建築業界と聞くと男性の仕事というイメージがある方も多いです。ですが建築業界で活躍している女性も多く、さらに近年は建築業界への女性の進出が進んでいます。
国家資格である建築士の資格取得率も女性の割合が増えてきており、今後も女性の建築士は増えていくことが予想されます。
とは言えまだまだ女性への理解が少ない現場も多く、大変な思いをすることも。女性建築士の現状や年収、長く働くためのポイントなどについて紹介します。
女性建築士の現状を確認
まずは現在女性建築士が置かれている状況を確認しましょう。
女性が建築士を目指す際、「男社会で働けるだろうか」「女性の建築士はどれくらいいるだろうか」という点が気になる方も多いです。
そんな悩み、疑問を解決し、女性建築士として活躍できるように心構えをしておきましょう。
女性建築士は全体の4分の1程度
現在、日本での一級建築士の割合は男性75:女性25程度です。建築士の4人に1人程度は女性ということになります。
数字だけ見ると決してありえないほど少ないというわけではありませんよね。
実際の建築業界でも、女性の建築士は珍しい存在ではありません。
女性で建築士を目指している方は、あまり女性だから…と気負わずに自分の夢に向かって建築士を目指しましょう。
ですが、現場で活躍している職人は男性が多いです。建築士はそんな男性にも指示を出したり話し合いをしたりしなければならないため、建築士としての能力や知識だけでなくコミュニケーション能力なども求められます。男性ならではの心の機敏などがわかりにくいため、そのような点で難しいと感じる女性もいるようです。
女性建築士が働きやすい環境整備が進んでいる
現状でも女性建築士の数は決して少ないわけではありませんが、女性が働きやすい環境整備が進んでいるため今後もその割合は増えていくことが予想されます。
二級建築士は大学で建築について学び試験に合格すれば取得できるため、女性だけでなく男性も建築士を目指しやすくなりました。
さらに国土交通省と5つの建設業の団体が協力し、建築業界で女性が働きやすいようにする取り組みもおこなっています。
建築業界は男性のもの、建築士は男性ばかり…というイメージも徐々に払拭され、今後さらに女性が働きやすい環境が整っていくでしょう。
世界的に有名な女性建築士も多い
世界には多くの有名な女性建築士がいますが、日本人の女性建築士もたくさんいます。
国内の賞だけでなく海外の賞を受賞したり、歴史に残るような建築物を手掛けたりとさまざまな場所で活躍しています。
女性は活躍できないのではないか、と不安になる必要はありません。建築士の仕事は性別ではなくそのデザイン性や機能性が評価される世界です。自分の感性や技術を磨き、第一線で活躍できる建築士を目指しましょう。
女性建築士同士のつながりがある
女性建築士の数はまだ少なく、会社に女性の建築士が自分一人しかいないということもありえます。
ですが建築士が集まるセミナーや研修、講習会などは各地でたくさんおこなわれており、勤めている会社以外でも建築士と交流を持てる機会は多いです。
そんな中で女性建築士と交流を持てれば、情報交換もしやすくなります。女性建築士に対するサポートや新しい制度、法律などの情報をキャッチしやすくなるだけでなく、現場での大変なことや女性ならではの悩みの相談もできます。
女性の数が少ない職場だと一人で抱え込みすぎてしまう方も多いですが、そのような方は他者の女性建築士と交流を持つことも考えてみてください。
女性建築士の年収
女性建築士の年収をチェックしてみましょう。
平成29年度の女性一級建築士の収入は、月収が36万円程度、賞与が125万円程度、年収は560万円程度という結果が出ています。一般の平均年収と比較すると高額です。
しかし男性の一級建築士の収入は月収が43万円程度、賞与が135万円程度、年収が653万円程度となっています。
男性は正社員として長く働けるのに比べて女性は出産や育児のために第一線を退かなければならないケースが多いというのが日本の現状です。
女性の非正規雇用の割合も高いため、このように同じ一級建築士でも収入に格差が生まれてしまいます。
今後女性の働きやすい環境整備が整っていけば、収入の格差も少なくなっていくことでしょう。
年収は年齢によっても違いがあります。40代後半くらいでもっとも年収が高くなり、その後は緩やかに下降していく傾向もあります。
女性建築士の大変なポイント
女性建築士が建築業界で働く上で大変なポイントを解説します。
これらの点を補える能力が自分にあるか確認し、さらにこれらの点をカバーしてくれるような職場を探すようにしましょう。
体力仕事が多く体がついていかない
建築士の仕事は非常にハードです。オフィスで設計図を描くだけではなく、現場に赴いて指示を出したり、クライアントと打ち合わせをしたりと仕事内容は多岐に渡ります。
現場のスケジュールによっては残業や休日出勤も当たり前で、それでも納期に間に合わないということも珍しくありません。体力が持たず、男性建築士にサポートしてもらうようなことがあると女性ならではの歯がゆさを感じてしまうかもしれません。
日頃から体力をつける習慣を身に着ける、体調管理を徹底するなどの自己管理も大切になってきます。
業務を効率化して残業時間を減らすことも大切ですが、建築士の仕事は一人きりでできるものではなく多くの人と連携していかなければならないので、自分一人では仕事量をコントロールできないのが難しい点でもあります。
年配の男性にも指示を出さなければならない
建築士は現場で職人に指示を出すのも仕事の一つです。
この際、年配の男性の職人にも同じように指示を出さなければなりません。
年配男性の中には女性を軽視している人や、セクハラまがいのことをしてくる人も少なくありません。このような人に対して対等に渡り合えるか、業務に差し支えることはきちんと主張できるかなどが大切になってきます。
人によっては過剰にストレスを抱えてしまい、肉体的にハードな仕事の中で精神的にも消耗してしまうかもしれません。
出産や育児の両立が難しい
建築業界は女性が働く環境が整っていないところも多く、出産や育児のために第一線を離れざるを得ないケースもあります。
建築士の残業や休日出勤の多さと育児の相性が悪く、またパートナーの協力を得にくいにいという問題もあります。女性は家を守るもの、育児に専念するものという考えの男性も多く、とくに建築士の仕事のようにバリバリ働きたい女性は世間とのギャップに悩むこともあるでしょう。
大手の建築会社では女性のサポートが徹底していることも多く、産休や育休も取得しやすいです。また、自分のペースで働けるよう独立開業する女性建築士もいます。
女性建築士が長く仕事を続けるには
女性建築士が長く仕事を続けるのは非常に難しいのが現状ですが、そんな中でも働きやすい環境を目指すためにはどうすればいいのかについて解説します。
女性建築士として活躍したい、女性建築士として働きにくいと感じたことがあるという方は下記のような働き方も検討してみてください。
大手企業に就職する
女性建築士が働きやすい環境がとくに整っているのがゼネコンや大手企業です。
産休や育休の制度が整っているのはもちろん、女性へのサポートも徹底的におこなってくれるところが多いです。企業内保育園や提携保育園を完備しており、育児しながらでもスムーズに働けることも多いでしょう。
また、大手企業であれば単純に人員が多く、一人当たりの仕事の負担が少ないというメリットもあります。産休や育休を挟んでも引き継ぎや現場復帰がしやすく、長く働き続けることができます。
業務を分担でき、仕事に慣れやすい、仕事のスキルを磨きやすいといった魅力的な面もあります。
女性にとって働きやすい条件が多く揃っている大手企業ですが、その分倍率は非常に高くなります。就職希望の男性やその他の女性の建築士よりも自分がいかに優れているかを証明する力やそれだけの実績が必要となります。
また、大手企業に入れば働きやすい環境の中で働けますが、自分のしたい仕事ができるとは限りません。どんな建築士になりたいのかをよく考え、理想の仕事ができる会社に応募することも大切です。
女性社員が多い企業に就職する
ゼネコンや大手で働くといった方法だけでなく、女性が多い企業に就職するという選択もおすすめです。
女性従業員に対してのサポートが整っている可能性が高く、産休や育休、育児や女性ならではの体調不良にも臨機応変に対応してくれます。
また、女性ならではの理解も深く、お互いにサポートしあいながら働くことができるでしょう。
先輩の女性建築士が環境を改善してくれているため、働きやすい会社が多いです。
女性従業員、女性建築士が多いということはそれだけ長く働きやすいという証拠でもあります。求人に応募する際には女性スタッフの比率や、どんなサポートをしているのかなどを確認しておくといいでしょう。
独立開業する
自分のペースで働くために独立開業する女性建築士も多いです。
独立開業すれば自宅など好きな空間で働くことができ、企業の制約に囚われない自由な発想で建築士の仕事をおこなえます。
家庭と仕事を両立しやすいだけでなくより理想の仕事ができる機会が増えます。
しかし、建築士全員が独立開業して成功するわけではありません。独立開業すると、仕事を得るのも自分の力でおこなう必要があります。まずは企業に勤めてスキルや経験を得て、人脈を広げ、その後独立開業するのが理想的です。
独立開業という言葉にハードルの高さを感じている方も多いかもしれませんが、今はネットでさまざまなPRができます。会社の大きさに関わらず、的確な相手に的確な広告宣伝を出すことができれば定期的に仕事を得続けることができるでしょう。
女性ならではの視点を活かして働こう
女性建築士の数はまだまだ少ないですが、クライアントの中には女性建築士に相談したいと考えている方も多いです。
女性建築士ならではのメリットを理解して、よりクライアントの要望に応えられる優秀な人材を目指しましょう。
女性のライフスタイルを理解できる
女性建築士に依頼するメリットとして、女性のライフスタイルを理解してくれるという理由があります。
とくに家で家事や育児をするのは女性、という認識が強く残っている日本では、女性が住みやすい家を作ることが重視されています。
洗濯物が隣人に見えにくい、水回りの掃除をまとめてできる、家事動線がスムーズなど、自宅で過ごす時間が長い人にしかわからない悩みも女性なら理解しやすい部分が多いです。
女性のクライアントが男性の建築士に家事のこと、育児のこと、ご近所付き合いのことなどを相談しても理解してもらえなかったというケースもあります。
デザイン性を重視するのではなくその家で暮らす人のことを考えた設計が求められるハウスメーカーなどでは、とくに女性建築士が活躍しやすいです。
家族に対する気持ちを考えられる
その家で暮らす家族に対する気持ちを考えた設計をしやすいというのも女性ならではのポイントです。
家族が集まりやすいリビングや子どもの様子を見守れるキッチンといった点だけでなく、将来パートナーの親や家族と同居することになった際にストレスなく過ごせる、パートナーの会社の同僚などが訪問した際に自宅のごちゃついた部分を隠しやすいなど、細かな配慮をしやすいという特徴があります。
子どもの成長に合わせた家づくりができる、女性がリラックスできる空間を作れるなど、家族全員が過ごしやすい家を設計してくれるという女性ならではの感性を女性建築士に期待しているクライアントは多いです。
女性のクライアントが相談しやすい
夫婦で家づくりの相談に来るクライアントは多いですが、男性が仕事で忙しくしていると打ち合わせに参加するのは女性の方が多くなってしまいます。
その際、男性の建築士と会話をするのと女性の建築士と会話をするのとではやはり女性同士の方がスムーズに進むことが多いです。
男性建築士だと緊張してしまう、言われた通りのことを依頼してしまうという方でも、女性建築士が相手なら話しやすく、自分の要望を伝えやすくなるかもしれません。
また、夫婦で打ち合わせに参加できても男性建築士と夫の話ばかりが盛り上がってしまい、肝心の妻の意見が置いてけぼりになってしまう可能性もあります。女性建築士が相手ならこのような心配もなく、スムーズなやり取りが可能です。
ですがすべての女性建築士が該当するとは限りません。クライアントが女性建築士に何を期待しているのかをくみ取り、期待に応えられるようにすることも大切な仕事の一つです。
感覚的、視覚的なイメージを共有しやすい
女性建築士には感覚的、視覚的なイメージを共有しやすいという特徴もあります。
男性の場合ははっきりとデザイン案を出さなければ理解してもらえなくても、女性には「こんな感じ」「居心地の良さを感じるデザイン」といったあいまいな提案でも理解してもらいやすいです。
風水や木の流れなどを意識した家づくりをしたいという女性も多いですが、男性よりもこのような知識になじみ深い女性は多く、その分相談しやすいというメリットもあります。
感覚的なイメージはその人の感性によって解像度が大きく違うため、こちらもすべての女性建築士に共通するというわけではありません。中には男性建築士でも感覚的なイメージを理解できる方もいます。
このようなポイントの解像度が低いと感じたら、建築の勉強だけでなくデザインや芸術の勉強、さまざまなアンテナを張って豊かな感性を磨くことも大切です。
女性建築士として建築業界で活躍しよう
女性建築士が置かれている現状について解説しました。
建築業界は男性社会のイメージが強いですが、それでも徐々に女性が活躍できる環境が整い始めています。
建築士を目指している、現在建築士として働いている女性は、より働きやすい環境を目指すことも大切です。ただ転職や独立を目指すのではなく、社内でできることはないかも考えてみましょう。環境の改善は一人でできるものではなく、多くの従業員の協力が必要です。理解してもらうには時間がかかるかもしれませんが、コツコツと自分ができることをこなしていきましょう。
女性ならではの感覚やメリットを活かし、今後も長く建築業界で活躍できる人材を目指してくださいね。