建物を取り壊して土地を更地にする解体業は、建築業や不動産業には欠かせない存在です。
そんな建築業を始めるには何か特別な資格や申請は必要なのでしょうか。
建築業者、解体業者の中には資格や許可を得ずに仕事を請けている悪徳な業者もありますが、発覚した際には相応の処罰を受けなければなりません。
故意でなくても「知らなかった」では済まされませんので、あらかじめ解体業に必要な資格や許可、そして安心安全な作業の流れを把握しておきましょう。
解体業に必要な申請3つ
解体業に必要な申請を3つご紹介します。
解体業を直接依頼主から受ける元請け業者であっても、別の業者から作業の依頼を受ける下請けの業者であっても、解体工事登録、または建設業許可の申請が必要です。
それぞれにどのような違いがあるのかを確認しましょう。
また、解体工事にはつきものの産業廃棄物を運搬するためにも許可が必要ですので、事前にしっかり準備しておきましょう。
解体工事登録
解体工事登録は各都道府県に向けて申請をおこないます。
解体業を始めたいと思っているエリアによって申請先は違いますので間違えないようにしてください。
解体工事登録は下記の建設業許可よりも比較的条件が緩いです。
その代わり500万円未満の工事しか受け付けられないという条件がありますので、どの規模の業者にするのかを検討した上で申請しなければなりません。
解体工事登録の申請をおこなうには、技術管理者がいることが必須です。
技術管理者になるには一級建築士などの国家資格を所有していること、一定期間以上実務経験があること、さらに都道府県によっては特別に講習を受けなければならないこともあります。
さらに解体工事登録を申請する際の書類に虚偽があると受け付けてもらえません。暴力団との関係がないなどの条件もありますので、すべてをクリアしている状態で申請の準備を進めましょう。
建設業許可
建設業許可を受ければ、工事金額の上限がなくなります。
また全国各地どの場所でも解体作業を受け付けることができます。
建設業許可は一度得ればそれで終わりというわけではなく有効期限が5年間と定められています。
5年経過したらまた申請しなおさなければならないので、忘れないようにしてください。
また、建設業許可を得る条件は解体工事登録をおこなうよりも厳しいです。
許可を得るための許可手数料、登録免許税も必要です。
さらに営業所には一人以上の営業所専任技術者を配置しなければなりません。
条件を満たす人員が揃っている、大規模な解体業者を立ち上げたいという場合には建設業許可が必要ですが、個人経営の小規模な解体業者の場合は無理に取得する必要はありません。
産業廃棄物収集運搬業許可
解体業に必要な許可は上記の解体工事登録と建設業許可の2種類ですが、さらに産業廃棄物収集運搬業許可の申請も忘れてはいけません。
解体作業では建設資材の多くの廃棄物が出ます。この廃棄物は放置していいわけでも一般ごみとして処分していいわけでもなく、しかるべき場所に処分費用を支払って処分しなければなりません。
産業廃棄物収集運搬業許可は各自治体に申請するものです。
この産業廃棄物収集運搬業許可がないと、他の産業廃棄物収集運搬業許可を得ている業者に処分を依頼しなければなりません。余計な費用がかかってしまい、解体にかかる費用が高くなる、業者の負担が大きくなるなどの原因になります。
産業廃棄物収集運搬業許可を得ずに作業をしたり、産業廃棄物収集運搬業許可を得ている業者が違法な方法で廃棄物を処理した場合、その業者にも罰金や刑事罰が与えられますが、依頼した人にも責任が及ぶこともあります。
解体業に必要な資格5つ
解体業をおこなうためにはさまざまな資格が必要です。
解体業と言えば手作業で建物を壊すだけのイメージもありますが、これらの資格がなければ作業を進めることができません。
資格を取得している人材を集める、自らが資格を取得する、従業員に働きながら資格を取得できるサポートをするなどの工夫も必要です。
足場の組立て等作業主任者
大きな建物の解体をおこなうには足場の組み立てをする必要があります。
この足場の組み立てには、足場の組立て等作業主任者という資格を持っている人が携わらなければなりません。
足場の組立て等作業主任者になるには足場作業の一艇期間以上の実務経験がある、高校や専門学校、大学などで土木や建築に関する学科を学んだ経験があるなどの条件を満たし、かつ足場の組立て等作業主任者になるための講習を受けなければなりません。
条件によっては免除される講習もあります。
ガス溶接作業主任者
建物の解体の際に金属を溶断しなければならない、加工しなければならないケースもあります。
そんなときにはガス溶接作業主任者の資格所有者が必要です。
ガス溶接作業主任者の資格試験は溶接に関連する技術の問題や法律の問題が出題されます。
このガス溶接作業主任者の資格を受験するための条件はありませんが、大学などで溶接の技術を学んだ経験があると有利です。
この経験がない場合は実務経験を証明しなければなりません。
建設機械施工技士
建設機械施工技士は国家資格の一つで、建設や解体に関連する機械を扱える技術や実務経験のある人に与えられる資格です。
建設機械施工技士の資格は一級と二級があり、一級の方が対応できる仕事の範囲が広くなります。
現場の監督だけでなく、大きな現場の主任技術者、監理技術者としても活躍できます。
二級は第一種から第六種までに分かれておりそれぞれに扱える機械が違いますが、一級を取得すれば扱う機械の制限もありません。
その分当然一級の方が試験の内容や受験資格者の条件は厳しくなります。
指定された学科を修了した、一定期間以上の実務経験があるなどなど。
大学や高校、専門学校で指定された学科を学んだことがない人の場合は15年以上もの実務経験がなければなりません。
このことからも、建設機械施工技士一級の資格は非常に難易度が高いことがわかるでしょう。
石綿作業主任者
古い建築物にはアスベストが使用されているものが多いです。
アスベストはかつては耐火性や防音性、断熱性が高く安価な素材として建築に取り入れられてきましたが、発がん性があることが発覚してからはその使用は法律で禁止されています。
ですが解体する際にはアスベストが使われている建物にも対応しなければなりません。
事前の調査でアスベストの使用が発覚した場合、建物全体を覆う、特別なクリーンルームを設置するなど、解体以外の作業も追加しなければなりません。
その際に必要なのが石綿作業主任者の資格所有者です。
大気汚染防止法という法律に則り書類を作成し、作業に入る前に労働基準監督署で提出するなどの仕事があります。
この石綿作業主任者になるには10時間程度の講習を受けた後1時間の試験を受けて合格しなければなりません。
さらにアスベストが使用されている建物の解体をおこなう際は石綿作業主任者だけでなくその建物の解体に携わるスタッフ全員がアスベストについての特別な教育を受ける必要があります。
クレーン運転士
建物の解体にはクレーンなどの重機が必要なケースが多いです。
その際に必要になるのがクレーン運転士の資格です。
クレーンの資格にはクレーン限定のクレーン・デリック運転士免許、床上運転式クレーン限定のクレーン・デリック運転士免許、さらに制限のないクレーン・デリック運転士免許、そしてすべての移動式クレーンを操縦できる移動式クレーン運転士免許の4種類があります。
解体業ではさまざまな重機を取り扱わなければならないので、すべてのクレーンの操縦ができる移動式クレーン運転士免許を取得しておくといいでしょう。
クレーンの教習所に通えば10日程度で卒業できるだけでなく実技試験免除で合格できるというメリットがあります。
事業所に必要な技術管理者と管理責任者
解体業者の事業所には技術管理者、管理責任者を配置する必要があります。
それぞれにどのような条件があるのか、何ができるのかを確認していきましょう。
技術管理者になるために必要な資格
技術管理者は現場を管理する、現場の安全を守る責任者です。
技術管理者になるためには建築士、建設機械施工技士などの国家資格を取得する必要があります。
二級とび・とび工の資格を所有している場合でも技術管理者を目指せますが、その場合は1年以上の実務経験を証明しなければなりません。
また、国家資格を所有していない場合、土木工学や建築学といった指定された学科を大学や専門学校などで修了していなければなりません。
技術管理者になるために定められた条件は都道府県によって微妙に違いがあり、中にはこれらの条件を満たしていても講習を受けなければならないケースもあります。
管理責任者になるための条件
管理責任者は現場での安全を守る技術管理者とは別に、事業所の経理や従業員のシフト管理など、デスクワーク関連がメインの仕事を担当します。
経営の実績が5年以上あることが条件であり、建築や解体とはまた違った難しさがあります。
管理責任者と技術管理者は条件を満たしていれば同じ人が兼任しても構いません。小規模の解体業者の場合は兼任しているケースも少なくありません。
解体作業の流れを確認しよう
解体作業はどのような流れでおこなわれるのかを見ていきましょう。
解体はただ建物を壊すだけでなく、さまざまな工程があります。
工期を急ぎすぎると近隣トラブルの原因ともなるため、余裕をもってスケジュールを組むことが大切です。
依頼を受けて見積もりをおこなう
元請け業者の場合はまず現場に見積もりをしに行きます。
小規模な業者の場合は空き家などの住宅の解体を担当するケースが多いですが、大規模な業者になるとビルや商業施設など大きな建物の解体についての知識が必要です。
従業員はどれくらい必要か、どんな重機が必要か、足場を組み立てるのに何日かかるか、余裕のある作業スケジュールを組むことができるかなどさまざまな面から見積もり料金を算出します。
この際、解体によって出たゴミを処分するための処分料なども考えておかなければなりません。
解体工事の日程を決める
見積もりを提案して依頼主が契約を決めたら次の段階に入ります。
解体工事の日程を依頼主と相談して決めていきます。
小規模な住宅の場合解体工事は数日で終了しますが、大規模な施設の解体の場合はさらに日数が伸びることも。
重機をレンタルする場合は長引けば長引くほどレンタル料も高くなりますので、あとから予定が伸びて追加料金を請求しなければならなくなった、ということのないようにしましょう。
作業日程は短い方がいいと思われがちですが、急いで解体作業をおこなうと騒音やホコリが近隣の迷惑になってしまいます。
アスベストが使われている建物の場合はより慎重に作業を進めなければなりません。
周辺への挨拶、説明をおこなう
周辺への挨拶や説明も解体業者の仕事の一つです。
作業中は騒音やホコリが出るかもしれないこと、何時から何時の間まで作業をするか、何日間作業が続くかなどを明瞭に説明します。
あらかじめ解体による影響が出ることを近隣に説明しておくことでトラブルを回避しやすくなります。
この工程を飛ばしていきなり解体作業を始めると、近隣の迷惑になるだけでなく依頼した人がその後その土地に住み続ける場合悪い印象を抱き続けられてしまうという影響もあります。
解体業者の従業員が誠意を持って対応することが大切です。
足場や養生を作る
重機でいきなり解体を始めるのではなく、まずは足場や養生を作って従業員が作業しやすい環境を作ります。
ブロック塀などがあって重機や足場の材料を入れられない場合は先にこれらを解体します。
また、アスベストが使われている建物の場合はアスベストの飛散対策のために特別な養生を作らなければなりません。
騒音の被害が大きいことが予想される場合は防音性の高い素材で養生していきます。
周辺に民家や建物がない場合は養生をしないこともあります。
家具などが残っている場合は撤去する
解体作業によって出る建築資材のゴミは解体業者が指定の場所へ運んで処分できますが、そうでない一般の家庭ごみは解体業者が持ち出すことはできません。
住宅や施設の中に家具や家電、その他生活に必要なものが残っている場合は先に撤去しなければなりません。
解体業者の作業の範囲外ですので、依頼主自身に持ち出してもらう、別途不用品回収業者に引き取りの依頼をしてもらう必要があります。
残ったガラスなどは解体業者の従業員が手作業で分別していきます。
中には無暗に破壊することで人体に悪影響が出る資材もありますので、慎重に作業を進めなければなりません。
作業する従業員の安全のためにもこの分別の段階は非常に大切です。
手作業で解体を進める
いよいよ解体作業を進めていきます。
まずは従業員が手作業で壁や外壁、天井などを取り壊していきます。
粉塵を吸い込まないようにマスクやメガネ、防護服を身に着け、怪我がないように作業を進めていかなければなりません。
木造住宅の場合は簡単に解体できるので、作業の大半を手作業で済ませられるケースも。
ですが比較的新しい木造住宅の場合は丈夫な素材が使われていたり、構造が複雑だったりして手作業でできる範囲が限られていることもあります。
重機を使って解体を進める
ある程度の解体が進んだら重機を使った解体作業に入ります。
いきなり重機を使うと騒音や建物が倒壊した際に近隣への被害が大きくなるため、重機を使うのは最後の段階です。
重機を運転する従業員、指示を出す従業員、近くの道路に影響が出る可能性がある場合は交通整備をおこなう従業員など、各場所に適した従業員を配置しなければなりません。
廃棄物を指定の場所へ運ぶ
解体によって出た廃棄物を指定の場所へ運搬します。
リサイクル資源となるもの、産業廃棄物とに分類し、それぞれの場所に運ばなければなりません。
リサイクル資源となるものは買い取ってもらえることもありますが、大きな金額にはならず、廃棄物の処分料の足しになる程度です。
解体業者の中には悪徳な業者もあり、この廃棄物の運搬を怠っている可能性もあります。
処分料を支払わず不法投棄するケースがたびたび見られます。これは立派な犯罪行為であり、解体業者だけでなく依頼主にも刑が科せられる可能性もあります。
土地を整地する
最後に土地を整地して解体業者の作業は完了です。
廃棄物が残っていることのないよう、きちんと確認してください。
整地が終わると最終的な料金が決定します。
スケジュールが伸びたり廃棄物の処分料が想定以上に高かった場合はそれらの料金をきちんと説明して追加で請求しましょう。
解体業者の中には追加料金があること前提で見積もりを出す業者もありますが、事前に追加料金の可能性があること、どれくらい金額が高くなる可能性があるかなどを説明しておくと依頼主も安心できます。
解体業を始めるまでの準備を進めよう
解体業を始めるために必要な許可や資格について解説しました。
解体業は建築業と同じ資格や許可が必要な面も多いですが、解体業者ならではの営業許可なども必要です。
解体業者を設立したい、または解体業者で働きたい場合は、国家資格や営業許可について、またその仕事内容についてもきちんと把握しておく必要があります。
何がどの段階で必要なのか、どんな心構えや手順が必要なのかを事前に確認し、信頼されて長続きする解体業者を目指しましょう。