作業員を雇用することなく、一人で一定の仕事を行う人のことを、一人親方と呼びます。
建築業では聞きなじみの深い一人親方ですが、個人事業主と何が違うのか、個人事業主に必要な開業届が必要なのかなどが気になっている方も多いですよね。
本記事では、一人親方と個人事業主の違いを解説します。今後キャリアアップの一つとして独立開業を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
一人親方と個人事業主の特徴を解説
まずは一人親方と個人事業主の特徴を解説します。二つには微妙な違いがあるので、きちんと理解し、自分は今後どの道に進みたいのか明確にしておきましょう。
一人親方とは
一人親方とは、一人、または家族とだけ建築に携わる業務を行う人のことを意味します。
大工、左官工事、内装工事、外構工事、とび職人などが、一人親方として独立するケースが多いです。
個人事業主は労働者を雇用することもありますが、一人親方は気品的に一人で作業を行うのが大きな特徴です。ただし、年間で100日未満であれば、一人親方が労働者を雇用することも可能です。
一人親方になるための厳密な基準はありませんが、国土交通省によると、適正とされるのは、実務経験が10年以上ある人、同業他社から信頼されている人です。
個人事業主とは
個人事業主は、法人ではなく個人で事業をする人のことを指します。
税務署に開業届を出していたり、法務局で登記を行っていたりするケースが多く、職種も業種もさまざまです。
個人事業主は、家族はもちろん、家族以外の労働者を雇用することも可能です。
個人事業主と一人親方は同じとする考え方もありますが、厳密にはまったく同じではない点に注意しましょう。
一人親方と個人事業主の3つの違い
一人親方と個人事業主の違いを3つの観点から解説します。
それぞれの違いを明確にすることで、今後自分がどちらの道に進むべきか見えてくるでしょう。
対応している業種
一人親方は、業種が建設業や林業、漁業、再生資源取り扱いなど、特定の業者に限定されています。
建設業の中では、大工や左官、原状回復、修理、改造、解体などが該当します。
一人親方は建設業の働き方の一つとしてとらえられやすいですが、実際には漁業など、その他の業種でも一人親方に該当するケースがあります。
一方で、個人事業主には業種の縛りはありません。
サービス業やIT関連など、幅広い業種で、独立して開業届を提出、または登記を行って個人で事業をしている人のことを、個人事業主といいます。
従業員の雇用契約
一人親方は、基本的に従業員を雇用できません。雇用する場合は、年間100日未満であることという条件があります。
また、従業員を雇用する場合は、従業員に対して労災保険や雇用保険に加入させる義務が生じる点にも注意しましょう。
一人親方は、従業員を雇用せず基本的に一人で作業を行いますが、家族を雇用して給与を支払うケースもあります。
一方で、個人事業主は従業員の雇用が可能です。人数や日数などの制限はありません。
保険に加入できるか
一人親方は、労災保険に加入できます。
個人事業主は基本的に労災保険には加入できませんが、一人親方は業務の性質上けがや事故のリスクが高く、保険の必要性が高いため、特別に加入が許可されています。
一方で、個人事業主は労災保険には加入できません。個人事業主が従業員を雇用する際は、従業員に対して労災保険や雇用保険に加入させる義務が生じるという点で違っています。
一人親方が加入できる労災保険の詳細
個人事業主は原則として加入できない労災保険ですが、一人親方は労災保険に加入できます。
保証内容は以下のとおりです。
- 療養給付
- 休業給付
- 傷病給付
- 障害給付
- 介護給付
- 磯久給付
- 葬祭料
とくに、けがや事故の可能性が高い一人親方の業務では、傷病給付や療養給付などがあると非常に心強いです。
万が一の際にも、遺族給付や葬祭料を受け取れるので、大切な家族に負担をかけたくない方にも有用です。
一人親方も開業届は必要?メリットは?
独立開業を意識する際に、開業届の必要性について見かけたことがある方も多いでしょう。
一人親方は必ず開業届を提出しなければならないというルールはありませんが、開業届にはさまざまなメリットがあります。
今後一人親方としてどのように活動したいのかを明確にするためにも、開業届の内容とメリットを確認しましょう。
開業届とは
個人で事業を行う人が提出しなければならないのが、開業届です。
一人親方を含むどのような業種であっても、基本的に提出は必須です。
開業届の提出は、開業から1か月以内というルールがありますが、実際にはそこまで厳密なルールではありません。
開業届を提出しないことへの罰則や罰金はありませんが、開業届を提出することで得られるメリットは多数あります。税金や事業主向けのサービスなど、開業届を出した人だけが受けられるメリットをチェックしてみましょう。
開業届のメリット①節税効果が期待できる
開業届を提出すると、青色申告での確定申告ができます。
青色申告をすると、最大で65万円の控除が受けられ、翌年の所得税、住民税を安くすることが可能です。
また、赤字を繰り越して清算することもできるため、赤字の翌年に黒字になったとしても、税金が高くなりすぎることを防げます。
開業届のメリット②事業用の口座を開設できる
開業届を提出していると、事業用の口座を開設できます。
屋号などで口座を作れるので信頼感が高まるだけでなく、プライベートのお金と事業用のお金をわけることも可能です。
日々の帳簿付けがスムーズになるなどのメリットもあります。
開業届のメリット③社会的信頼度が増す
開業届を提出していると、公的に事業を証明でき、公的な手続きにおいてメリットがあります。
ローンを組んだり、融資を受けたり、さらに事業用のクレジットカードの作成もできるようになります。
上記のケースは、開業したばかりでは審査に落ちる可能性もありますが、開業届を提出していない人よりは審査に通る可能性が高くなります。
開業届のメリット④小規模企業共済に加入できる
開業届を提出すると、小規模企業共済に加入できるというメリットもあります。
小規模企業共済とは、月々の積立で給付金を受け取れる制度のことです。万が一休業した際や、仕事をやめることになったとき、退職金代わりとして受け取ることが可能です。
小規模企業共済への積立金は全額が控除されるため、節税対策としても効果を期待できます。
小規模企業共済にはさまざまな種類があり、収入に応じて毎月の支払金額を調整したり、一括で収めたりすることも可能なので、ぜひ加入を検討してみましょう。
開業届のメリット⑤自業主向けのサービスを受けられる
政府や自治体は、個人事業主向けにさまざまなサービス、補助金、助成金などの制度を用意しています。
この申請をする際に、開業届の提出が必要になるケースもあります。
開業届がなければ個人事業主であることを証明できず、助成金などを受け取れない可能性があります。
一人親方と個人事業主の違いを正しく理解しよう
一人親方と個人事業主の違いを解説しました。
建設業において一人親方は聞きなじみが深いですが、いざ自分が一人親方になる前には、個人事業主との違いや、必要な手続きをきちんと確認しておく必要があります。
自分の今後のキャリアプランに応じて、最適な手続きなどを理解しておきましょう。