建築士は国が定めた国家資格の一つです。
建築はただ建物のデザインをするだけでなく、法律や防災、安全面などさまざまなことを考えながら設計しなければなりません。そのためには高い専門性が必要です。
建築業界で活躍するためには、国家資格であるこの建築士の資格を持っていなければなりません。
今から建築士を目指したいけど学校に行く時間やお金がない、独学で資格を取得したいという方のために、独学での取得は可能か、取得のための条件などについて解説します。
建築士資格は独学で取得可能
国家資格の多くはその専門の学科を卒業していなければ受験できないものが多いです。
建築士の仕事は専門知識が必要なため、専門学校、専門学科のある大学を卒業しなければならないと思っている方もいますが、実際はどうでしょうか。
建築士の資格取得の条件はさまざまありますが、必ずしも学校を卒業していなければならないというわけではありません。
条件を満たしていれば、独学でも建築士の資格試験を受験することは可能です。
どの建築士の資格を目指すべきか、どんな条件があるのかについて詳しく見ていきましょう。
独学の場合はまず二級建築士を目指そう
建築士の資格には一級と二級があります。
独学で建築士を目指す場合はまず二級の建築士資格の取得を目指しましょう。
一級は国土交通大臣が認可したもので、二級は都道府県知事が認可としたものという違いがありますが、わかりやすい大きな違いは対応できる建物の規模です。
二級の建築士の資格を持っていると、延べ床面積が500平方メートル以下の建物の設計ができるようになります。おもに戸建て住宅や、ごく小規模の施設を取り扱うことが可能です。
一級建築士の資格があると面積の制限がなくなり、大規模な建物の設計や管理ができます。その分資格取得の難易度も高くなります。独学で資格取得を目指すのであれば、まずは二級の取得を検討しましょう。
二級建築士資格の受験条件
二級建築士の資格を取得するためにはさまざまな条件があります。
一つ目は大学、短期大学で指定された科目を就学した者。この場合実務経験は必要ありません。
二つ目は高校や中学校で指定された科目を卒業した者。この場合卒業後3年間の実務経験が必要になります。
三つ目は都道府県知事が認める者で、この場合は各都道府県知事が定めた年数の実務経験が必要です。
そして四つ目が建築に関連する学科を卒業していない者で、この場合実務経験が7年必要です。独学で建築士の資格を取得したいのであれば、7年間建築業界で働く必要があります。そしてこの場合、国が認めた建築士事務所で働かなければなりません。
建築士資格取得のために必要な勉強時間
建築士資格の取得のために必要な勉強時間について解説します。
大切なのは勉強した時間ではなく勉強の質ではありますが、あくまでも目安としてお考えください。
資格取得のために必要な勉強時間は一級と二級でそれぞれ違うので注意しましょう。
二級建築士は1000時間程度
二級建築士を目指す方の中でも建築学科を卒業していない独学の方は、試験までに1000時間の勉強時間が必要です。
一日3時間程度で約一年間勉強を続ければ合格できる計算ですが、社会人として仕事と並行しながら3時間の勉強時間を作るのは大変です。平日は2時間、休日に5時間など、勉強する時間を調整して、続けられるペースを見つけていきましょう。
建築士事務所で働いておりある程度建築の知識がある場合はその半分の500時間程度でも合格できる可能性が高まります。
この勉強時間はあくまで目安であり、1000時間勉強したから大丈夫というわけではありません。毎日の勉強時間の他、移動時間に単語や法律を覚えるなど、ちょっとした日々の積み重ねが大切になってきます。
一級建築士は2000時間程度
独学で一級建築士を目指す場合は1000時間から2000時間の勉強時間が必要です。
一年間で一級建築士の合格を目指すのであれば一日あたり5時間以上の勉強時間を確保しなければなりません。
一級建築士を独学で取得するのは非常に難易度が高く、二年から三年ほどかけて準備をしていく方が多いです。
なんとなく仕事に役立ちそうだから持っておきたい程度の心持ちではモチベーションを維持できないかもしれません。
キャリアアップのため、転職のため、昇格のためなど、明確なモチベーションを作って勉強に挑みましょう。
建築士の学科試験の勉強方法
建築士の資格試験には学科試験と製図試験があります。
まずは学科試験の勉強方法について紹介します。どのような手順で、どのような方法で勉強するのがもっとも効率的なのかを考えた上で勉強を始めましょう。
テキストの内容を理解する
まずは建築士試験に役立つテキストを購入し、その内容を理解できるようになりましょう。
丸暗記するのではなく、全体の仕組み、流れを自分なりに理解できるようになることが大切です。
建築士試験に対応したテキストはたくさんありますが、その中から自分の理解しやすいもの、読みやすいものを選ぶことから始めてください。コンパクトなものであれば、持ち運びにも便利で移動時間中にも読み進めることができます。
問題集を解く
テキストの内容をある程度把握できたら問題集を解いていきましょう。
問題集はあれもこれもと買い込むよりは一冊だけを徹底的にやり込む方が効率的です。
最初は間違いだらけでも問題ありません。なぜ間違えたのかを正しく理解し、正答率を気にするよりも解説を覚えることに専念してください。
何度も繰り返して問題集を解き進めることで徐々に正答率も上がり、合格のラインに近づいていきます。
過去問を解く
問題集をある程度解けるようになったら次は過去問にチャレンジしてみましょう。
過去問は過去5年間程度をまとめた一冊があれば十分です。
問題集はある程度解けたのに過去問はまったく解けないという方も多いので、最初はあまり点数を気にしなくて大丈夫です。
間違えてしまった部分は解説をチェックして、何を理解できていなかったか、どの部分は得意なのか、自分の傾向と対策を分析していきましょう。
過去問を何年分か解いていくと、どの部分が多く出題されるか、どんな形式の問題が出るかを把握できるようになってきます。その中で、あまり勉強しなくてもいい部分、徹底的に勉強しておきたい部分、そしてそれぞれの問題の時間配分などを冷静に考えられます。
過去問をいくら解いても今年度の問題がまったく同じというわけではありませんが、ある程度の傾向が大きく変わることはありません。とにかく問題に慣れることが大切です。
法規の勉強も忘れずに
学科試験の勉強で忘れてはならないのが法規のジャンルです。
建築基準法に則った法律の問題が多く出題されるだけでなく、建築士資格の試験はこの法規を理解していることが前提の問題も多いです。
法規は問題集やテキストとは別に単語帳のようなコンパクトなものも出ていますので、移動時間やちょっとしたすき間時間に読んで暗記できるようにしておきましょう。
法規は暗記すればいいジャンルではありますが、試験直前になんとかなるようなものではありません。建築士の勉強と並行して、法規も頭に入れる工夫をしてください。
建築士の製図試験の勉強方法
建築士の試験には学科試験と別に製図試験もあります。
この製図試験は学科試験の二か月後くらいにおこなわれるものですが、学科試験が終わってから詰め込めば大丈夫というレベルのものではありません。学科試験に合格したものの製図試験の基準に足りず資格を取得できなかった、製図試験で何年も躓いているという方も多いです。
建築業界未経験の方にとっては非常に難しく、学科試験と並行して製図試験の勉強にも取り組んでいくべきです。
製図の勉強方法としてはまず設計図をトレースしていくこと。トレースとは薄い紙を設計図の上に乗せて写していくことです。
トレースを繰り返すことで製図そのものに慣れることができます。
建築に慣れていない方にとってはまず製図に慣れることが大切。あまりにも知識がないと感じる方は製図のみを通信講座や予備校で習うという方法もあります。
製図試験の合格率は高い!?
製図試験の合格率は例年50%前後と、資格試験の難易度としては易しいように見えます。
ですがこれは日頃から建築の現場で製図に触れている人が受験することが多いためです。
これまで製図にまったく触れてこなかった人が独学で簡単に合格できるものではありません。
実際に、独学で製図の試験を受けた人の中には「もっと製図の勉強をしておけばよかった」「製図は簡単だと聞いていたから油断した」「徹夜で勉強を続ける毎日だった」という人も多いです。
製図の勉強には製図を理解する力、質問を正確に読み取る力だけでなく、製図を続ける体力や忍耐力も必要です。
学科試験が終わってから製図の知識を詰め込めばいいと油断するのではなく、建築士資格取得のための勉強を始めた段階で製図には触れていくようにしましょう。
資格取得のためには資格学校や予備校がおすすめ
建築士の資格の取得は独学でも可能ではありますが、膨大な勉強時間が必要だったり長い実務経験が必要だったりと大変な問題がたくさんあります。
独学で何度も落ち続けるよりは、資格学校や予備校に通って集中して勉強する方法もおすすめです。
資格学校や予備校であれば大学や専門学校と違い拘束時間も比較的短く、かつ費用も抑えられます。資格学校、予備校についての基本的な情報やメリットを紹介します。
資格学校や予備校にかかる予算
資格学校や予備校へ入学するのをためらっている方が一番気にしているのがその予算ではないでしょうか。
学費をまかなうのが大変、アルバイトや仕事と並行することでどちらも中途半端になってしまうという心配もあります。
資格学校や予備校にかかる費用は15万円から50万円程度です。
製図のみのウェブ講座であればもっとも安く、集中して勉強ができます。学科試験の勉強は独学で進め、製図など専門的な勉強はプロの力に頼るという方法がおすすめです。
建築についての知識や経験がほとんどなく、一から効率的に試験対策をしたいという方は総合コースを選ぶ必要があります。これは45万から50万円程度で、試験に落ちるとまた一年同じだけの学費が必要です。
ですが大学や専門学校に入って一から勉強するとなると数百万円の学費がかかるだけでなく、仕事と並行して通い続けるのも大変です。受験資格にもある実務経験は軽減されますが、現実的でないという方も多いでしょう。
資格学校や予備校を選択する際は自分に合うのは学科も製図も含めた総合コースなのか、製図のみのコースなのかを見極め、かつ予算に合う資格学校、予備校を選ぶことをおすすめします。
ウェブメインの学校ならより低価格
国家試験対策ができる資格学校や予備校はたくさんありますが、その中でもウェブメインの学校を選ぶとさらに費用を抑えられます。
学校を持たず、ウェブの動画配信やライブ授業をおこなうことで、大幅なコストカットが可能になるためです。
ウェブメインの学校を選ぶと学科と製図合わせて10万円程度で勉強を続けられる場合もあります。
ウェブ動画やライブ授業なら近くに学校がない方や仕事で帰宅が遅くなってしまう方でもスケジュールを調整しやすく、勉強も続けやすいです。
一方で学校に通わないのでモチベーションを維持しにくい、ライブ授業でない場合はリアルタイムでの質問ができないなどのデメリットもありますので、あらかじめ理解しておきましょう。
モチベーションの維持に効果的
資格学校や予備校はモチベーションの維持に効果的です。
毎週試験合格に向けた課題が出され、それを期限までに提出しなければなりません。嫌でも建築士の勉強と向き合う時間を作らなければならないので、どうしても自宅での勉強は続かないという方でも問題に向きあうことができるでしょう。
また、資格学校や予備校に通う仲間はみんな試験合格に向けてがんばっている人たちばかりです。みんなで一緒に一つの目標に向けてがんばることは、大きなモチベーションとなることでしょう。
ウェブや通信講座では仲間意識は芽生えにくいですが、通学制の学校であれば切磋琢磨できる仲間と出会えることでしょう。
勉強のスケジュール調整がしやすい
建築士の試験合格に向けては年単位で勉強のスケジュールを立てていかなければなりません。独学ではこのスケジュールの調整が難しく、試験当日までに間に合わなかった、肝心な部分の勉強ができなかったというケースもあります。
一方で資格学校や予備校であれば、講師が資格試験に合わせたスケジュールを調整してくれます。この期間でこの部分を終える、次の期間で応用を学ぶなど、初心者が一人では思いつかなかったようなスケジュールを考えてくれます。
課題で理解度を確認しつつ、一人ひとりを取りこぼさないようにしっかりフォローしてくれる資格学校、予備校を選ぶことも大切です。
プロの講師が添削してくれる
資格学校や予備校ではプロの講師が添削してくれるというメリットもあります。
建築士として第一線で活躍している講師や、建築士としてさまざまな実績のある講師などが対応してくれるので、テキストだけではわからなかった細かな部分まで徹底的に教えてくれます。
独学でテキストを読んでいても理解が難しい部分はたくさんあります。そんなとき、いつでも講師に質問できるというのは大きな魅力です。
課題の添削ももちろん講師がおこなうので、何が間違っていたのか、どう理解すればいいのかをきちんと学んでいくことができます。
独学で建築士の資格取得を目指そう
独学で建築士の資格を取得する方法を紹介しました。
二級建築士であれば、そして建築士事務所で7年以上の実務経験があれば、独学でも資格を取得することは可能です。
ですが建築士の試験は専門知識や法律の知識、製図知識も必要です。独学で合格を目指すのであれば年単位での勉強が必須と言えるでしょう。
建築についての知識や経験がない方、一発合格を目指したい方は、資格学校や予備校を活用するのもおすすめです。総合コース、製図コース、ウェブメインコースなど、社会人として働きながら通い続けられる学校はたくさんあります。独学に不安を感じたらこのような学校を利用することも検討してみてください。