建築業界は仕事がキツいというイメージが強くあります。その中でも最大手のゼネコン会社はとくに激務なのではないか、と懸念する方も多いです。
大手ゼネコン会社に就職できれば安定した仕事や収入を得られますが、仕事が激務では長く続けられません。心も体もボロボロになってしまっては、せっかく建築について学んだり実績を積んだ過去も無駄になってしまいます。
ゼネコンが激務と言われているのは本当なのか、大変な点ややりがいを感じる点を見ていきましょう。
ゼネコンでも大変な仕事は多いですが、それ以上にやりがいを感じることができれば長く続けられます。
ゼネコンが激務と言われている理由
ゼネコンは建築業界の花形とも呼べる業種です。その分仕事が激務だというイメージもあります。
実際にゼネコンで働いている方はどんな点が激務だと感じるのかを見てみましょう。何が大変かは人によってまったく違います。ある人には激務だと感じることも、別の人にとってはやりがいに感じているかもしれません。
自分はゼネコンの仕事を激務だと思うか、やりがいに感じられるかをよく考えてみてください。
スケジュールがキツい
ゼネコンでも他の建築会社と同じように、依頼がなければ仕事が始まりません。
クライアントと相談しながら工事の内容を決めていきますが、その際に納期や報酬金額なども決定していきます。
納期が短すぎる契約をしてしまうと現場にしわ寄せが来て、短期間のスケジュールで激務をこなさなければなりません。
ゼネコンの数は多く、複数のゼネコン会社に相談して見積もりを依頼するクライアントも多いです。ゆとりのあるスケジュールを提案しても、より早く完成させられる別のゼネコン会社に仕事を取られてしまう可能性もあります。
より短い納期で、より安い金額の提案をしなければならないため、その分現場が苦しい思いをすることは少なくありません。
他者との競争が大変
先ほども少し触れましたが、ゼネコン会社同士の競争も苛烈です。
一つの仕事を複数のゼネコン会社で取り合わなければならず、仕事を得られなければ経営自体が成り立たなくなってしまいます。
報酬の少ない戸建ての建築を数多く取り扱うハウスメーカーや工務店とは違い、数は少なくても報酬の高い大規模な工事を請け負うのがゼネコンの仕事です。
そもそも依頼される件数が少ない中で一つでも多くの仕事を得なければならないため、積極的な営業活動、他より優れた設計、早くて正確な現場での作業など、すべての仕事で高いスキルを身に着けなければなりません。
激務の中でも事故やミスは許されず、ハードな仕事をこなす毎日につらい思いをしているゼネコン社員も多いです。
転勤が多い
地域密着型の工務店などとは違い、ゼネコン会社は転勤が非常に多いです。
都心にもゼネコンの仕事はたくさんありますが、離島に橋をかけたり道路や空港を作ったりといった仕事もゼネコンの仕事です。そのため、長期間に及ぶ工事が必要な場合は出張ではなく転勤を余儀なくされます。
数年単位で転勤することも珍しくなく、家族がいる方は単身赴任や家族の転校、転職の負担も増えます。
さらに、日本国内での建築の需要は今後下がっていくと予想されています。大型ビルやインフラの整備もある程度整っており、今後大規模な開発なども進めにくいです。そのためゼネコンであっても仕事を得にくくなるかもしれません。
その対策として、海外進出を進めているゼネコン会社も多いです。発展途上国ではインフラ整備などの仕事が多く、日本のゼネコン会社の参入の余地が十分にあります。
一方、海外での仕事が増えると当然海外への転勤が必須になります。言葉や文化の違いに苦労したり、治安の悪い国で怖い思いをしたり、さらに家族を連れていくかどうかで家庭内で衝突が起きたりといった大変な点もあります。
若手の人材不足が深刻
ゼネコンなどの建築会社はバブル期にその恩恵を大きく受けました。次々にビルの建築やインフラ整備などがおこなわれたため、バブル期に入社した社員は非常に多いです。
一方で少子化の影響や建築に対するイメージの悪さなどから建築業界を目指す若手の人材は不足しており、社内全体の高齢化と人材不足に悩まされているゼネコン会社は少なくありません。
バブル期に活躍していた社員が役員になることで若手への負担が大きくなり、一人ひとりの仕事が多すぎる、責任が重すぎるといった点を激務に感じている社員も多いです。融通の利かない古い体制がなかなか崩されず、若手で実力があっても出世できない、評価されないというやりにくさを感じている人もいます。
残業や休日出勤が多い
ゼネコン会社の中でもとくに現場に関係する仕事は残業や休日出勤が非常に多いです。
短い納期でクライアントが満足するものを提供しなければならず、設計やデザイナー、さらに現場監督は激務を強いられます。
労働基準法により時間外労働の割増賃金は支払われますが、残業代だけでもかなりの金額になってしまう月が年間でひと月やふた月では済みません。
日本全体で働き方改革が進んでいますが、それに合わせて労働時間を守っているととてもスケジュール通りに作業を進められず、結果的に納期に間に合わなかったり余計な人件費が必要になってしまいます。
焦るあまりに事故やミスを起こしたり、従業員の心身にトラブルを起こしてしまったりして問題になるゼネコン会社もあります。
人間関係やコミュニケーションが大変
ゼネコンでの仕事は、その会社の人間だけでできるものではありません。
クライアントや現場の職人など、多くの人とやり取りをする必要があります。さらに若手の内は上司との関係も非常に大切です。
クライアントの接待に休日を費やす、一回りも二回りも年上の職人に指示を出さなければならない、上司に気に入られるようにしなければならないなど、人間関係の点でも激務に感じる点はたくさんあります。
大手のゼネコン会社は古い体制や風潮がそのまま残っているところも多く、現在では考えられないようなパワハラ、セクハラが横行している可能性もあります。
周囲に相談できないといった苦しさからゼネコン会社を退職してしまう人もいます。
ゼネコンの職種別の大変さ
ゼネコンの仕事は激務に感じることも多いですが、それはどの職種に就くかによっても変動します。
事務や研究開発部門などは比較的スムーズに働き続けられます。ですが現場の仕事全般、設計、営業は激務になることが多いです。それぞれの大変なポイントを一つずつ見ていきましょう。
現場の仕事は全般的に大変
ゼネコン会社の中でも現場関係の仕事は激務に感じることが多いです。
現場監督として、施工管理として、その他さまざまな責任者として毎日早朝から現場に出向かなければなりません。
ゼネコンの仕事はほとんど屋外でおこなわれますので、暑い日も寒い日も、雨や雪が降る中でも現場で働き続ける必要があります。
さらに現場では多くの人材をまとめ上げなければならず、初対面の職人とも上手くやっていかなければなりません。体力的にだけでなく、精神的にもキツいと感じることが多いでしょう。
現場監督は現場にいればいいというわけでもありません。報告書やスケジュールの確認のため、デスクワークにも多くの時間が必要です。
さらに会議や打ち合わせも少なくなく、早朝から夜遅くまで仕事のことで精いっぱい、自分の時間がほとんどないと感じる方も多いです。
繁忙期やスケジュールが遅れているときは終電までに仕事が終わらなかったり、会社や現場に泊まって翌日もそのまま働くといった事態も珍しくありません。
設計の仕事は作業の同時進行が大変
ゼネコンの設計の仕事は非常に大変です。
大規模な建築物の設計をしなければならないという点だけでも責任重大ですが、それだけに集中できるわけではありません。複数の設計を同時に進行しなければならず、情報処理能力が追いつかないと感じる方も多いいです。
設計部門は安心安全な建築物の設計を作成するだけでなく、特徴的で芸術的な設計も考えなければなりません。独自のセンスを活かしつつ、建築の基礎から応用まですべての知識をフル稼働させる必要があります。
非常にエネルギーが必要ですが、そんな仕事が次々に舞い込むため休まる暇がありません。
複数の案件を同時進行することで計算ミスを起こしてしまったり、スケジュールに間に合わなくなったりすることもあります。ですが設計の段階でつまずいていると作業は次のステップに進めなくなってしまうため、立ち止まることもできません。
スピーディーで正確、それでいてクライアントの期待以上のものを作り出さなければならないという大変さがあります。
営業の仕事は接待が大変
ゼネコン会社の営業部門は、他社から仕事を勝ち取るためにさまざまな接待に走り回らなければなりません。
直接営業をしていなくても、取引先との飲み会や土日の接待ゴルフなどで給料の出ない仕事もたくさんあります。
さらに見積もりを依頼された際は工事費用だけでなく人件費や納期、資材費などを考慮した正確な見積もり書や資料を作成しなければなりません。会社だけでなく自宅に持ち帰って書類の作成に追われる可能性もあります。
クライアントだけでなく資材を購入する業者との関係を取り持つことも営業の仕事です。無理を言いすぎると相手にされませんし、業者の要望ばかり聞き入れていては収益につながりません。
単なるコミュニケーション能力だけでなく交渉力やとっさの決断力も求められる仕事です。
建築業界でも働き方改革が進行している
ゼネコンは上記のように激務と言われるだけの立派な理由がたくさんありますが、それでも徐々に働き方改革が進行しています。
人材不足の建築業界にとって、働きやすい環境作りはマストです。どのような対策がおこなわれているのかをチェックしましょう。
ゼネコン会社によっては下記の他にもさまざまな対策をしており、「激務と聞いていたわりにはつらい仕事内容ではなかった」と感じる方もいます。
IT化による作業の効率化
建築業界では設計図や書類などは手書きが当たり前でしたが、近年はIT技術の導入が進んでいます。
ソフトに数値を打ち込むだけで設計図を作成できたり、電子データでやり取りができたりといった効率化が進み、かつてよりは仕事はかなりスムーズに進められるようになりました。
新型コロナウイルスの感染対策のためにリモートでの打ち合わせも進み、出張や打ち合わせ、会議などにかかる移動の時間も削減できます。
反対に今でも手書きが当たり前、対面でなければならないといったかたくなな姿勢を貫いている会社もありますが、新しいIT技術やシステム、マニュアルを導入できない企業に未来はないと思っておきましょう。
週休二日制の導入
建築業界は基本的に週休1日のところが多いですが、働き方改革によって週休二日制を取り入れているゼネコン会社も増えています。
土日に完全に休めるというわけではありませんが、シフト制などで週に二日の休日を確保できるようになりつつあります。
大手のゼネコン会社からこのような取り組みが始まっています。小規模のゼネコン会社が週休完全二日制になるまでにはまだ時間がかかるかもしれませんが、将来的には今よりも働きやすくなることでしょう。
残業時間が制限されている
建築業界では完全に残業なしというのは期待できません。スケジュールの都合や受ける仕事によって作業が非常に多く、時間外にもしなければならない仕事はたくさんあります。
残業は、法律で時間が制限されている他企業と労働組合が相談することで上限を決めることもできます。割増賃金を支払えばいくら残業させてもいいというものではありません。
この残業時間の制限もしっかりおこなっている大手のゼネコン会社は増えています。
システムの効率化や作業の分担によって残業を減らす取り組みがおこなわれている会社も多いので、就職や転職の際にはこのようなシステム、残業時間の上限についても確認しておきましょう。
激務の中でも感じられるやりがい
ゼネコンの仕事は激務ですが、その中でもやりがいを感じられる瞬間はたくさんあります。激務でもゼネコンでの仕事を続けている人はどんな点に魅力を感じているのかをチェックしてみましょう。
最新技術に触れられる
ゼネコンは建築業界の中でも大規模な工事を請け負います。
また、ゼネコンの定義として設計、建築、研究をおこなっているという点があります。
研究を進めてより効率的、経済的な素材や作業方法を発表したり、海外の最新の研究を取り入れたりできるのはゼネコンの魅力の一つです。
建築業界の最先端の技術を学びたい、仕事に取り入れたいと考えている方にとってはゼネコンでの仕事は非常にやりがいがあるでしょう。
業界の中心にいられる
ゼネコンは建築業界の花形と呼ばれることもあります。
既存デザインの一戸建てを建てる小規模の建築とは違い、そのエリアのランドマークとなるような建築物、その土地になくてはならない道路や橋、空港などを作るのがゼネコンです。
地図や歴史に残るような建築物に携わることができ、常に建築業界の中心で活躍できるという点にやりがいを感じる方も多いです。
建築に関連する国家資格の取得の難易度は非常に高く、せっかく取得した資格を最大限に活かして仕事をしたいという方にもぴったりです。
高収入を得られる
ゼネコンの仕事はハードではありますが、その分高い収入を期待できます。
大手のゼネコンでは年収800万円を越えるケースも少なくなく、役職に就いたりすれば1000万円以上の年収を得ることも夢ではありません。
残業や休日出勤も多いですが、その分割増賃金もしっかりつきます。
その他賞与や出張費もしっかり出ますし、大手であれば福利厚生も充実しています。
若い内にしっかり働いて安定した老後を送りたい、ライフプランをしっかり立てておきたいという方にもゼネコンの仕事は人気です。
多くの人と関わりながら働ける
ゼネコンでの仕事は机に座ってルーティーンをこなすというものではなく、現場で多くの人と関わりながらおこなうものです。
自分よりかなり年の離れた人や価値観の違う人、さまざまな人生を歩んできた人たちと一緒に仕事ができます。仕事面だけでなく、人生に役立つ出会いもたくさんあるでしょう。
現場が変われば関わる人もまた変わります。次々に新しい出会いがあり、刺激的な日々を過ごすことができます。
人と関わる仕事が好き、毎日同じような仕事をこなすのはつまらないと感じる方は、ゼネコンの仕事にやりがいを感じられるでしょう。
さまざまな場所で仕事ができる
ゼネコンの仕事は当然ですが依頼があった場所でおこなわれます。
都市部や本社の近くだけとは限りません。ときには圏外の遠く離れた場所、離島などでの仕事を請け負うこともあります。大手であれば海外での作業が中心になることもあります。
毎日会社に通うのではなく、現場ごとに環境が変わることで毎回新鮮に仕事を楽しめるという点にやりがいを感じる方もいます。
出張や転勤の多さはゼネコンが激務と言われる理由の一つですが、反対にそれを楽しめる方はゼネコンでの仕事も受け入れやすいでしょう。
ゼネコンだから激務とは限らない!
ゼネコンが激務と言われている理由や職種ごとの大変な点、反対にやりがいを感じられる点について紹介しました。
ゼネコンだけでなく建築業界全体が激務というイメージを持つ方も多いですが、大手であればあるほど労働環境の整備が進みつつあります。
ゼネコン会社への就職、転職を検討されている方は、激務と言われているポイントを確認した上で自分はそれも楽しみながら働けるのかなどを考えましょう。求人情報に記載されている業務内容や、ネットでの口コミをチェックすることも忘れないようにしてください。