建設業の中でも地域密着型で小規模な印象の強い工務店について、その仕事内容や将来性について解説します。
工務店の詳しい仕事内容をチェックし、さらに工務店の種類を確認した上で、自分はどんな働き方をしたいのか、どんな工務店で働きたいのかを考えましょう。
工務店や建築業界の将来性、キャリアアッププランについても紹介しますので、今後の参考にしてみてください。
工務店の定義
建築業にはゼネコン、ハウスメーカー、工務店などさまざまな会社があります。
その中で「これが工務店」というはっきりとした定義はありません。
ですが、それぞれの会社の中でも比較的規模が小さく、地域密着型で住宅の建設をメインにおこなう会社を工務店と呼ぶことが多いです。
実際の施工だけでなく注文住宅の設計を手掛けたり、その工務店オリジナルのモデルを設計したりすることもあります。
家作りにハウスメーカーか工務店のどちらを選ぶべきか迷う方も多いですが、工務店を選ぶメリットとしては費用を抑えられる、より自由度の高い設計を依頼しやすいといった点があります。
反対にデメリットとして規模が小さいため長期保証をつけても倒産の可能性がある、職人によってクオリティの差が大きいといった点があります。
工務店の仕事内容
工務店の仕事内容について紹介します。
工務店は住宅を建てるだけでなく、営業、設計、事務などの仕事もあります。
小規模な工務店の場合は一人が複数の業務をおこなうことも珍しくありません。その分負担や覚える仕事が増えますが、いずれも今後建築業界で活躍するために役立つ仕事内容ばかりです。
営業職
中規模から全国規模の工務店では営業職が設けられています。
住宅を建てたいと考えている方に向けてその工務店のメリットや家作りについてのアドバイスをするのがメインの仕事です。
資材を販売する業者や下請けの業者とやり取りをしてよりお得に家を建てられるように奔走するのも営業職の重要な仕事です。
ですが実際の工務店では営業職のみをするスタッフを置いているところは少ないです。
地域密着型の小規模な工務店の場合は来店するお客様に対してのみ建築士やスタッフが説明を兼ねた営業をおこなうことがほとんどです。
工務店はもともとの従業員数が少なく、営業職のみをおこなうスタッフを配置する余裕がないためです。そのため、設計職、施工管理として工務店に就職した場合でもある程度お客様とコミュニケーションを取る能力や明確に説明をする能力などは求められます。
設計職
工務店は建設のみだけでなく設計をおこなうという特徴もあります。
より小規模な工務店の場合は設計スタッフを配置せずに施工管理のみをおこなうこともありますし、施工管理と設計を同じスタッフに任せているところもあります。
工務店の設計職はその土地の地形や気候などを考慮した上でお客様の要望を取り入れた住宅の設計をおこないます。
工務店の場合はビルやマンションではなく一戸建ての住宅がメインになりますので、複雑な設計をおこなう必要はありません。費用を抑えられる既存モデルを用意している工務店もあります。
設計職は住宅の設計をおこなうだけでなく、そのために必要な申請、書類作成などもおこないます。また、営業担当者を配置していない工務店の場合は設計職のスタッフが直接お客様と打ち合わせやプレゼンをすることがほとんどです。
施工管理
工務店のメインの仕事がこの施工管理です。
住宅を建てるまでのスケジュールを立てたり変更したりといった工程の管理から、コストパフォーマンスについて考える原価の管理、当初の設計のままの品質を維持する品質管理、さらに従業員や職人を怪我や事故から守るための安全管理といった4つの事柄の管理をおこないます。
小規模な工務店ではこの施工管理をおこなうスタッフがその他の業務も兼任することが多いです。
住宅の施工がメインの工務店では二級建築士の資格で充分に活躍できますが、アパートやマンション、ビルなどの設計にも携わる場合は一級建築士の資格が必要です。
その他、現場を監督するために必要な国家資格や許可などもあります。これらは実務経験がある程度なければ取得できないものもありますので、現場で経験を積む必要があります。
事務職
工務店で事務職のみのスタッフを置いているところは少ないですが、営業と兼任したり、電話やメールなどの問い合わせに対応したり、申請書類の作成や経理、総務といった仕事をおこないます。
他の業務がメインでそのすき間に事務の仕事を設計職や施工管理職のスタッフがおこなうことも多いです。
建築業界の中でも事務や営業は国家資格がなくても働ける職種として人気ですが、だからといって知識がまったくない状態では就職や転職は難しいかもしれません。
建築に必要な書類や申請はたくさんあり、お客様とのコミュニケーションも重要な仕事です。
工務店の種類を確認
工務店と一口に言っても、その種類は複数あります。
工務店の種類を今一度確認し、自分が働きたいのはどんな工務店なのかを考えてみましょう。
地域密着型の工務店
一般的なのが地域密着型の工務店です。工務店と聞いて真っ先にこのような店舗を思い浮かべる方は多いでしょう。
従業員が少なく、営業から施工まですべて一人でお客様に対応することも珍しくありません。
小規模な工務店の場合は施工管理のみをおこなっていることもあります。
その他リフォームの相談を受け付けたり、他の大規模な会社から下請けの仕事を得たりするのもこのような地域密着型の工務店の仕事です。
デザインまで請け負う工務店
小規模ではありつつもデザイン性の高い住宅を提供している工務店も最近は増えてきています。
建築会社やハウスメーカーなどで実績を積み独立して工務店を始めた店舗などはとくにデザインが売りのことも多いです。
注文住宅の依頼を受け付けている、独自の快適な生活ができるデザインを提供している工務店であり、ある程度のスキルやセンスが求められます。
こちらも小規模な工務店であることが多く、採用枠が少ないだけでなくカバーしなければならない仕事も多いです。
下請けが中心の工務店
設計や営業はおこなわず、下請けの仕事をメインに受け付けている工務店もあります。
小規模な工務店の場合はほとんどがこのようなタイプです。
ハウスメーカーの住宅の施工管理をおこなうことが多く、独自に契約をしていることもあります。
ハウスメーカーの依頼件数次第で仕事の量も増減しますので、将来性を見極めるのが難しいというデメリットがあります。
フランチャイズの工務店
フランチャイズ型の工務店もあります。
全国どこで依頼しても同じクオリティの家作りができるハウスメーカーと違い、工務店はその工務店に勤める従業員、設計スタッフ、職人次第でクオリティが大きく変動します。
独自の効率的な設計なども研究しにくく、かえって工期が伸びてしまう、費用が高くなってしまう、売りにできるポイントがなくお客様に選ばれにくいなどのデメリットもあります。
それらのデメリットを払拭してくれるのがフランチャイズへの加盟です。
フランチャイズに加盟することで住宅作りのノウハウを簡単に教えてもらえるだけでなく、ハウスメーカーのようにマニュアル化された効率的で安心安全な住宅作りができます。
全国的に知名度の高いフランチャイズ会社と契約をすればお客様からの信頼度も上がり、契約を取りやすくなるでしょう。
その分契約料や月額料金、資料費などを支払わなければなりませんが、一定の契約期間を経過すると契約切れになり、フランチャイズ加盟で学んだことを活かしつつより自分の得意に特化した設計、施工ができるようになります。
工務店の将来性について考えよう
工務店に就職したい、工務店を立ち上げたいと考える前に、工務店や建築業界全体の将来性を考えてみましょう。
不景気が続く日本でどのように働けば長く業界で生き残っていけるのかを考えることは大切です。
住宅業界全体が厳しい状況
工務店だけでなく建築業界は厳しい状況が続いています。
少子高齢化、晩婚化、賃金の低迷などが原因で家を作りたいと考える若い世代が少なくなっており、その傾向は今後も長く続くことが予想されます。
大規模な建築会社の場合はオフィスビルやホテル、商業施設、テーマパークの施工管理、さらには海外への事業の拡大などを狙えますが、小規模な工務店の場合事業を拡大するために必要な人件費や広告宣伝費などの資金繰りができません。
大手のハウスメーカーや建築会社ですら吸収合併や倒産するケースも少なくなく、小規模な工務店の場合経営が厳しくなっていく可能性が高いです。
リフォームやリノベーションに注目
新規の住宅の施工管理の仕事が減少することが予想される建築業界において、リフォームやリノベーションに注目が集まっています。
すでにある住宅をより快適に過ごせるようにするリフォームや、古い家を購入して改築することで低コストでマイホームを手に入れられるリノベーションは幅広い世代から人気があります。
中にはリフォームを専門にしている工務店やデザイン性の高いリノベーションで話題となった工務店もあります。それほどこれらの将来性は高いです。
就職したい工務店は将来を見越してリフォームやリノベーションにも着手しているか、今後工務店を立ち上げる際はこれらをどのように業務に取り入れていくかを考えてみてください。
コロナにより戸建て住宅の需要がアップ
建築業界は全体的に不景気ではありますが、新型コロナウイルスの影響によって今戸建て住宅が人気の傾向にあります。
リモートワークが増え、働き方も大きく変わっていく中で、自宅での過ごし方にこだわりたいと考える人が増えてきたためです。
自宅にワークスペースが欲しい、集中できる場所とリラックスできる場所を分けたいといった場合マンションよりも戸建て住宅の方が間取りの自由度が高いです。
さらに、リモートワークが増えると通勤のために利便性の高い場所に住む必要性が低くなります。そのため都心部に高級なマンションを購入するよりも、郊外で同じ価格かそれ以下の価格でこだわりの詰まった家を建てたいと考える方も増えてきています。
戸建て住宅を得意とする工務店やハウスメーカーの需要は伸びていくかもしれません。
工務店で働きながらキャリアアップするには?
工務店で働き続けるには将来性をしっかり見極める必要がありますが、同時にキャリアアップについても考えていかなければなりません。
国家資格を活かした仕事をしたい、もっと大規模な施工に携わりたい、収入をアップしたい、独立したいなど、それぞれのキャリアアップ方法について考えてみましょう。
国家資格を取得する
キャリアアップの方法としてまず抑えておきたいのが国家資格です。
工務店の仕事の中には無資格でもできるものもありますが、基本的には建築士などの国家資格が必要です。
少ない従業員で経営を続けている工務店が多い中、無資格だと採用に至らないことも多いです。
建築士、建築施工管理技士、その他建築に関する国家資格があればスキルの裏付けにもなり、就職や転職に有利です。
また、工務店では資格を取得している方に対して資格手当てが出たり資格取得のサポートをしてくれたりするところもあります。
国家資格があればできる仕事にも幅が増え、より多くの仕事を任せられるようになるためです。
キャリアアップを狙うならまず国家資格の取得から始めましょう。
1級の資格の必要性を見極める
建築士や建築施工管理技士などの国家資格は1級を取得すると携われる施工管理の規模に上限がなくなります。
そのため、大規模なビルや商業施設などの施工管理ができるようになります。
ですが小規模な工務店の場合住宅の施工管理がメインですので、必ずしも1級の資格が必要なわけではありません。
また、1級の資格を取得するには一定以上の実務経験も必要です。
今後建築業界で大きくステップアップしたい、大規模な建築もおこなう工務店で働きたいというのであれば1級の資格取得を急いだほうがいいですが、そうでない場合は無理に取得する必要はありません。
ですが工務店によっては求人の募集要項に1級の資格所有者という条件が付けられていることもありますので注意しましょう。
施工管理の実務経験を積む
転職するにしても独立するにしても、まずは現場での実務経験を積むことが大切です。
資格を取得しているだけではわからないことや見えてこないこと、効率的な働き方や現場の職人、お客様とのコミュニケーションなどはたくさんあります。
また、一定年数以上実務経験を積むことで1級の受験資格が与えられる国家資格もたくさんあります。
工務店に就職してから短い期間で転職や独立を考えても、経験の浅さからなかなか採用されなかったり、独立できても仕事を得られなかったりします。
まずは現場での経験をしっかり身に着けて、実際に転職した人、独立した人のスキルやポイントも学びつつ将来に向けてのプランを考えましょう。
転職してキャリアアップを狙う
キャリアアップ方法として選ぶ人が多いのが転職です。
今よりもいい条件の工務店に転職することで、より自分のやりたい仕事に近づけたり収入がアップしたり、労働環境がよくなったりします。
工務店からハウスメーカー、建築会社に転職する人も多いです。
転職はこのようにキャリアアップには役立ちますが、転職先の将来性もよく見極める必要があります。全国規模のハウスメーカーや大規模な建築会社だから安全ということはない時代です。
また、請ける仕事の規模が大きくなると現在持っている資格では補えない可能性もあります。大規模な建築物の施工管理をおこなう場合は一級建築士の国家資格がマストですので、持っていない方はまず資格を取得してから転職を考えることをおすすめします。
独立してキャリアアップを狙う
キャリアアップ方法として独立を考えている方も多いです。
独立すれば自分のやりたい仕事に特化できる、自分のライフスタイルに合わせた働き方ができるなどのメリットがあります。
一方で業界全体が不景気な中で成功するのは非常に難しいのも事実です。
デザインに特化している、知名度の高い建築士が在籍しているなどの強みがなければお客様を呼び込むことはできません。独立する場合は独立後のコンセプトを明確にする必要があります。
また、工務店に勤めている場合は必要のなかった経営についての知識も求められます。税金の処理や従業員への賃金の支払いなど、お金についての正しい知識も得なければなりません。
独立するためには豊富な知識と経験が必要になりますので、現在働いている工務店でしっかり実務経験を積んだ上で独立に踏み切ることをおすすめします。
工務店の仕事内容や将来性を見極めよう
工務店の仕事内容、種類、さらに将来性やキャリアアップ方法などについて解説しました。
工務店と聞くと街の小規模なお店をイメージする方が多いですが、他にもさまざまなタイプがあります。
自分はどんな風に働きたいのか、数ある建築会社の中でなぜ工務店で働きたいのかなどを明確にし、就職や転職に役立ててください。
工務店だけでなく建築業界は不景気が続いていますが、その中でどのように生き残るかを考えることがキャリアアップにも大きく役立ちます。