建築工事をおこなうためにはさまざまな書類の作成が必要です。それぞれの書類に、安全に工事を進めるための意味があります。
今回はその中から、工事の実績を記載する工事経歴書という書類について解説します。
建築業におけるさまざまな書類の中でもとくに細かくルールが定められている書類ですので、間違えずに作成できるように覚えておきましょう。
建築における工事経歴書が持つ役割
工事経歴書は、すでに完了している工事から現在未完成の工事まで、これまで請け負ってきたすべての工事の実績を記載する書類です。これがあることでその業者がどんな工事をしてきたのかを証明することができ、さまざまな工事の許可を得るために役立ちます。
建築の許可を得る際だけでなく、許可の内容を変更したい、業種を追加したいといった場合にもこの工事経歴書の提出が求められます。
公共工事の入札に参加する際にも審査を受ける必要がありますが、その際にも工事経歴書を提出する必要があります。
一つの工事で複数の業種の許可が必要な場合は、その業種ごとに工事経歴書を作成しなければなりません。
また、工事経歴書には記さなければならない項目が明確に定められています。建築士事務所などによってフォーマットには違いがありますが、記載項目の抜け、不備があると一から作成し直さなければなりません。
工事経歴書作成の際の5つのポイント
工事経歴書を作成する際に注意したい5つのポイントを解説します。
工事の種類別に書類を作成する、税金の記載方法を明確にする、いつからいつまでの工事を記載するのか決めるなど、あらかじめ確認しておくとより工事経歴書を作成しやすくなります。
工事経歴書の作成には手間も時間もかかりますが、不備があるとすべて無駄になってしまうため、細心の注意を払って作成に取り掛かりましょう。
工事の種類別に書類を作る
これまでにさまざまな種類の工事をおこなってきた場合でも、工事経歴書を作成する際は工事の種類ごとに工事経歴書を作成しなければなりません。
土木工事やコンクリート工事など、それぞれの種類ごとに作成し、必要であれば複数枚の工事経歴書を用意する必要があります。
次に工事をおこなう際、これらの種類別の工事経歴書を提出して許可を得なければなりません。
税込み、税別のどちらで記載するか決める
工事経歴書では請け負った工事の金額を記載する項目があります。
この金額について、税込みでの記載とするか、税抜きでの記載とするかを最初に決めなければなりません。
公共工事の仕事を得るためには経営事項審査という審査を受ける必要がありますが、この審査を受けるためには税抜きでの金額表記が必須となっています。
公共工事の仕事を請ける予定がない場合は税抜きでも税別でも、明確なルールはありません。
今は予定がないものの公共工事の仕事を得る可能性がある場合は、税別表記を選んでおくといいでしょう。
対象年度を確認する
工事経歴書に記載する工事は何年から何年におこなわれたものか、対象年度を確認しましょう。
工事経歴書の書類を提出する日を含む年度の一年前の年度から、提出する日を含む年度末までに完成していない工事が工事経歴書に記載すべき工事内容です。
企業によって決算月、決算日が違うので、間違いのないように注意しましょう。
書類に記載する工事の順番
複数の工事を請け負っている場合、元請け工事、下請け工事、未完成の工事の順番に記載します。
元請け工事とは、クライアントから直接依頼されて手掛けた工事のことです。
下請け工事とは、別の業者がクライアントから依頼された工事を別の業者に回した工事のことです。
未完成の工事も工事経歴書には記載する必要があるので漏れのないようにしてください。
また、元請け工事や下請け工事、未完成の工事などがそれぞれ複数ある場合、金額の大きい工事から記載するのが基本です。
個人の氏名を特定できないよう配慮する
工事経歴書を作成する際は、個人の氏名が特定されないような記載方法を取る必要があります。
個人の氏名だけでなく、工事名やクライアントの名前なども明確には記載しないよう注意しましょう。
この場合、氏名を特定せず「注文者A」などとぼかして記載するのが基本です。
工事経歴書に記載する10の項目
工事経歴書には記載しなければならない項目が10あります。
それぞれの項目について、詳しい記載方法を確認しましょう。
工事の種類
まずは工事の種類です。工事経歴書は工事の種類ごとに作成する必要があるので、複数の種類の工事を請け負った場合はその数だけ工事経歴書を用意しなければなりません。
税抜き、税込み表記
先述した通り、工事経歴書は税抜き表記か税込み表記かをあらかじめ決めておく必要があります。
経営事項審査の申請をおこなう場合は税抜きの項目にチェックを入れましょう。
審査を受けない場合はどちらの表記でも構いませんが、複数の工事経歴書を作成する際はすべての書類で税抜きか税込みかを統一しなければなりません。
工事を注文した人
工事を注文した人を記載します。法人の場合はそのまま法人名を記載できますが、個人の場合は個人が特定できないようにする必要があります。
これは個人情報保護の観点から必ず特定できないようにしなければなりません。
工事の名称、工事をおこなう場所
工事の依頼を請けた際の工事名をそのまま記載して構いません。個人からの依頼の場合は住所が特定できないようにする必要があるため、工事名についてもイニシャルなどで表記しましょう。
所在地は工事をおこなう場所の都道府県、市区町村を記載します。
元請けや下請けの有無
クライアントから直接依頼を請けて工事をおこなった場合は元請けとして、それ以外の別の業者などから仕事を得た場合は下請けとしてそれぞれに記載します。
民間と公共の工事をわける必要はないので、元請け、下請けの順番だけを意識して記載していきましょう。
JVかどうか
JVとは複数の企業が一つの工事を請け負う方法のことです。
このJVを工事のために組織した場合は、JVであることが明確にわかるよう記載しなければなりません。
工事の金額
工事を請けた際の契約書などを参考にして工事の金額を記載します。
この金額は1000円単位での切り捨てが可能です。依頼を請けた際から工事完了後に金額が変動した場合は、変更後の確定した金額を記載してください。
工事にかかる期間
何年の何月に工事に取り掛かったか、何年何月に工事が完了したか、また完了する予定かを記載します。
詳しい日にちまでは記載する必要はありません。
配置技術者
工事の現場に配置していた主任技術者、監理技術者などの技術者の氏名を記入してください。
起業する際などはこの技術者の記入がなくても提出が可能ですが、決算の際の変更届には技術者の氏名を記載するようにしましょう。
工事における小計
それぞれの工事の件数や金額の小計を記載します。
すべての工事の合計金額
最後のページに、すべての工事の合計金額を記載してください。
最終的な決算で明確になった合計金額を記載するのであり、工事経歴書の小計の合計とは違う可能性があるので注意してください。
工事経歴書を正しく作成しよう
建築の許可を得るために必須の工事経歴書について詳しく解説しました。
工事経歴書にはさまざまなルールがあり、これに不備があるとスムーズに建築の許可を得られなかったり、工事に支障をきたす可能性があります。
建築業にはさまざまな書類がありますが、工事経歴書も大切な書類の一つです。間違いのないよう、正しく作成するために基本的な知識から習得していきましょう。