人々が生活する中で、欠かすことのできないインフラを支えている「配管工」。
この配管工が行う工事の一つに「管工事」があります。
管工事には様々な種類が存在し、それに合わせて配管工の仕事の幅も多種多様に存在します。
今回は、管工事やそれを生業とする配管工について、詳しくご紹介していきます。
管工事
「管工事(かんこうじ)」とは、その名の通り配管などの設備工事を行う業種のことです。
建設業法における建設業許可業種29の一つであり、略して「管」と言われることもあります。
「配管」というのは、気体や液体・エネルギーなどを運ぶためのパイプやホースなどの管、もしくは管とバルブや計器などを合わせて設計・導設することです。
言うなれば、体内に血液を循環させるための”血管”のようなもの。
人々が生活する上で、無くてはならない非常に重要なものとなります。
また、通常の配管とは少し異なる「プラント配管」というものも存在します。
これは、化学工場や食品工場・製鉄所などの工場で使用される配管のことです。
プラント配管は、高度な専門性が求められる管工事のため、水道や空調などの配管とは全く別物として扱われています。
各設備の紹介
給排水設備
「給排水設備」とは、建物に水を供給する”給水”と、使用済みの水を外に”排水”する設備の総称です。
一般住宅であれば、キッチンの流し台・トイレ・洗面所などが該当します。
水は人が生きていく上での大切な資源であり、それに関する給排水設備も建物により仕様が異なります。
例えば、マンションなど大きな建物の場合は、水を溜めておくことができる「貯水タンク」や「給水タンク」が設置されています。
他にも、「浄化槽」や「雨樋」の排水も大切な給排水設備の一つです。
そこに住まう人だけでなく、地球環境に配慮したり建物を水漏れから守ったりなど、幅広く活躍しているのが給排水設備の大きな特徴となります。
ガス設備
人が生活する中で「ガス」も必要不可欠な存在です。
現在、ガスを使用している家庭の大部分は「都市ガス」か「LPガス」を使用しています。
それぞれの特徴は下表の通りです。
都市ガス | LPガス | |
原料 | メタンを主な成分に持つ天然ガス
海外から輸入する液化天然ガス |
プロパン、ブタンを主成分に持つ
液化石油ガス |
特徴・性質 | ・基本は無色・無臭
しかしガス漏れ時にすぐ気付くように匂いがついている |
・基本は無色・無臭
しかしガス漏れ時にすぐ気付くように匂いがついている ・空気より重い |
供給方法 | 道路の下のガス管を通じて供給 | LPガスが入ったボンベを、
事業者が配送する |
供給方法は、表にも記載した通りそれぞれで異なります。
【都市ガス】
道路の下のガス管を通じて供給されます。
【LPガス】
LPガスが入ったボンベを事業者が配送し、供給されます。
空調設備(空気調和設備)
「空調設備(空気調和設備)」は、温度・湿度・空気清浄度など室内環境の調和が目的となる設備のことです。
似たものに「冷暖房設備」(ルームエアコンなど)があり一緒くたにされることがありますが、この2つには違う特徴があります。
冷暖房設備は、その名の通り”温度調節”ができる設備です。
そして、空調設備は温度調節に加え”湿度や気流を含めた調和”が可能なのです。
温度・湿度・空気清浄・気圧などを適切な状態に調節することができるので、快適で安全な空間・環境作りが可能となります。
空調は、対象とするものによって大きく2つに分類されます。
産業用空調 | 保健用空調 |
労働環境の改善に使用される空調
・機械やコンピュータの機能維持 ・貯蔵庫で保管する物の品質管理 ・働く人のため労働環境維持 |
一般的な建物で使用される空調
・オフィスビル、ホテル、病院、学校、各種商業施設など、働く人や居住する人が快適かつ健康に過ごせるように設置されるもの |
また、熱を運ぶ媒体として何を利用するかによっても、空調システムというのはいくつかに分類されます。
種類 | 特徴 |
全空気方式 | 熱輸送に”空気のみ”を用いるもの
・劇場、体育館などの大空間に適している ・空調機を集中配置するため、保守が容易 ・省エネルギー制御方式が容易に行える ・ダクトスペース、空調機械室が大きくなる |
全水方式 | 熱輸送に”水のみ”を用いるもの
・ダクトスペースが不要 ・エアフィルタなどを分散配置するため、保守に手間がかかる ・換気扇、全熱交換器など、換気に別の機器を要する必要がある |
水・空気方式 | 熱輸送に”水と空気”を併用するもの
・ダクトスペースが小さくできる ・エアフィルタなどを分散配置するため、保守に手間がかかる |
冷媒方式 | 熱輸送に”冷媒配管”を使用するもの(エアコンが代表的)
・上の3つに比べ成績係数が高く、最も省エネを図れる ・個別分散するため、温度制御が容易で快適性が増す ・個別分散かつ耐久性が低いことから、長期的な修繕、更新コストが高くなる |
配管工とは
配管工の基礎知識
「配管工」とは、配管工事や各設備の取り付けを専門とする技術者のことをいいます。
この工事の区分は下記のように分けられています。
衛生配管工
冷媒配管工
ガス配管工
医療ガス配管工
消火配管工(防災配管工)
主には、「給排水設備」「ガス設備」「空調設備(空気調和設備)」の分野で必要となります。
配管時に使用する管にはいくつもの種類が存在するため、専門的な知識や技術・技能を必要とする仕事です。
また、新設のみでなく、メンテナンスや修理を担当することも多くあります。
配管工になるには
配管工の仕事に就くために、必須となる条件や資格というものはありません。
配管など設備工事を取り扱っている会社に就職をし、見習いとして現場を経験して知識や技術を学んでいきます。
また、職業訓練校があるので、そこで配管工としての専門的な知識や技術を勉強した後に就職を目指すこともできます。
取得すべき資格
必須となる資格こそありませんが、自身のキャリアアップのために取得しておいた方がいい資格はいくつか存在します。
【①:配管技能士】
これは、建築物の配管に関する技能を認定する国家資格です。
学科・実技試験があり、技能検定試験では「建築配管作業」と「プラント配管作業」に区分されています。
等級、およびそれぞれに必要な条件は下表の通りです。
等級 | 受験資格 |
1級 | 以下、どれかの条件を満たすこと(学歴により必要な実務経験数は異なる)
・7年以上の実務経験 ・2級合格後、2年以上の実務経験 ・3級合格後、4年以上の実務経験 |
2級 | 以下、どれかの条件を満たすこと(学歴により必要な実務経験数は不要となる)
・実務経験2年以上 ・3級合格者 |
3級 | 不問 ※プラント配管作業は、1級・2級のみ※ |
尚、プラント配管作業は、工場設備などで利用される特殊配管を扱う資格のことです。
配管技能士の資格を取得する人は、建築配管作業(住宅・店舗・事務所ビルなどの配管作業を手掛ける)を受験する人の方が多い傾向にあります。
受験難度は、3級は入門編という位置づけでさほど難しくはありません。
しかし2級からは長い実務経験も伴うことから難易度が高く設定されています。
特に1級まで取得することができれば、高い知識と技術を持った”配管工のプロ”として、実力を証明できるようになります。
【②:管工事施工管理技士】
これは、施工管理着国家資格の一つであり、取得することで管工事の施工計画の立案や作業員への指示出し、工程・品質・安全管理など、現場監督としての仕事を行うことができます。
等級は1級・2級が存在し、学歴によって実務年数が大きく変わってきます。
《1級》
学歴、資格 | 実務経験 | ||
指定学科 | 指定学科以外 | ||
・大学
・専門学校(高度専門士) |
卒業後3年以上 | 卒業後4年6か月以上 | |
・短期大学
・高等専門学校 ・専門学校(専門士) |
卒業後5年以上 | 卒業後7年6か月以上 | |
・高等専門学校
・専門学校(専門士以外) |
卒業後10年以上 | 卒業後11年6か月以上 | |
・その他 | 卒業後15年以上 | ||
・2級取得者 | 合格後5年以上 | ||
・2級取得後
5年未満 |
高卒 | 合格後9年以上 | 合格後10年6か月以上 |
その他 | 合格後14年以上 |
《2級》
学歴、資格 | 実務経験 | |
指定学科 | 指定学科以外 | |
・大学
・専門学校(高度専門士) |
卒業後1年以上 | 卒業後1年6か月以上 |
・短期大学
・高等専門学校 ・専門学校(専門士) |
卒業後2年以上 | 卒業後3年以上 |
・高等専門学校
・専門学校(専門士以外) |
卒業後3年以上 | 卒業後4年6か月以上 |
・その他 | 卒業後8年以上 |
学歴によって受験資格が大きく変わることからも分かる通り、受験難度は配管技能士よりも高くなっています。
ただし、現場監督としての仕事に従事できることから、取得できれば自身のキャリアアップに大きく貢献してくれます。
その他の資格
ここからは、取得しておいても損のない資格についてのお話です。
大きく”管工事に関連するもの”と”現場作業において役に立つもの”に分けて、箇条書きでご紹介していきます。
《管工事に関連する資格》
建築設備士
消防設備士
排水設備工事責任技術者
排水設備のみ民間資格ですが、それ以外は全て国家資格のため、取得しておくことで技術の証明ができ、キャリアアップの際に優位となります。
《現場作業において役に立つもの》
高所作業者
研削砥石
玉掛け
フォークリフト
職長 安全衛生責任者
これらは、工事現場においてなくてはならない”技能系の資格”です。
資格を取得していると、現場の作業範囲が広くなり、多様な仕事に対応することが可能となります。
資格は、必ずしも必要なものではない
職に就く際に「学歴・資格は不問」とされるケースが多い配管工において、大事なのは”資格”ではなく”経験”です。
上述で紹介した資格は、あくまで”自身のキャリアアップのために取得しておいて損のない資格”という意味です。
給与アップのため、再就職の時、独立する時……など、先々のビジョンが見えている場合に、自身が必要とする資格を取得していくのがいいかと思います。
資格を取得するためには、受験費用も掛かってきますし、勉強するため・受験のための時間も必要とします。
闇雲に「資格を取ればいい」という訳ではありませんので、その点は良く考えた上で取得に向けて行動を起こしてみることをオススメします。
配管工の現状と将来性
配管工の現状
配管工事の施工会社は、大半が中小……もしくは零細企業であり、営業力や知名度・資本力の関係から、下請けとして働くケースが多いのが現状です。
これが、配管工を取り巻く大きな問題として挙がっています。
なぜなら”発注者との間に別の業者(大手企業など)が入るため、中間マージンが発生する”からです。
下請けという立場上、どうしても利益が薄くなりがちであり、作業員の給料も低くなってしまうこともあります。
建設業界全体の課題
また、業界全般の課題として”人手不足”も課題となっています。
理由は2つ。
若年層の人口減少
建設業界は業務の関係上、体力を必要とします。また”危険を伴う仕事”という認識があり、特に若者の志望者が多くないのが現状です。
将来性は……?
少々ネガティブな記載をしてしまいましたが、逆に考えると”職に就きやすい”という利点に繋がります。
管工事は、人が生活をしていく中で必ず必要となる作業です。
水道やガスといったインフラ工事は、需要が非常に高く、仕事は十分すぎるほどに存在します。
このことから、どの施工会社も人材確保に向けて様々に動き出しています。
「学歴不問」「未経験OK」という求人条件に加え、「ヤル気があれば大丈夫です!」という求人も見られることから、働き口そのものを見つけることは比較的容易な業態ではあります。
まとめ
建築業界の需要は世の景気に左右される傾向がありますが、人々の生活に密接に関わりがある「配管工」の需要がなくなる……ということはこの先もありません。
現に、都心部ではマンション建設が盛んに行われ、地方でも大規模商業施設の建設などの街全体の再開発も増加しています。
また、老朽化によるメンテナンス工事なども建物が存在する限り無くなることもありません。
“職人の減少”という課題も浮き彫りになっていることから、配管工の仕事は他業種に比べても採用されやすい傾向にあります。
ただし、職に就くことはできても、その後を長く続けていけるかどうかは自分次第です。
体力を必要とし、空調設備のない環境で仕事をすることから、季節の影響を受けやすい仕事となります。
もし「配管工に興味がある」という場合であっても、どんな仕事かをしっかり吟味し、将来のことも考えた上で求人を調べてみるのがいいかと思います。
尚、この仕事のやりがいについてですが、
自分の手掛けた仕事が、誰かの生活の役に立つ
……という点が挙げられます。
再三申し上げている通り、この仕事は人々の生活に深い関りを持っています。
水漏れ・ガス漏れなどのトラブルは、専門知識を持った職人にしか対応できません。
一見すると「地味な作業……」と感じる方もいるかもしれませんが、こういったトラブルを解決できるのは配管工の職人のみです。
この点に魅力を感じ、長く仕事を続けている方もたくさんいらっしゃいます。
楽な仕事ではありませんが、その分やりがいや達成感を感じることができる仕事でもあります。
興味を持たれた方は、配管工に関する知見を広げ、一歩踏み出してみるのも面白いかもしれません。