建築業界で活躍する建築士は、どんな仕事をしているのでしょうか。
打ち合わせや設計などさまざまな仕事が多く、建築士の一日はとても忙しいです。実際にはどんな仕事をどんな流れでおこなっているのかについて詳しく見ていきましょう。
建築士の具体的なキャリアプランや独立方法についても詳しく解説します。
建築士の一日の仕事内容の流れ
建築士の一日の仕事内容の流れを紹介します。
朝のルーティーンから打ち合わせの内容など、忙しい建築士の一日を簡単にまとめました。
建築事務所や働いている場所、請け負っている仕事の内容によっても仕事内容は変わりますので、おおよその流れであることを理解しつつチェックしてみてください。
朝のルーティーン
まず出勤すると、朝のルーティーンをこなしていきます。
メールや書類のチェックをし、必要であればそれぞれの返信をおこないます。クライアントだけでなく業者や社内とのやり取りも多く、メールの返信もてきぱきとこなさなければなりません。
メールの文面を正しく読み取る力、的確に返信する力も求められます。
クライアントとの打ち合わせ
午前中にクライアントとの打ち合わせが入ることが多いです。
事務所で打ち合わせをすることもありますが、クライアントの家やオフィス、施設に移動して打ち合わせをおこなうことも多いです。
具体的な建築の相談から設計の確認、申請書類の作成など、打ち合わせ内容は多岐に渡ります。
複数のクライアントのところにいかなければならない日もあり、それぞれに正確な対応をしなければなりません。
昼の休憩時間にも仕事をすることも
打ち合わせが多い建築士の仕事は、昼休憩の時間が決まっているわけではありません。
ときには移動時間に休憩を取らなければならないこともあります。
飲食店に入ったり休憩室で休んだりするのではなく、移動中の電車や車の中でお弁当やコンビニ食で簡単に済ませてしまうという方も。
休憩中にも打ち合わせの確認や報告書の作成、資料の作成、次の打ち合わせの確認などの仕事をこなさなければならないときもあります。
クライアントや業者との打ち合わせ
お昼以降もクライアントとの打ち合わせや、さらに業者との打ち合わせが入ります。
建築士の仕事は非常に打ち合わせが多いので、コミュニケーション能力やとっさの判断力などが求められます。
打ち合わせの結果から設計、デザインを考えたり書類や資料を作成したりします。
閑散期には午後からは設計に専念できることもありますが、年末や年度末の繁忙期にはこのように終業時間まで打ち合わせが続くことも珍しくありません。
夕食後にも仕事があることも
終業時間を過ぎても仕事が終わらない場合は夕食を挟んでもう一息仕事を続けます。
夕食も簡単に済ませてしまう方が多いです。
社内でのミーティングも兼ねて飲食店で食事をしたり、昼はハードだった分夜はゆっくり休憩するなど、過ごし方は建築士によってさまざまです。
その事務所によっても夕食時の過ごし方は多岐に渡ります。
社内での打ち合わせや設計
これまでクライアントと打ち合わせをおこなった結果を踏まえて社内で打ち合わせをしたり報告をしあったりして、事務所内のスケジュールを調整していきます。
さらに設計に取り掛かるのも終業時間以降になることもあります。
終業時間が過ぎていると事務所に電話がかかってこなくなるため、終業時間後の方が設計に専念できるという建築士も多いです。
設計は自宅でもできるという人が多いため、残業をするのではなく自宅に持ち帰って作業を続ける場合もあります。
退勤時間が遅くなることも多い
繁忙期には複数の案件を抱えることも珍しくなく、退勤時間が遅くなることも多いです。
建築業界は残業時間の多さが問題となっていますが、建築士が少ないこと、そもそも若い働き手が少ないことなど、問題を解決するためには長い時間がかかりそうです。
それでも働き方改革が進んでおり、デジタルソフトの導入などで業務の負担を軽減している事務所も多いです。
翌日もしっかり仕事をがんばれるように、しっかり休息を取ることも建築士にとっては大切です。
建築士は移動が多かったり設計に体力や集中力を使うハードな仕事です。体も心もしっかり休める独自のルーティーンを持っている建築士も多いです。
休日も建築のインプットや勉強に費やす
建築士は休日も建築についてのインプット、勉強に多くの時間を費やしている方が多いです。
新しい建築物を見学したり、美術や芸術に触れてインスピレーションを得たりといったことも建築士としての成長をサポートしてくれます。
建築の技法や法律は日々進化しています。国家資格を取得したからと満足せずに、日々建築に触れ続けることも大切です。キャリアアップのために資格の勉強をするという建築士もいます。
建築士の4つのキャリアプラン
建築士にはさまざまなキャリアプランがあります。
どのようなステップを踏んでキャリアアップしていくケースが多いのかを見ていきましょう。
建築業界は少子高齢化が進む影響で不景気が続いています。今後も長く建築業界で活躍し続けるためには、常にキャリアアップを目指して努力を続けることが大切です。
二級建築士から一級建築士を目指す
建築士のキャリアプランとして第一に考えたいのが二級建築士から一級建築士への昇格です。
二級建築士も立派な国家資格であることに変わりはありませんが、対応できる建築物の規模に制限があります。
二級建築士は戸建てかごく小規模の施設程度の設計、管理しかおこなえず、仕事の幅を広げたいときに障害となります。
一級建築士になるとこの制限がなくなり、大規模な建築物の設計、管理に対応できます。
キャリアアップのための転職を考える際にも、より条件のいい企業は応募条件として一級建築士の資格所持者など、限定されていることが多いです。
社内での昇格を目指すにしても、転職するにしても、現在二級建築士の資格しか持っていない方は一級建築士を目指しましょう。
より条件のいい企業・大企業を目指す
同じ建築士の仕事をしていても収入に大きな差があるのは、勤めている会社が請け負う依頼の規模の違いによるものです。
大きなマンション、オフィスビル、商業施設、宿泊施設などの建築をおこなうような中小のゼネコン会社、トンネルや橋、空港など公共施設の建築に携わることもある大手のゼネコン会社、さらに海外でも事業を行う外資系、グローバル系の建築会社などは、一件一件の依頼の金額が高く、その分従業員の収入も高額になります。
今の収入に満足していない方、今の働き方では自分のやりたいことができないと感じている方は転職を検討しましょう。
条件のいい企業や規模の大きな企業になると応募条件も厳しくなり、一つの採用枠を奪い合うライバルも多くなります。
転職に備えて着々と資格を取得する、実績を積むなどの準備が必要です。
日本の建築業界は少子高齢化の影響により今後も不景気が続くと言われています。国内での仕事だけで満足するのではなく、外資系、グローバル系の企業へ転職することで、国内だけでなく海外の事業にもチャレンジして仕事の幅を広げることができるでしょう。
異業種への転職を目指す
建築士の仕事は体力、精神力、忍耐力が必要で、残業や休日労働も多いハードな仕事です。
建築士としての仕事だけでなく、大企業であれば社員同士の足の引っ張り合いなどに巻き込まれ、人間関係が強いストレスになってしまうことも。
働き続ける内に体を壊してしまう、心の病気になってしまうという方も少なくありません。
建築士として働き続けることに限界を感じたら、異業種へ転職するという方法もあります。
まったくの未経験の分野にチャレンジするのではなく、建築士として培ってきた知識や経験を活かせる仕事がいいでしょう。
建築士の資格を所持している人は少ないので、職種や業種によっては重宝されます。
設計や管理の仕事ではなく営業や販売の仕事、不動産の仕事、デベロッパーの仕事など、建築士の経験を活かしながら働ける仕事はたくさんあります。
これまでよりも自分の働きやすさや快適さを優先した転職先を探すのもおすすめです。
独立する
一級建築士の資格を持っている、建築士としてある程度のキャリアを積んでいる方は独立を考える方も多いでしょう。
独立すれば企業で働くよりも自由な働き方を選択できます。
依頼を請ける仕事の規模や対応するエリア、建築のデザイン、施工のスケジュールなどを自分で決められます。
一方で独立すればミスもすべて自分の責任です。一度の失敗が信用を失うこともあるので、これまで以上に懸命に仕事に励まなければなりません。収入も企業に勤めているよりは不安定になりますし、大企業から独立する場合は収入が激減してしまう可能性もあります。
お金の管理やスケジュールの管理などもすべて自分次第ですが、そちらの方が向いているという方もいます。
自分はこのまま企業に勤め続けた方がいいのか、独立すべきなのかを考えつつ、将来のキャリアプランを形成していきましょう。
建築士が活躍できる場所はたくさんある
建築士の資格を持っているとさまざまな場所で活躍できます。
これからの就職や転職を考えるとき、どんなところでどんな仕事をしたいのかを考えてみましょう。
同じ建築士の資格を持っていても、働く先によって仕事内容は大きく変わります。
ハウスメーカー
ハウスメーカーは全国規模の大手企業も多く、安定した仕事をしたいという方に向いています。
依頼は基本的に戸建て住宅や小規模な施設がメインです。
注文住宅をクライアントと一から作り上げる仕事もあれば、既存のデザインの住宅を建設するだけの仕事もあります。
デザイン性やセンスを重視する仕事は少ないですが、大企業に就職すれば最新の建築技術を学び続けることができるでしょう。
海外にも事業の幅を広げているハウスメーカーも多く、不景気と言われている建築業界でも長く働くことができます。
工務店
工務店はほとんどが地域密着型の小規模な経営を続けています。
少子高齢化が進む日本において新築住宅の需要は減っており、今のままの経営を続けていると成り立たなくなってしまうかもしれません。
一件一件の依頼の金額も低く、高収入は期待できません。
ですがその分クライアントに寄り添った仕事ができる、臨機応変な仕事ができるといった魅力もあります。
出世よりも自分が好きな仕事、接客に集中したいという方に工務店はおすすめです。
新築住宅の需要は低くなりつつありますが、リフォームやリノベーションの需要は高まっています。今後も長く建築業界に身を置きたいのであれば、このような新しい事業も積極的に取り入れていく姿勢が大切です。
設計事務所
設計事務所は、建築のすべてをおこなうのではなく設計、デザインのみをおこなう事務所です。
一般の戸建て住宅だけでなく商業施設や宿泊施設、テーマパークなど、ユニークな建築物に携わることもできます。その分建築士一人ひとりのセンスが求められます。
これまでにコンペなどで優勝した実績がある、デザインを高く評価されたことがあると言う方にとっては自分のセンスを活かして活躍できる職場となるでしょう。
通常の建築事務所で実績を積み重ね、その後設計専門の事務所に独立するという建築士も多いです。
将来このように設計事務所を立ち上げたいと考えている方は、最初から設計事務所で働きその仕事や経営の方法を学ぶのもおすすめです。
不動産会社
建築に直接携わるのではなく不動産の観点から建築士の資格を活かす方法もあります。
不動産の売買や賃貸には、建築に関する知識が役に立つシーンが多いです。
建築士の資格に加えて宅地建物取引士の資格など、不動産の仕事に役立つ資格も取得するとよりできる仕事の幅も広がります。
一般的な不動産会社だけでなく、大規模なデベロッパー会社に就職すれば大手ゼネコンと同じくらい高収入を期待できます。
建築士の独立方法
建築士の独立方法について、おおまかなステップを確認していきましょう。
独立は、したいと思ってもすぐにできるものではありません。独立を目指すのであれば着実に準備を進め、万全の状態で独立できるようにしておくことをおすすめします。
独立を目指すのは30代ごろから
建築士として独立を目指すのは30代ごろからという方が多いです。
20代の内に資格を取得し、建築会社で実績を積み、経営方法を学び、人脈を広げていきます。
仕事に慣れてきてある程度大きな仕事もこなせるようになってきたら、次のステップとして独立を考えていきます。
もちろん独立する年齢に制限はありませんが、早くから独立を考えているのであれば早めに行動するのも一つの手です。年齢を重ねてからだと次のステップに移りにくくなったり、企業で役職がついてなかなか独立しにくくなってしまいます。
独立した後万が一失敗してしまったとしても、若い内であれば再就職もしやすいです。
充分な実績がある、ある程度の人脈を確保していると思えるのであれば、独立という新たなステップに挑戦する準備を進めてもいいでしょう。
大きな仕事、実績を重ねていく
独立した建築士がすべて成功できるわけではありません。
独立後またその事務所で実績がない場合、クライアントはその人の過去の実績で判断するしかありません。大きな仕事や実績がなければ信頼されず、新しい仕事を得ることはできないでしょう。
そのため、独立する前に現在勤めている会社で大きな仕事をこなしていく必要があります。
独立したときに実績として胸を張って主張できるような仕事がいくつあるかを考えてみてください。
また、独立するタイミングも大切です。現在企業に勤務している場合は、抱えている大きな案件を終わらせてから退社するのが基本です。建築業界は人脈が大切であり、信頼を裏切るような行為は後の仕事にも悪影響を及ぼします。
方向性をしっかりと定める
独立後どのような方向性で経営を続けるのかをしっかりと定めましょう。
デザイン性の高い戸建て住宅、リフォームやリノベーション、オフィスビルなど大規模な建築物など、方向性を定めることで営業先やスケジュールなどを考えやすくなります。
独立したての頃はとにかく仕事を得るのに精いっぱいになってしまう場合もあります。その中から、自分に合う仕事、依頼の多い仕事、高く評価される仕事を見つけていくのも一つの方法です。
あれもこれもと仕事の幅を広げすぎると反対に対応しきれなくなる、コンセプトがあいまいすぎて依頼しにくいイメージを持たれてしまう可能性もあります。
独立に必要な手続きをおこなう
独立の準備が整ったらいよいよ独立です。
退職手続きも済ませたら、独立に必要な手続きを始めましょう。
建築士事務所を新たに設立するためには登録の手続きをおこなわなければなりません。
建築士事務所協会に必要な書類を提出することで事務所設立の許可を得られます。この事務所登録は期間が定められており、5年が経過すると更新する必要があります。
更新を怠ったまま事務所として経営を続けた場合は罰金、または懲役が科せられます。建築士としての信頼にも関わる問題ですので、必ず更新をおこないましょう。
さらにこの登録をするためには管理建築士を一人以上確保しなければなりません。建築士として三年以上の実務経験があり、さらに管理建築士講習を受けた人が管理建築士として認められます。
事務所を設立する人自身を管理建築士とすることも可能なので、完全に一人で事務所を立ち上げる場合は事前にこの講習も受けましょう。
仕事を軌道に乗せる工夫をする
建築士事務所を立ち上げたら仕事を起動に乗せるまで依頼を獲得していかなければなりません。
最初から安定して仕事を得られる建築士はほとんどいません。収入が低く、不安定になることも予想して、貯蓄は十分にしておきましょう。
自宅を事務所代わりとすることで事務所の維持にかかる家賃や光熱費、家具、家電代を浮かせることも可能です。
仕事が安定するまではできるだけ出費を抑え、仕事に専念できるようにしましょう。
思うように仕事を得られない場合は営業方法を変える、広告を打つなどの工夫が必要です。
さらにインテリアコーディネーターや宅地建物取引士などの資格を取得し、別の仕事に役立てるのもおすすめです。さまざまな資格を取得することでより仕事の幅を広げられ、これまでよりも多くの仕事を得やすくなるでしょう。
建築士の仕事内容やキャリアプランを理解しよう
建築士の一日の仕事内容、キャリアプラン、そして独立するまでの流れについて解説しました。
国家資格である建築士の資格を所持しているとさまざまな仕事を請け負うことができますが、その分建築士の仕事内容は非常にハードです。
今のまま働き続けていていいのか不安、今よりもっと自由に働きたい、もっと高収入、高待遇を目指したいという方は、キャリアプランを形成して次のステップへ進む準備をしましょう。
転職や独立など、キャリアアップ方法は人によってそれぞれ合う合わないがあります。自分にはどんな道が向いているのかを考えてみましょう。