「建築」とは、家・店舗・公共施設など、人々が生活をしていく上で利用する建物を造る行為のことをいいます。
建物を建てる際には、
- 建物の用途
- 利用者
- 立地条件
など「どんな建物にしたいか?」を検討し、設計をしていかなくてはなりません。
そして、一言で「設計」といっても実に様々な種類が存在します。
今回は、この設計に関して色々とお話をしていきたいと思います。
設計とは
概要
設計とは、物や計画を具体化するために行う、検討や検証のことをいいます。
設計と一言でいっても、建築以外にもシステムや製品制作など、その種類は多岐に渡ります。
建物を造る際には、”安全性/デザイン/快適性”など、そこで生活する人にとって過ごしやすい環境を実現するため、クライアントと綿密な打ち合わせを行います。
その打ち合わせや計画を経て、構造物を具現化するための設計図を制作し、そして施工会社によって建物が建てられていくのです。
建築における設計の種類
建築設計では、大まかな概要を計画する「基本設計」と、工事するための図面作成を行う「詳細設計」に分かれています。
そして、下記3つが、建築分野における設計の仕事となります。
- 意匠設計
- 構造設計
- 設備設計
それぞれを順にご紹介していきます。
意匠設計
設計を行う際、最初に手掛けるものであり、建築設計の中心的な役割を担っています。
これは、
外観、内観
動線
部屋の配置
周辺環境への配慮
など、建物の基礎を設計(デザイン)していきます。
いわゆる”建築の花形”であり、著名な建築家はこの意匠設計を専門とする人が多いのが特徴です。
構造設計
これは”建物の安全性を考える設計”のことです。
台風・地震・積雪などの災害で建物が倒壊しないように、建物の土台と骨組みの配置・構造を組み立てていきます。
他にも、耐震診断や補強設計・設計監理なども担当します。
尚、建物の安全性を検討していくため、基本設計の段階から意匠設計と綿密な連携を取っていく必要があります。
特に近年は、建物の複雑化により、構造設計の出番は増加傾向にあります。
そして、良い建築物というのは、必ず意匠と構造設計が見事に調和しています。
まさに縁の下の力持ちと呼べる存在であり、建築の際には必要不可欠な仕事です。
設備設計
これは、電気設備や空調・給排水など、建物を利用する人が快適な生活を送るために必要な生活設備を設計する仕事です。
この設計の需要なポイントは、下記です。
デザインと機能を融合させる
ライフサイクルコストの最適化
例えば、ただ建物を建てただけでは唯の入れ物であり、人が生活することはできません。
「生活する人が快適に過ごすためには、どんな設備が必要か?」ということを考え、建物のデザインと調和がとれた設備を設計していく必要があるのです。
もちろん、ただ生活ができれば良いだけではなく、光熱費の削減・自然環境との調和も重要になってきます。
尚、建物を新築~廃棄・解体されるまでの間に掛かる費用のことを「ライフサイクルコスト」といいます。
建築物における上記コストの大半は、”修繕・保守管理・水光熱費”が占めています。
このコストを最適化するのも、設備設計の大切な役割の一つなのです。
「土木設計」や「デザイン」との違い
土木設計との違い
建築と土木は異なるジャンルではありますが、念のため2つの違いをご紹介しておきます。
端的にまとめると、
- ・建築設計:住宅やビルなどの、”建築物”の設計
- ・土木設計:道路や橋梁などの、”土木構造物”の設計
建築と土木の大きな違いは、工事する場所が地面の”上”か”下”かです。工事する場所が全く異なるため、必要な技術も大きく変わってきます。
尚、土木設計は「概略設計」「詳細設計」に分かれます。
【概略設計】
これは、計画全体の大枠を決める作業です。
例えば、道路の場合は”ルート/カーブ/材料”など、橋であれば”架構/構造/材料”などです。
動植物の自生地、文化財、地すべり地帯などの回避しなければならないポイントを整理しつつ、利便性・経済性などを総合的に判断していきます。
【詳細設計】
概略設計によって決定した大枠に沿って、工作物そのものが成立するように詳細を詰めていきます。
そして、この作業により、工事できる図面にまで仕上げていきます。
道路やトンネルはカーブも存在することから、曲率も重要となります。この点が、建築と大きく異なる点です。
デザインとの違い
建築の際に混同しがちである「デザイン」ですが、デザインの和訳は”設計”という意味であり、意味合いは同じという認識で相違ありません。
ただし、デザインは建築だけではなく、服飾・インテリアなど”表面的な装飾”の際に用いられることが多いのが特徴です。
「積算」と「Ve」について
積算とは
端的にいうと、”設計図をもとに建築物の費用を計算すること”です。
工事全体に掛かる費用を算出するため、工事業の見積もり作成には欠かすことのできないものであり、積算事務所も存在しています。
業種ごとに性質は異なるものの、共通目的は”赤字工事をなくし、利益を確保すること”です。そのために、いかに正確な積算を行うかが重要となります。
建築工事における積算は、工事一件ごと・材料一つひとつで行われるため、規模が大きいほどに複雑化します。
小さなズレが大きな誤差に発展する可能性もあるため、積算は非常に重要な仕事の一つとなります。
尚、工事業専用積算見積ソフトも販売されており、それを使用することで作業効率を大幅にアップさせることも可能です。
Veとは
「Ve」とは、”Value engineering”(価値技術)の略で、建物の機能を保ちつつ、コストを削減することをいいます。
建築物というのは、小さな建物であっても数百~数千万の金額が発生します。
この掛かる費用を”機能を落とさずに”コスト削減する案を考える。
これがVeの仕事となります。
Veが活躍する場面としては、「設計段階」「入札時」「工事着手後」などが挙げられます。
【設計段階】
設計段階では、施工業者が決まっていないため、実際に掛かる工事の費用というのは分かりません。
しかし、クライアント側は「どのくらい費用が掛かるのか?」という目安を知りたいものです。
仮に、目安としてお伝えした概算工事費よりも実際の工事費の方が何倍も高くなってしまうと、施工会社側は赤字になります。
そうならないように、Veによってできる限りコスト削減案を考え、概算工事費に近い数字を出していくのです。
【入札時】
工事業者を決定する際に、「入札」を行います(複数ある施工業者から、担当会社を決定すること)。
この時、”工事費が合わない”という理由で、入札がうまくいかない(誰も仕事を受けてくれない)場合があります。
その際に工事の難度やコストを下げるといった案を出します。
【工事着手後】
これは施工者側からの提案となりますが、施工途中に「材質や納まりを変えたい」といった意見を受け、コストの見直しをするものです。
「CAD」と「BIM」の違い
現在は、設計図を制作する際に「CAD」ソフトが幅広く利用されており、建築業界において欠かせないツールの一つとなっています。
そして、新たに「BIM」というソフトも話題に上がっています。
それぞれの違いを簡単にご紹介していきます。
CADとは
「Computer Aided Design」の略で、コンピューターを使用し設計を行うためのソフトのことです。
本来は手作業で行われる製図ですが、これを利用することで大幅に効率が上昇します。
ミスや修正が簡単にできる
図面の管理が簡単にできる
下表のように、いくつかの種類に分かれています。
2次元CAD | 平面図や立体図などを線分や円弧を用いて描くもの
入力が簡単であり、供覧性が高いことから、現在も高いニーズを誇る |
3次元CAD | 建物を立体的に表現するもの
全角度から形状や位置関係を確認でき、仕上がりをイメージしやすい 現在はこちらが主流になりつつある |
専用CAD | 建築・土木・配管など、特定の分野に特化したもの |
汎用CAD | 汎用性が高く、どの分野でも通用する機能を一通り備えたもの |
BIMとは
「Building Information Modeling」の略で、3次元CADのように現実と同じ建物の立体モデルを再現するソフトです。
オブジェクトの集合体であり、幅・奥行き・高さや、素材の組み立て工程や時間も盛り込むことができます。
また、図面以外の多くのデータを引き出すことができ、構造体の入力や設備機器も再現可能。
さらに、設備機器には品番やメーカー・価格などの詳細を入力できるため、メンテナンスや資材管理にも役立てることが可能です。
従来の3次元CADとの大きな違いは下記です。
・BIMモデル:BIM対応の3次元CADで作成するため、最初から3次元で設計を行う。編集や修正が容易で、図面間の整合性を常に保つことができる
世界的に展開しているソフトですが、日本においても技術向上のために導入する企業が増えており、今後の建築業界における主要ソフトの一つになり得る可能性があります。
設計の仕事を行う「建築士」について
建築士とは
建物の図面を作成する仕事に従事している人を「建築士」といいます。
建築士の仕事は、図面作成以外にも、建設現場の工事監督を担当する場合もあります。
工事監督をする理由は、計画通りに進んでいるかどうかを、クライアントに代わって確認するためです。
建物を設計するための”センスや知識”が必要なことはもちろん、一つの建物が完成するまでの間に、多くの業者と関りを持つことになります。
そのため打ち合わせが多く、コミュニケーション能力を必要とする仕事でもあります。
必要な資格
小規模な建物など、一部無資格でも設計できるパターンもありますが、基本的に建築士は資格がないと仕事を行うことができません。
資格は「建築士」という国家資格が必要で、大きく下記の3種類が存在します。
- 一級建築士:住宅から公共の建物まで、幅広い建築設計が可能
- 二級建築士:住宅クラスの設計が可能(一部住宅以外を手掛けることも可能)
- 木造建築士:木造住宅のみ設計可能
様々な建築を手掛け、独立をすることも可能な一級建築士が、多くの建築士が目指す目標の一つです。
ただし、その受験資格・合格率ともに厳しく、一級の合格率は10%代となります(二級で20%代)。
また、それぞれの受験資格は、学歴や資格の有無により大きく変化します。
・大学/短期大学/高等専門学校/専修学校などで、指定科目を修めて卒業
・二級建築士を所持
・建築設備士を所持
・国土交通大臣が、特に認める者
【二級/木造】
・大学/短期大学/高等専門学校/高等学校/専修学校/職業訓練校などで、指定科目を修めて卒業
・建築設備士を所持
・都道府県知事が、特に認める者:所定の年数以上の建築に関する実務経験
・建築に関する学歴がない者;7年以上の建築に関する実務経験
合格率が低い難度の高い資格試験のため、建築士としてやっていくためには、長期に亘る勉強が必要不可欠です。
また、実務経験のみでも受験することは可能ですが、学生のうちから「建築士の仕事に就きたい」と考えている方は、専門の学校に通いつつ知識を深めていくのもいいかと思います。
将来性
建築士の仕事は、現在下記のような課題があります。
一級建築士の取得難度の高さ
一級建築士の高齢化と後継者不足
特に、高齢化と後継者不足が懸念されています。
というのも、現在の一級建築士の約6割が50代以上の世代なのです。
加えて、合格率は10%代と低く、仕事そのものが多忙であることから受験勉強のための時間を割けない人もおり、受験者数そのものも減少傾向にあると言われています。
このままいくと、近い将来一級建築士の人口はさらに減少していくと推測されています。
ただし、裏を返せば”一級建築士の資格を取れれば、仕事の需要はある”ともいえます。
市場そのものが減少傾向にあるとはいえ、人が生活をする上で建物の存在は必要不可欠なものです。
一級の資格を取得し確かな知識と経験を有していれば、同業者が減少する中でも安定的に働ける可能性があると言えるかもしれません
まとめ
「設計」と一言でいっても、その内容は様々に存在し、いずれも生活をしていく上で重要なものばかりです。
そして、建設物が存在する以上、建築設計がなくなることも早々ありません。
もし設計というものに興味を持たれた方は、ご自身でさらに知見を広げ、建築の世界に一歩踏み出してみて下さい。
最後に。
建築士の仕事は、”思い描いた建物を現実のものにできる”という魅力があり、クリエイティブな楽しさを見いだせる仕事です。
自分のアイデアが形になっていき、誰かの生活の役に立てるという点で、やりがいを感じている職人も数多くいます。
しかし、その分”多大な責任を背負う”仕事でもあります。
建物を建てるには、数百~数千万円……時には数億円という膨大な資金が動きます。
一度工事が開始されれば簡単に建て直すことはできないため、設計・施工ミスというのは早々許されるものではありません。
建築士になりたいという方は、決して楽な仕事ではないという点だけは忘れないように注意して下さい。