建築業界には国家資格がたくさんありますが、建築士もその一つです。
建築士は建築業界の花形とも言える存在で、活躍できる場所が多い分年収も高いイメージがあります。
「建築士になれば年収1000万円も目指せる」とも言われていますが、実際の建築士の年収はどれくらいなのでしょうか。
今の年収に不満がある方は、年収アップのためにできることについても考えてみましょう。
建築士の平均年収は?
建築業界の中でもとくに有名な国家資格として建築士の資格があります。建築士の資格を持っていればさまざまな場面で活躍でき、就職や転職にも有利です。
そんな建築士の年収は、実際にはどれくらいなのでしょうか。
平成29年の厚生労働省の調査によると、一級建築士の平均年収は男性が653.5万円、女性が560.9万円でした。
「建築士になれば年収1000万円!」と言われることもありますが、実際はそれほど稼いでいる方は少ないようです。
また、女性は出産や育児のために一度現場を離れなければならない方が多く、復職の際などに年収が下がってしまうケースもあります。
(厚生労働省「平成29年賃金構造基本統計調査」)
一級建築士と二級建築士の年収の違い
上記で紹介したのは一級建築士の年収です。二級建築士の場合は一級建築士よりも年収が下がります。
平均で350万円から500万円台に留まることが多いようです。
これは資格の内容に答えがあります。
二級建築士は取り扱える建物のの規模が小さく、依頼料も安いものが多いです。
一方で一級建築士になると制限がないため大規模で高額な依頼を受けることもでき、結果として高い年収につながるのです。
一級建築士になるには実務経験が必要ですので、二級建築士として働いている方は一級建築士を目指して実績を重ねましょう。
年齢や経験実績による年収の違い
建築士の年収は年齢や経験実績によっても大きな差があります。
20代の建築士の平均年収は391.7万円ですが、年齢を重ねるごとに上昇し、45歳から50歳くらいでピークを迎えます。このときの平均年収は807.4万円程度です。
それからは緩やかに下降していく傾向があります。
建築士は残業代などの手当てがつくことで年収が高くなるケースが多いですが、年齢を重ねると役職につかされることが多いです。
役職につくと裁量労働制というシステムで働くことになります。これは労働時間などを自分で決められるというものであり、残業代などは支払われません。そのために年収が低くなってしまいます。
給与や賞与は景気に左右されやすい
建築業界は景気に左右されやすい業界です。近年はオリンピックの影響で建設業界も好景気でしたがそれも一時的なものです。
今後の日本は少子高齢化が進み、建築業界の景気の好転は期待できません。
ですが新しいマンション、戸建ての需要だけでなく老人ホームやホテルなどの建設の需要がなくなることはありません。
また、都市開発が進んでいる地域では高待遇も期待できるでしょう。
建築士の国家資格を取得すれば将来安泰というわけではありませんので、今後の業界の動向をしっかりチェックして必要があれば転職を考えることも大切です。
年収は企業規模によって違うことが多い
建築士の年収は企業の規模によっても大きく違います。
小規模の建築会社は給与が低く仕事内容もハードです。
大規模の建設会社になると待遇がいいだけでなく、従業員の数も多いため作業を分担でき、自分のペースで働きやすくなることでしょう。
小規模の企業の建築士の年収
従業員が10人から99人程度の小規模の建設会社の場合、年収は500万円台に留まるケースが多いようです。
地域の工務店などは500万円を切ることもあります。
ですが小さな建設会社ならではの学ぶことも多く、お客様との距離が近くより理想に寄り添った仕事ができるといったメリットもあります。自由度の高い建築物を作りたい、将来独立するために経営なども近くで見て勉強したいという方にもおすすめです。
二級建築士の場合は対応できる建物の規模に制限があり、このような小規模の建設会社で実績を積む方も多いです。
中規模の企業の建築士の年収
従業員の数が100人から999人程度の中規模の建設会社では、年収は500万円から600万円台となることが多いようです。
中堅から大手のハウスメーカーや大手建設会社に就職すればこれくらいの年収を得ることができるでしょう。
平均月収は30万円台から40万円台、賞与も100万円を越えることが多いです。
全国チェーンのハウスメーカーはマニュアルがしっかりしており、確かな技術を身に着けられます。
転職の際にも、名のあるハウスメーカーで勤務した経験はアピールポイントになることでしょう。
ですがマニュアルが厳しく決められているので自由度が低く、デザイン性の高い建築物を作りたい方などには不向きです。
大企業の建築士の年収
従業員1000人以上の大手の建設会社やスーパーゼネコン、大手ゼネコン、さらに中堅ゼネコンに就職すれば、年収は600万円から800万円程度になります。
月収は50万円を超えるケースが多く、賞与も200万円以上になる場合もあります。
大手のゼネコン会社は大規模な工事を請けることも多く、一級建築士でなければ対応できない仕事も多いです。
大手ゼネコンに就職して実務経験を積むか、小規模や中堅の建築会社で実績を積んで一級建築士の資格を取り大手ゼネコン会社に転職するという方法もあります。
年収に囚われず、小規模な会社でお客様と近い距離で仕事をしたいという建築家もいます。
建築士が年収をアップさせるためのポイント
建築士として働いていて、今現在の年収に満足できていない方は、年収アップのポイントをチェックしましょう。
建築士は一般の年収よりは高い年収を期待できますが、就職先やスキルによって大きく年収が変動します。
下記のようなポイントをチェックし、自分の能力に合う年収を得られるためにさまざまなことにチャレンジしてみましょう。
一級建築士の方が年収が高い
建築士には一級建築士と二級建築士があります。さらに木造建築士という資格もあります。
木造建築士は木造の二階建ての建物までしか取り扱うことができません。
そして二級建築士は木造以外の建築物も対応できますが、あくまで小規模なものに限定されます。
一級建築士になるとその制限がなくなり、商業ビルやホテルなどの大きな建物の建築に関わることもできます。
そのため大手ゼネコンに就職も可能になり、担当する建物や役職に応じた高待遇を得られます。
二級建築士の資格を取得している方は、一級建築士を目指しましょう。
実務経験が3年から4年必要となります。これはあくまでも受験資格の話であり、資格を取得するためには難易度の高い試験に合格しなければなりません。
大手ゼネコンへの転職を目指す
建築業界の中でももっとも高い年収を得られるのは大手ゼネコン会社です。
大手ゼネコン会社ではマンション、商業ビル、オフィスビルなど、実用的で大規模な建物の建設がメインです。
建築家を目指す理由は人それぞれですが、中には自分の理想の建物を作りたい、デザイン性の高い建物を作りたいという方もいます。
そのような方にとっては大手ゼネコン会社での仕事は窮屈なものに感じるでしょう。
高い年収を目指すか、自分の理想の仕事を目指すかは人それぞれです。
ですが年収をより上げたいのであれば、大手ゼネコン会社への転職がおすすめです。
大手ゼネコン会社は建築士にとっても目指す方が多い就職先です。その分倍率も高く、就職、転職をするのであればアピールできる確かな実績が必要です。
転職活動をする際はしっかりと面接対策をしましょう。
図面作成スキルを磨く
建築業界では手書きの設計図ではなく、CADというソフトを使った設計図の作成がメインになっています。
2Dの設計図の作成は最低限でもできるようになっておかなければなりません。
また、プレゼンなどの際には3Dの設計図も作成できるようになっておかなければなりません。
元からこれらのソフトを扱える建築士であれば教育コストを省くことができ、転職活動も有利に進められます。
大手の建築会社ではこれらのソフトが使えることはもちろん、手書きでも設計図を描けるスキルは必須です。
CADはソフトさえダウンロードすれば誰でも勉強ができますし、自身のスキルを確かめるために資格を取得することも可能です。
資格は転職活動にも有利になりますので、設計図の作成が苦手な方は今からでも勉強を始めましょう。
建築関連の資格を取得する
建築士という国家資格は転職や資格手当の強みになりますが、さらに多くの資格を取得することで任される仕事の範囲も増え、年収アップを期待できます。
建築施工管理技士、宅地建物取引士、電気工事施工管理技士などの国家資格はもちろん、インテリアコーディネーターやカラーコーディネーターといった資格も建築の仕事をする上で役に立つでしょう。
資格は取得すること自体にも意味がありますが、資格の勉強をすることで身に着くことはたくさんあります。
建築士として、建築業界に関わり続ける人間として成長したいのであれば、現状に満足せず勉強し続けることが大切です。
独立する場合はかなりの能力が必要
建築士の中には独立して年収をアップさせる方もいます。
独立すれば利益をそのまま自分のものにすることができます。独立した建築士の中には年収1000万円以上を達成している人も多くいます。
ですが独立すれば全員が成功するとは限りません。仕事がなければ収入は0ですし、経営方法を正しく理解していなければ赤字になってしまいます。
すべての責任を自分で被らなければならず、事故を起こしたときの補填、失った信頼を取り戻すまでの努力などもしなければなりません。
建築家としてコンペで受賞したり実績を上げたりして知名度を上げてから独立することも大切ですし、能力だけが評価される世界でもありません。
人脈を作ったり、経営を学んだりと、独立のためにしなければならないことはたくさんあります。
資格を活かした副業をする
建築士の資格を活かして副業をして収入を得る方法もあります。
施工図の設計、CADソフトによる設計図の作成などを外注している会社は多く、業務委託などの形で副収入を得ることができます。
ですがその場合は現在働いている会社が副業を許可しているのか確認しましょう。
副業をしている場合は企業の年末調整の他に確定申告をしなければならないことも忘れないようにしてください。
建築士の年収アップのための転職方法
建築士が年収をアップさせるための方法としてよく考えられるのが転職です。
今より条件のいい企業に転職すれば、年収がアップしたり自分のやりたい仕事ができるようになります。
転職活動をする前にどんな点を確認しておけばいいかチェックしましょう。
自分の実績を客観的に確認する
まずは自分の実績を客観的に確認しましょう。
今よりいい企業に転職するには、その企業に求められる人材であることをアピールしなければなりません。
転職を希望する企業が大きければ大きいほどライバルは多くなります。
大きな建物の建築を任された経験がある、どのような役職をしていた、どんな実績を上げたなど、アピールできる強みをピックアップしてください。
面接では人格やマナーなどもチェックされますが、建築業界は高い技術がなければ仕事になりません。心意気だけでなく実績も伝えるようにしましょう。
転職理由を明確にする
転職活動を始める前に、転職する理由は何なのかを明確にしましょう。
年収に問題があるなら今よりも年収が高い企業から転職先を探すのが最優先です。
ですが年収ばかりを見ていると、今より仕事がハードになったり、自分のやりたい仕事ができなくなったりしてしまいます。
年収、仕事内容、その他通勤時間や対応エリアなど、譲れない条件をいくつか洗い出し、その条件に当てはまる企業を探してください。
見つからない場合は妥協できるかどうかをきちんと確認する必要があります。
働きたい企業を調べる
求人サイトなどをチェックし働きたい企業を見つけたら、その企業の下調べもきちんとおこないましょう。
建築士事務所に就職して実務経験を積めば、二級建築士から一級建築士になるための受験資格が与えられます。
ですがこの建築士事務所は、建築士事務所登録をしているところでなければなりません。中には建築士事務所登録をしないまま営業を続けている建築士事務所もあります。
このような会社で働き続けていても実務経験にはカウントされず、時間の無駄になってしまいます。
建築士事務所登録をしているかどうかは調べればすぐにわかりますので、求人に応募する前にきちんと確認しておいてください。
他にも、口コミサイトで実際に働いていた人の口コミを調べたり、その会社を利用したお客様の口コミをチェックしたりなどして、信頼できる会社か確認しておくことも大切です。
建築士として年収アップを目指そう
建築士の年収の相場、年収アップのコツなどについて解説しました。
建築士は年収が高いと言われていますが、働く会社の規模や仕事内容によっても大きな差があります。
今の会社の年収に納得できない、より高い年収の会社で働きたいという場合は転職活動の前にスキルを磨いたり資格を取得することも大切です。
転職先で思うような仕事ができなかった、年収は高くなっても仕事がハードになって体を壊してしまったなどのことが起きないよう、求人情報はきちんと確認してください。
建築士として今後も長く建築業界で活躍できるよう、日々努力を続けましょう。