金属や建築物に塗装を行う職人のことを「塗装工」といいます。
塗装工に関する知識がないと「ペンキを塗るだけの仕事でしょ?」と思う方もいるかもしれませんね。
しかし、塗装工事は”建物を保護する”ために必要不可欠な工事の一つなのです。
今回は、「塗装」および「塗装工」に関することをご紹介していきたいと思います。
「塗装工事」とは?
まずは「塗装工事」がどんなものかについて、詳しくお話していきましょう。
塗装工事とは、建物の屋根や外壁などをペンキを使用して塗装を行う作業のことです。
新築以外で塗装工事を行うキッカケの多くは「見た目が悪くなった、汚れが目立つから」かと思いますが、実は見た目だけでなく”建物を長持ちさせる”ために必要な作業なのです。
建物の外装は、雨・紫外線・空気などに常に晒されており、築年数が増えるほどに建物は劣化し防水性能も切れていきます。
そして防水性能が切れたままにしておくと、建物の中に水が入り込み”雨漏り”や”腐食”の原因となり、建物の耐久性そのものに重大な影響を及ぼしてしまうのです。
このことから、塗装は定期的なメンテナンスが欠かせない重要なものとなります。
尚、見た目を良くするために行う塗装は「美装塗装」、上記のように建物を保護するために行う塗装を「防水塗装」と言います。
美装・防水どちらも、共通して高い専門知識と技術力が必要な工事となります。
塗装の工程
塗装作業は、下記のような流れで進められます。
2.高圧洗浄
3.下地補修
4.下塗り
5.上塗り
6.点検、足場解体
それぞれもう少し詳しくお話していきましょう。
【1.足場設置工事、養生】
外装などを塗装する際に、安全を確保しつつ作業を効率よく行えるように足場を組み立てていきます。
これは、基本的に一日ほどで設置工事が完了します(建物によります)。
養生は足場設置後に、飛散防止ネットやメッシュシート・ビニールなどで建物を覆うことです。
これは、洗浄時の水や塗料の飛散を防ぐためのもので、近隣にご迷惑が掛からないように、そして塗装箇所以外を汚さないために使用されます。
【2.高圧洗浄】
塗装箇所に汚れが残っていると、その上から何を塗っても剥がれてしまいます。
外壁の、粉化した塗料・埃や汚れを洗い落とすために、この高圧洗浄が行われるのです。
尚、高圧洗浄後は乾燥が必要で、1日…状況次第では2日ほど乾燥時間を取ることもあります。
【3.下地補修】
塗装の際に行われる下処理のことを指します。
例えば、ひび割れ部分にシーリングを充填したり、剥がれた塗料を除去したり、またサビ止めの塗布をし塗料の密着を高めたりといったことをします。
この下地補修作業は、仕上がりに大きな影響を及ぼすため、塗装職人にとって特に重要な工程の一つと言えます。
【4.下塗り】
塗装面を整える作業で、上塗りの時に密着性を良くするため行われます。
下地によって塗料の種類は変化し、上塗り塗料によっても使い分ける場合があります。
この下塗りの種類は「シーラー・プライマー・フィラー」が主に使用されます。
・プライマー:外壁以外では鉄部などに使用されることがあり、シーラーと同じく接着剤的な役割があります
・フィラー:上二つと同じく接着剤的な役割を持ち、粘土の高い塗料で”パテ”のような効果もあります。
【5.上塗り】
見た目・耐久性どちらにも影響を与える重要な作業です。
通常は二回塗られるのですが、その一回目は「中塗り」と言われることがあります。塗る回数に関しては、使用する塗料の性質によって変わります。
また、軽天や雨戸、水切りなどの付帯部の塗装も行います。こちらも見た目の美しさだけでなく、防水やサビの進行を止めるなどの重要な役割があります。
【6.点検、足場解体】
ここまでの作業が終了すると、一旦足場解体の前にお客様とともに点検をしていきます。
仕様通りの仕事をしたか?不具合、気になる点などはないか?などを確認したのち、問題がなければ足場を解体し作業は完了となります。
塗装工事を行うタイミング・かかる費用は?
工事のタイミング
工事を行うタイミングは、いくつか判断材料があります。
その一つは”築年数”です。
グレードにもよりますが、おおよそ新築から10年過ぎた頃が塗装工事を検討するタイミングとされています。
一般的に使用される塗料は「アクリル塗料」や「ウレタン塗料」などの安価なものを使用されることが多く、それらの耐久年数は4年~10年と言われているのです。
もう一つは”建物の劣化症状”で見極めることです。
代表的な劣化症状は「ヒビ割れ」で、別名「クラック」と呼ばれています。
ヒビ割れは自力で補修対応ができる場合もありますが、それはヒビの幅が0.3mm以下(ヘアークラック)のみです。
ヒビ割れを放置しておくと、そこから水が浸入し、建物が腐食する危険があります。
他にも、カビやコケなどの「汚れ」、塗膜の劣化症状の一つである「チョーキング」(手に触れた時に、白い粉が付着する)、そして「塗膜の剥がれ」などがあります。
屋根の上に登って劣化の確認をするというのは危険ですが、外壁だけでも劣化症状を見極めることはある程度可能です。
この辺りを参考にしながら、工事の時期を検討してみるといいでしょう。
工事にかかる費用
結論からいうと、使用する塗料の種類や、塗布する面積、建物の劣化具合などによって掛かる費用は様々です。
ただし、目安となる相場は存在します。
これに関しては、リフォームジャーナル様が作成された記事がとても参考になるので、こちらを引用させていただきます。
【屋根の塗料代相場】
【外壁の塗料代相場】
【工事費用の相場】
【足場代の相場】
「塗装工」になるには?
塗装工事についてお話してきましたが、次は塗装を行う職人「塗装工」についてご紹介していきます。
上述の通り、塗装工事はただ色を塗るだけの作業ではありません。
建物の形状・材質に適した塗り方、そしてお客様のオーダーに合った塗料の選定など、技術とセンスが求められる仕事です。
また、塗装工と一言で言っても、自動車工場などで板金塗装に携わる人や、家具などのデザイン塗装に関わる塗装工もいます。
共通しているのは、腕の良い職人になるには相当な期間と経験が必要ということです。
必要な学歴や資格は?
まず、塗装工の仕事をするために必須となる資格はありません。
また、学歴が重要視されず”学歴不問”で採用を募集している会社が数多く存在します。
また、年齢もあまり重要視されることはありません。
塗装工は、専門学校や職業訓練校などもないので、未経験のまま建設会社や住宅メーカーの関連企業に就職し”塗装工見習い”として、先輩のもとで現場を経験していくこととなります。
ただし、即戦力となる人や後進の育成という点から、経験者や塗装技能士の資格を持つ人、そして10・20代の若者が選ばれやすいのは確かです。
取得を目指すべき「塗装技能士」の資格
塗装の仕事を行いながら、取得を目指すべき資格として「塗装技能士」が挙げられます。
これは、塗装に関する技能を国が認定(証明)する国家資格であり、将来的に独立を目指す場合は取得しておくべき資格です。
1級~3級までの等級があり、下記のように一定の実務経験を必要とします。
受験資格 | 1級 | 7年以上の実務経験、2級合格後2年以上、3級合格後4年以上の実務経験
※学歴により必要な実務経験年数は異なります |
2級 | 実務経験2年以上、もしくは3級合格者
※学歴により実務経験が不要となります |
|
3級 | 不問 |
試験内容は、技能検定の実技試験と学科試験があり、両方に合格しなければいけません。
尚、塗装には”特級”は存在しません。
その他の資格
その他に取得しておくと便利なものは、下記が挙げられます。
【足場の組み立て等作業主任者技能講習】
戸建てはもちろん、時には高層ビルや大型施設の塗装を行うこともあるため、足場の設置は必要不可欠なものです。
足場を組み立てる作業は、足場鳶など専門の作業員に任せることもありますが、塗装工がこの作業を行えるなら、当然仕事の幅が広がり、場合によっては収入アップも見込めます。
【有機溶剤作業主任者技能講習】
「シンナー」などの有機溶剤を使用する機会があることから、安全に作業を行うためにこの資格を取得する人もいます。
【色彩検定、カラーコーディネーター】
これは、作業そのものに直接影響を及ぼすものではありませんが、色彩に関する知識やセンスを磨くために取得を目指す人がいます。
塗装は目に見える重要な部分です。
お客様の満足いく形に仕上げることができれば、それが自身の評価にも繋がります。
すぐに必要な資格ではありませんが、実務に慣れてきた頃にステップアップの一環として挑戦してみるのもいいでしょうね。
【普通自動車免許】
必ず取得しなければいけないものではありませんが、取得しておくと重宝される資格です。
車は、資材や道具を車に乗せ、現場に向かう際に必要となるものです。
特に採用の時点で取得していれば運転免許を所持していない人に比べて多少有利になることもあります。
塗装工の現状や将来性
塗装工は「金属・建築塗装工」に分類されており、技術職・専門職として給料はやや高めの水準に設定されています。
勤める会社や仕事内容などによっても変動しますが、「金属・建築塗装工」の平均的な年収は、おおよそ400万前後と言われています。
また、専門性の高さであったり、高層ビルでの作業などリスクを背負う作業を行う場合も、特別な手当(高所手当など)がつくこともあります。
塗装工の現状としては、空き家の増加や人口減少の問題があり、昔のようにマイホーム(一軒家)の新築工事は減少傾向にあります。
しかし、中古物件のリフォームであったり、大型施設の塗装であったり、塗装工の需要は他にも様々に存在します。
また、昨今の地震など災害の影響から、復旧工事の現場にて塗装の発注が増えているケースもあります。
塗装という仕事は、建設物が存在する限り無くなるということはありません。
時代とともにニーズが変化することはあっても、今後も必要とされる職業であることに変わりはありません。
塗装工はどんな人に向いているか?
体力に自信がある人
まず、塗装の仕事は肉体労働です。
基本的に立ち仕事であり、時には中腰やしゃがんだりなど不安定な体制で作業を続けることだってあります。
また、重いペンキを運んだり、高いところに手を伸ばして作業をしたりと、身体的な不調を起こしやすいものです。
さらに、天候にも注意する必要があります。特に外壁塗装の場合は、1日中外で作業をすることが多いので、夏や冬など季節ごとの体調管理も欠かすことができません。
このことから、体力に自信があり、健康的な人の方が向いている仕事と言えるでしょう。
繊細な作業が得意な人
塗装は人の目に見える部分であるため、美しい見た目になるよう丁寧に仕上げていく技術力が要求される仕事です。
そのため、
細やかな作業が得意な人
美術的なセンスがある人
こういった人の方が、塗装工に向いていると言えるでしょう。
尚、肉体労働を必要とする塗装工は、昔から男性中心の業界として知られており今も男性の方が比率は多いのが特徴です。
しかし、女性が塗装工になれないということはありません。
知識や技術があれば性別に関係なく仕事ができるため、女性の塗装工が現場で活躍している場合もあります。
現在は多様な働き方のニーズが求められており、繊細な作業は女性の方が得意でもあるため、今後女性が活躍できる環境作りがさらに広がっていくかもしれません。
まとめ
記事の途中でもお伝えした通り、建設物が存在する以上、塗装という仕事が無くなることはありません。
確かに機械化が進む現代では、塗装作業をロボットによって行われるようにもなってきています。
しかし、それは工場などで行われる部品への塗装などの”正確かつスピーディーな作業”を求められる場合の話です。
顧客のニーズに応え・気候条件を確かめながら行われる丁寧かつ繊細な塗装工事は、職人の…人の手によってでしか再現できないもの。
これら全ての作業が機械に取って代わられるということはあり得ません。
現在、この仕事を目指す人の多くは10代や20代の若者で、高校卒業後に就職する人も少なくありません。
専門職のため一人前になるには長い経験が必要な仕事ではありますが、技術を磨く楽しさや仕事を終えた後の達成感は一入です。
塗装の仕事に興味を持たれた方は、知見を広げ、塗装工の道に向かって一歩を踏み出してみて下さい。