などを増築できるようになったため、知らず知らずのうちに違法建築になっている可能性は高いです。
また、建築事務所や工務店が違法な増築であると理解しながら黙認して増築に携わっているパターンもあります。建築基準法をよく理解しているため、その穴をすり抜ける方法も知っています。
天井が高すぎるロフト
賃貸物件だけでなく、狭い土地に建てられる物件にもロフトは人気です。狭いスペースを有効活用できるため、日本の土地にも適した設計と言えるでしょう。
一方で、ロフトには天井の高さに制限が設けられています。
ロフトの天井は1.4m以下でなければならないのですが、この基準に違反している物件は意外とたくさんあります。
また、注文住宅の場合は敷地を有効活用するためにロフトを依頼する施工主もいます。ですがロフトはそのフロアの床面積の半分以下の面積でなければならないという決まりもあり、施工主の要望に沿えない場合もあるので注意しましょう。
界壁に問題がある
賃貸物件などの、部屋と部屋の間の壁のことを界壁といいます。この界壁は防音性を高めるだけでなく、万が一の火災の際にも火が燃え広がるのを防ぐなどの役割を担っています。
ですがこの界壁の間は取り壊したりしなければ中身が見られることもなく、建築をする側としてはもっとも手を抜きやすい部分です。
防音や防火性のある素材を挟まない、ゴミをそのまま放置するなどの手抜き工事をおこなう建築事務所や工務店も残念ながら少なくありません。
当然、隣や上下の住人の生活音がよく響く、大火災につながる恐れがある、害虫や害獣が発生する原因になるなどの問題が起きやすくなります。
違法建築に与えられる行政処分や罰則
違法建築が発覚するとどのような処分、罰則が科せられるのかについて見ていきましょう。
違法建築は人命にも関わる非常に重要な違法行為です。発覚すると罰金や懲役が科せられるだけでなく事務所や氏名なども公表され、仕事の量や信頼度にも直接影響します。
法律に則った誠実な建築をおこなうことが、長く業界で活躍し続けるために重要です。
行政処分
違法建築が発覚すると国土交通省から処分が下されます。この行政処分の内容は主に免許の取り消し、業務の停止、そして文書注意です。
これらのいずれの処分を受けたとしてもその違法建築に携わった建築士の氏名や建築内容などは公開されます。
一定期間の免許停止、業務停止命令が下されるとその間の仕事や収入は当然得られず、その後も仕事を得にくくなります。
罰則
法律違反を繰り返し、その行為が悪質だと判断された場合は行政からだけでなく違法行為に罰則が科せられることもあります。
懲役や罰金といった非常に重い罪となり、当然前科がつくことになります。
内容に不服がある場合は弁護士をつけて国や訴訟相手と戦うことになります。
懲役や罰金は違法行為によって変わる
悪質な違法建築が発覚した場合は刑事罰が科せられることもあると紹介しました。
その内容は一律ではなく、その内容や悪質さによって変動します。
建築士が無断で名義を貸した、建築士が虚偽の証明を繰り返していたなどの場合は1年以下の懲役、または100万円以下の罰金が科せられます。
大規模な建築工事に関して不適切な建築をおこなった、施工停止命令が下されたにも関わらず工事を続けたなどの場合は3年以下の懲役、または300万円以下の罰金が科せられます。
個人ではなく法人ぐるみで違法行為をおこなっていたことが発覚した場合、1億円の罰金が科せられるケースもあります。
事務所や氏名も公表される
違法建築をした建築士や建築事務所、工務店などは、その事務所の名前、建築士の氏が公開されます。
これは建築業界で活動をする上で大きな障害となります。
個人でも簡単に違法建築をした建築士は調べられますので、契約が決まりそうになったところで施工主がその建築士の過去の違法行為を知って契約に進まなかったということもあります。
さらに転職の際にも、過去に違法建築をしたという事実があるだけでどんなに実務経験が長い建築士でも不採用になる可能性はぐっと高くなります。
目先の利益や楽さだけを求めて違法建築をおこなうとこのように将来大きな打撃となる可能性もありますので注意してください。
違法建築について理解しておこう
違法建築について、その定義から実例、実際の罰則などについて紹介しました。
建築基準法は人の命を守るための非常に重要な法律です。絶対に違法行為をおこなわないように、きちんと法律の知識を身に着けることが大切です。
今後建築業界で長く活動し続けるなら常に改定される可能性のある法律もチェックしておかなければなりません。
また、自治体やその地域ならではの条例なども詳しく理解し、建築、設計に役立てましょう。
デザイン性や快適性だけでなく、この基礎となる法律の部分もしっかり遵守することで、やっと施工主を満足させられる建築物を作り上げることができます。