新型コロナウイルスの影響により、さまざまな業界でテレワーク化が進みました。
日本は先進国と比較するとテレワークの導入が遅れていますが、建築業界はとくにそれが顕著です。
建築業界でどうしてテレワーク化が進まないのか、その理由と、建築業界にテレワークを導入するメリットとデメリットについて解説します。
建築業界とテレワークの関係
東京商工会議所が2020年におこなったアンケートによると、建築業界のテレワーク導入率は41%です。これは他の業界と比較すると最低であり、「一度は導入したものの結局取りやめてしまった」という回答は32.4%とこちらは他の業界と比較しても最高の結果になりました。
このようになった背景にはさまざまな理由があります。建築業界では建築についての知識やスキルが豊富な人材が多い一方でITなどの知識、スキルが豊富な人材が少ないこと、とくに中小企業ではIT化を進めるための資金や時間がないこと、さらに建築業界で働く人材は高齢者が多く新しいことに抵抗があるなどです。
建築業界のテレワーク化が進まない理由として考えられている理由をそれぞれ詳しく見てみましょう。
ITに関する知識やスキルがない
テレワーク化を進めるためにはパソコンやソフト、ツールなどの知識が必要です。
建築業界で働いていると当然建築の知識が身に着き、専門的な国家資格を取得することも可能ですが、建築についての知識だけに偏ってしまいます。
ITに関する知識を身に着ける場がなくなり、結果的にITのスペシャリストがいない状態になってしまうため、テレワークを導入したくても任せられる人材がいないというのが現状です。
大手ゼネコン会社やハウスメーカーなどはそれぞれの部門に人材を配置できるので、ITに特化した人材を育成することもできます。ですが中小企業や工務店のような場合は必要最低限の人材で業務を賄っているため、なかなかITに関する知識を学ぶ場所を用意しにくいです。
導入するためのコストがない
テレワーク化を進めるためにはパソコンやマイク、タブレットなどのツールが必要です。
大容量のクラウドソフトやチャットツール、セキュリティソフトを取り入れるのにも費用がかかります。
中小企業、工務店などの小規模な建築の会社ではこのようなテレワーク化に必要な費用を捻出できないという問題があります。
また、テレワーク化に向けての研修やセミナーなども開催されていますが、厳しい工期をギリギリで補っているような中小企業はこのように人材を育成する時間も取れず、目の前の作業をもくもくとこなすだけで精一杯です。
政府は中小企業に向けてテレワークを導入するための補助金やサポートの制度を用意しているので、これらも利用するようにしてください。
高齢者が多く新しいことを導入しにくい
建築業界は現在、人材の3分の1が50歳以上です。高齢化が深刻な問題となっており、若手の人材の不足も懸念されています。
これまでアナログで作業を続けてきた高齢者がいきなりテレワークに慣れるのは難しく、ITに関して抵抗がある人も多いです。
ITについて知識が豊富な若手の人材もいない会社も多く、そうなると余計にこれまで通りの労働環境で問題ないという、現状維持の気持ちが強くなってしまいます。
建築業界は全体的に高齢者が多いため、一つの企業が導入しても他の企業と連携が取れず結局無駄になってしまう、一度取り入れたテレワークを取りやめてしまうという結果にもつながります。
建築業界にテレワークを導入するメリット
建築業界にはテレワークがなかなか浸透しませんが、それでもテレワークを導入するメリットがまったくないわけではありません。
導入を検討していない企業も、一度取りやめてしまった企業も、ぜひ建築の現場にテレワークを取り入れるメリットを今一度確認してみてください。
情報を共有しやすくなる
建築の現場では一人の仕事だけでなく全体での作業が重要です。社内で情報を共有するだけでなく、別の企業や業者、クライアントなどと情報を共有しなければなりません。
また、日々環境が変わる建築の現場ではスピーディーな情報共有が大切です。これに遅れが生じると別の作業にも影響が出てしまいます。
テレワークを導入し、書類やデータなどをクラウドソフトで管理すれば、紙の書類を作成したり送付したり、メールを送信したりしなくてもすぐに情報を共有できます。
最新の情報を誰がどこからでもすぐに確認できるので、作業の効率化にも効果があります。
書類の作成、送付、メールの作成などにかかる時間やコストを削減でき、従業員の負担軽減にもつながります。
離れていても重機の操作が可能
建築現場ではさまざまな重機が使われます。これらの操縦には特別な免許が必要であり、資格を所有している人材が少ない会社では一度につき請けられる仕事に制限があります。
ですが、近年は遠隔操作できる重機もあります。事務所や自宅、別の現場から重機を遠隔操作できれば、資格所有者が少ない会社でも一度につきたくさんの仕事を請けられます。
従業員の負担を軽減し、より安全な現場にできるというメリットもあります。
交通費や宿泊費を削減できる
建築業界の仕事は非常に打ち合わせや出張が多いです。
一日に何度もさまざまな相手と打ち合わせをしながら作業に取り掛かるのが常識ですが、これをテレワーク化することでさまざまなコストをカットできます。
打ち合わせが遠方の場合は往復の交通費、泊りがけの打ち合わせや作業になる場合は宿泊費も会社が負担しなければなりません。
ですが事務所や自宅でリモートによる打ち合わせができるようになれば、これらのコストは一切不要です。
また、従業員も移動のために何時間も使う必要がなくなり、その分を別の作業をする時間に回せます。これによって人件費の削減にも効果があります。
テレワークを導入するのはコストがかかりますが、このようなコストカットの面も踏まえて考えることが大切です。
建築業界にテレワークを導入するデメリット
建築業界にテレワークを導入するのにはデメリットもあります。
導入していない企業との連携が取りにくい、さらにスケジュール調整が難しいなどの面も見ておきましょう。
導入していない企業と連携が取れない
建築業界のテレワーク導入率は各業界の中でも最低であり、一つの企業が導入したからすべてがスムーズになるとは限りません。
クラウドソフトやチャットツールを導入していない企業と取り引きする際は以前と同様書類を送付、添付しなければなりませんし、リモートでの打ち合わせに対応していない場合は出向かなければなりません。
テレワークに関連するツールやソフトを導入したのに結局あまり使わなかったという声もあります。
スケジュール調整が難しい
テレワークを導入すればすべての従業員を出勤させる必要がなくなります。
自宅でできる作業は自宅でやってもらう、現場でもできる作業は現場でやってもらうという工夫ができますが、その分スケジュールの調整に時間をかけなければなりません。
事務所でしかできない仕事がある、その人にしかわからない仕事があるといった場合は、緊急の際にも迅速に対応できるようシフトを組む必要があります。
テレワークによる建築業界への影響を考えよう
建築業界とテレワークの関係について解説しました。
建築の仕事にテレワークを導入するとさまざまなメリットがあります。これまでの概念に囚われず、作業を効率化してコストカットができるテレワークの導入を検討しましょう。
導入する際はデメリットも確認し、無理のない方法で徐々に導入していくことが大切です。