戸建て住宅からマンション、ビル、商業施設まで、街のあらゆる建物には塗装が施されています。
塗装工は建物の仕上がりを左右する非常に重要な仕事です。
今回は塗装工について、その仕事内容や塗装の種類、やりがいや将来性などについて解説します。
就職や転職のコツについても紹介するので、建築業界の中でもとくに塗装工に興味があるという方はぜひ参考にしてください。
塗装工の仕事内容をチェック
まずは塗装工の仕事内容を確認しましょう。塗装工の仕事を街で見かけたことがあるという方も多いでしょう。建物の外壁をペンキなどの専門の塗料を使って塗り固めていく仕事がメインです。
ですが塗装工の職人はただペンキを塗っているだけでなく、建物をより美しく、より長持ちさせるために、さまざまな工夫をこらしています。
また、建物以外の塗装を請け負うこともあります。
外壁塗装
塗装工と言えば一般的に広く認知されているのがこの外壁塗装の仕事です。
一戸建て住宅からアパート、マンション、大型のビルや倉庫、工場など、さまざまな建物の外壁を塗装して仕上げていきます。
外壁塗装はただ見た目を美しくするだけが目的ではありません。断熱性の高い塗料を使って建物内の気温を適温に維持したり、建物を雨水から守ったり、汚れにくくしたりといった役割も果たしています。
建物はもともとの資材だけでは劣化しやすく、雨漏りや腐食もおこりやすくなってしまいます。建物の劣化を防ぎ、より長く安心してその建物を利用し続けられるようにすることも、塗装工の立派な仕事です。
メンテナンス
塗装は建設時に一度おこなえば永久にそのままでいいというものではありません。
雨や潮風、紫外線などによって塗装は日々劣化していきます。多くの建物は数年、または十年程度単位で塗装のメンテナンスをする必要があります。
塗装が剥げている、ひび割れている部分があれば塗装をし直します。
クライアントが最新の塗料を希望した場合は建物全体の塗料を一旦剥がし、最新の塗料を建物全体に使っていきます。
塗装は小さなひび割れから一気に広がり、そこから雨水などが建物に浸食していきます。塗装する高い技術も必要ですが、些細な漏れも見逃さずきちんとメンテナンスをする技術も高めていかなければなりません。
リフォーム・リノベーション
近年は少子高齢化に伴い、新築一戸建てを建てたいというよりも今ある住宅に長く住み続けたいという方も増えてきています。
住みやすく、綺麗な住宅にするためにはリフォームは欠かせません。仕上げに外壁を塗装してもらうことで、住宅の中も外も新築のように美しく仕上げることができます。リフォームの場合は新築よりも安く抑えられるため、費用をかけたくないという方にも人気です。
また、古民家をリノベーションするのも人気です。より自分の住みやすい間取りやデザインにしやすく、新築よりも低価格です。古民家の場合は塗装がかなり劣化していることが多いため、塗装のやり直しを希望する方が多いです。
リフォーム、リノベーション、いずれの場合も一旦今ある塗装を剥がし、完全に汚れを取り除いた上で新しく塗装を施していきます。
板金塗装
塗装工と言えば建物の外壁塗装が一般的ですが、それだけでなく板金塗装という塗装の種類もあります。
これは自動車、電車、バイクなどに塗装をおこなう仕事です。その名の通り主に金属のパーツや本体に塗装をおこないます。
車やバイクが好き、こまかい作業が好き、金属や板金についての知識が豊富、専門学校で板金塗装について学んだ経験がある方などは、外壁塗装よりもこの板金塗装を選ぶケースが多いです。
もともと車のパーツのカスタマイズが好きで、そこから仕事にするようになったという方もいます。
こちらも最初の塗装だけでなく、メンテナンスや修理、中古車の塗装などをおこなうこともあります。
塗装工が活躍できる場所
塗装工の仕事をしている人はどこに就職しているのでしょうか。
どんな会社に就職すれば塗装工として活躍できるのか、主な就職先について紹介します。
ハウスメーカー
外壁塗装の仕事ができる場所としてまず挙げられるのがハウスメーカーです。
それぞれのハウスメーカーの規定に則った方法、塗料を用いて住宅の仕上げの塗装をおこないます。
クライアントが指定した色や素材の塗料を用い塗装をしていくという一般的な仕事内容です。
クライアントの喜ぶ顔が見られる、建物の仕上がりを左右するという、やりがいを感じられる場所でもあります。
ハウスメーカーでは基本的に一戸建ての塗装のみをおこないます。より大きな建物の塗装にチャレンジしたいという方には少し物足りないかもしれません。
また、ハウスメーカーが決めたルールやハウスメーカーが仕入れている塗料しか使えないという制限の中で仕事をする必要もあります。
建築会社
建築会社で塗装を仕事にする方も多いです。
塗装以外の仕事を同じ職人がおこなうことも多いため、塗装の知識だけでなく建築に関する幅広い知識や経験が求められます。ですが建築業界は学校で座って学ぶよりも現場で得ることの方が多いため、未経験でもやる気次第で採用される可能性も高いです。
建築会社では新築一戸建ての外壁塗装はもちろん、マンションや学校、オフィスビル、商業施設、テーマパークのアトラクションなど、さまざまな建物の塗装を手掛けます。より大きな仕事をしたい!という方はハウスメーカーよりも建築会社を選んだ方がいいかもしれません。その際は大規模な建築会社を選びましょう。過去の実績などから自分がやりたい仕事が含まれているかを確認することも忘れずに。
リフォーム会社
リフォーム会社でも塗装工の需要は高いです。
古くなった建物の塗装をやり直すためには今ある塗装を一旦剥がし、外壁の汚れをすべて取り除いた上で再度塗装を施さなければなりません。
新築の塗装よりもさらに高い技術が求められる仕事でもあります。
現在の建物の外壁と近い色を提案したり、より美しく見える色を提案したりといった仕事もあります。
何十年も前に塗装に使われた塗料や品質が悪い可能性も高いです。より紫外線や雨水に強い、断熱性が高いなど、優れた塗料をクライアントに提案することも塗装工の仕事に含まれることも。
塗装会社
塗装工の中でもより自由に塗装の仕事をおこないたいなら塗装会社がおすすめです。
塗装のみを専門におこなっているため他の建築の技術や国家資格などが必要なく、未経験でもチャレンジしやすいというメリットもあります。
ですが他の技術や知識がないまま塗装会社に就職してしまうと、さらにその後転職する際に塗装業界から異業種に転職しにくいというデメリットがあるので注意してください。
塗装会社では、依頼された塗装を請け負うだけが仕事ではありません。
どんな塗装が最適か診断する、最新の塗料や塗装方法について学ぶ、どの塗料を仕入れるか考える、メーカーと直接取引をするなどの仕事があり、より塗装に特化した仕事を学べます。
塗装一本のため、他の競合他社やリフォーム会社などより劣っていては仕事を得られません。日々勉強し、技術を磨いていくことが求められます。
車両メーカー
板金塗装をおこないたい方の場合は車両メーカーに就職するのもおすすめです。
新車の塗装、パーツの塗装などをおこなえます。
世界的に有名なブランドの下請けや街のメンテナンス店、車のパーツ販売店などでも車やバイクを塗装する仕事はあります。
車やバイクが好き、パーツなど細かい塗装の方が向いていると感じる、塗装だけでなく車両のメンテナンスや改造などにも興味があるという方にはぴったりの就職先です。
塗装工の年収はどれくらい?
塗装工の年収は、就職する先によっても微妙な違いがあります。
ハウスメーカーの場合は塗装工がから営業や他の職人より給料が高い、低いということはなく、一般的に300万円程度の年収を得られます。
建築会社の場合は中小規模の会社ならハウスメーカーと同じく300万円程度ですが、大きなビルなどの塗装も手掛ける大手企業であれば350万円から400万円程度の年収を得られます。
塗装会社の場合は350万円程度が平均年収です。塗装会社にも規模がありますが、より高い年収を目指すのであれば創業年数が長い、月給だけでなく賞与も高い、資格手当てなどがあるといったポイントもチェックして応募しましょう。
どの就職先であっても塗装工の職人は人口が少ないため需要が高いです。人員不足を解消するためにいい条件を提示している会社も多いですので、現在の会社に不満がある方はより塗装工の職人を大切にしてくれる会社への転職を検討することもおすすめします。
塗装工のために必要な資格はある?
塗装工の仕事をするために必要な資格について紹介します。
塗装工のための必須の資格はありませんが、自分の知識や技術を証明するために役立つ資格はたくさんあります。
資格を取得しておけば就職活動や転職活動で役立つだけでなく、取得の際に得た知識を仕事に還元し、よりよい仕事ができるようになります。
資格を持っている人にしか任せられない仕事もあるため、資格手当てが出る会社も。
今後より塗装業界で活躍するためにも、民間資格から国家資格まで、取得できる資格をチェックしていきましょう。
塗装技能士
塗装工の中でもぜひ取得しておきたいのが国家資格である塗装技能士です。
木材、金属、その他さまざまなものへの塗装の知識が求められます。塗料の違いや塗装する道具の違いなどの知識も必要です。
塗装技能士の資格は金属、木工の他5つに分類され、さらに3級から1級までがあります。
3級は実務経験なしでも受験できますが、2級は2年以上、1級は7年以上の実務経験が必要です。現場で働きながら実務経験を積み、その上で資格取得を目指す方が多いです。
塗装工は無資格でも働けるため、技術がないスタッフに塗装を依頼してトラブルになることも少なくありません。ですが塗装技能士の資格があれば知識、技術だけでなく実務経験があることも証明できるためクライアントに信頼してもらいやすく、仕事を得やすくなります。
塗装工事業許可
大規模な塗装をおこなう会社はこの塗装工事業許可を申請する必要があります。
まずは小規模な塗装の工事を5年以上おこなっていること、専任技術者を配置できること、500万円以上の資本があること、一定期間違法行為をしていないことが条件です。
これらの条件を満たし、さらに誠実であることが認められれば許可を得られ、500万円以上の規模の塗装工事を請け負うことができるようになります。
この塗装工事業許可は一度取得したら終わりではなく、5年ごとに更新する必要があります。更新期間以内に上記の条件から外れると許可を得られません。
その分、塗装工事業許可を何度も更新している塗装会社は誠実でクオリティの高い仕事をするという証明にもなります。
足場の組立て等作業主任者
塗装をおこなう際は建物の上部までムラなく塗装しなければなりません。その際に足場を組み立てる必要があります。足場は作業員の命を左右する非常に重要なポイントのため、足場の組立て等作業主任者を現場に配置する必要があります。
足場の組立て等作業主任者の資格を得るには3年以上の実務経験がある方、専門学科修学後2年以上の実務経験がある方などの条件があります。
講習会に参加して一定時間の講習を受ければ資格を取得できます。申込もインターネットから気軽にできるため、実務経験などの条件を満たしている方は積極的に取得しましょう。
外壁診断士
国家資格ではありませんが、民間資格としては外壁診断士があります。
外壁についての豊富な知識を持つ人に与えられる資格で、この資格があれば外壁についてクライアントにさまざまなアドバイスができるようになります。
安全性や耐久性の高い外壁、クライアントの希望に沿う塗料の提案、さらに新築だけでなくリフォームやメンテナンスについての知識も高められます。
外壁診断士は民間資格ではあるものの実務経験が5年以上必要であり、さらに2級建築士や木造建築士、インテリアコーディネーターなどの国家資格を取得していなければなりません。
資格を受験する際はこれらの受験資格をしっかり確認した上で申し込むようにしてください。
外壁塗装マイスター
外壁塗装マイスターも民間資格ではありますが、実務経験や資格が必要です。2級以上の建築士の資格、1級の塗装技能士の資格、カラーコーディネーター、窯業サイディング塗替診断士などの資格を取得している必要があります。
外壁塗装業者の中には悪徳な業者も多く、年々多くのトラブルが報告されています。外壁塗装マイスターのような厳しい受験資格がある資格を取得しておくことで、よりお客様に選ばれる、信頼してもらえる職人を目指すことができます。
一定以上の塗装の技術、経験があることを証明できますので、仕事に役立てるためにも、また転職や就職に役立てるためにも取得を目指しましょう。
塗装工の将来性を考えよう
塗装工の仕事に就きたいと思ったとき、将来性について考えることは非常に大切です。建築業界はオリンピックに向けて一時的に好景気となりましたが、今後は少子高齢化の影響を受けて徐々に衰退していくと言われています。
そんな中で塗装業は生き残っていけるのか、どんな人材になれば仕事を獲得し続けられるのかなどを考えていきましょう。
職人不足が続いている
塗装業だけでなく建築業界では常に職人不足の状態が続いています。とくに若者で塗装工をやりたいと思う方が少なく、高齢者の職人が体に鞭を打って働いているのが現状です。
そのため、若い内に塗装の技術を身に着け現場での経験を積めば、重宝される人材になれるでしょう。
せっかく就職しても屋外での仕事や力仕事のハードさ、上下関係の厳しさ、残業や休日出勤の多さなどから仕事をすぐにやめてしまう方も少なくありません。この仕事を長く続けるには無理はせず、条件のいい就職先を選ぶことが大切です。
メンテナンスなど長く需要がある
大型ホテルやリゾート施設などの増加が見込めない昨今では、建築業界は衰退していくと考えられいます。少子化も進んでおり、新築の一戸建てを建てる方も今後ますます減少していくでしょう。
ですが塗装工は新築の建物だけでなく、既存の建物のリフォームやリノベーション、メンテナンスなどの需要があります。
新しい家を建てる余裕はなくても今住んでいる家を長く大切にしたいという方にとって、建物を守ってくれる塗装は重要なポイントです。
建築業界で働きたい方は、塗装工のような長きに渡って仕事を得続けられる可能性が高い業種を選ぶことをおすすめします。
日々最新の塗料や塗装方法が生まれている
塗装はただペンキをブラシで塗るだけの仕事ではありません。下処理や最適な道具を使い、その建物にとってベストな塗装をする必要があります。
塗装の技術を磨くことはもちろん大切ですが、それだけでなく最新の情報をチェックすることも大切です。
より低価格でより耐久性の高い塗料が開発されたり、よりムラなく塗れる道具が開発されたり、海外での塗装事例が報告されたり、塗装業界は日々変化しています。
いつまでも古いやり方をしていると効率が悪く、依頼のための金額も高く、さらに他の競合他社よりも古い塗料しか使えなくなってしまいます。
最新の技術を駆使して塗装をしていることをクライアントにアピールできればより安心して依頼してもらうことができます。
日々勉強する姿勢を忘れずに、常に新しい情報をキャッチできるようにしておくことも大切です。
塗装工のやりがいは?
塗装工は大変なことも多い仕事ですが、その分やりがいを感じられる瞬間もたくさんあります。どんなやりがいがあるのかについて紹介します。
多くの人に自分の仕事を見てもらえる
塗装は建物の中でも一番多く見られる部分です。自分の仕事が完成したのを見られるだけでなく、クライアント、そして通行人やその施設を訪れた人など、多くの人に自分の仕事っぷりを見てもらうことができます。
美しい塗装をすればその分喜んでもらえますし、反対に雑な仕事をすれば一目瞭然です。常に緊張感はあるものの、だからこそよりいい仕事をしようと思えます。
知識や経験が結果として見えやすい
塗装工は学ぶことがたくさんあり、実際に現場で働いてみないと掴めない技術やコツもたくさんあります。一筋縄ではいかない仕事ですが、その分学んだ知識や経験をすぐに仕事に還元できます。
昨日できなかったことが今日はできるようになったり、より美しくスピーディーに仕上げられるようになったり、自分の成長を感じやすいです。そのため、大変な仕事でもやりがいを感じながら続けることができるでしょう。
学ぶことがたくさんあり成長できる
塗装工は塗料の種類、道具の種類、それぞれの素材に合う塗料や道具の選び方、さらにクライアントとのやり取り、現場でのコミュニケーション、安全確認など、覚えることが膨大にあります。
ですがそれらはすべて塗装工や建築の仕事で役立つものばかりです。学べば学ぶだけ自分の成長につながり、キャリアアップや転職の役にも立つでしょう。
資格をたくさん取得して信頼される職人を目指す、実務経験を積んでより大規模な塗装の仕事を請けられるようにするなど、目標を設定して自分の成長のモチベーションにつなげましょう。
塗装工を一生ものの仕事にしよう
塗装工の仕事内容について、さらに必要な資格や将来性などについて紹介しました。
塗装はただ建物の見た目を美しくするだけではなく、建物自体の耐久性を高める非常に重要な仕上げの仕事の一つです。選ばれる職人になるためには技術を磨き、資格を取得し、さらに最新の情報を常に取り入れる姿勢が必要です。
大変な仕事ではありますが建築業界の中でも将来性が高い仕事でもあります。一生ものの仕事を見つけたいという方は、ぜひ塗装工の仕事にもチャレンジしてみてください。