一度はだれもが夢見るマイホーム。
それを叶えたときには最も身近で大切な場所になることは間違いありません。
その夢を具体的に形にできるのが『大工』です。
また『家』だけではなく、学校やレストラン、病院や大規模商店など、ふと周りを見回してみると非常にたくさんの建築物があります。
それらすべてを形にしていくのが『大工』なのです。
それらの建築物はわたしたちにとってとても身近な存在です。現代の生活からは切り離すことができなくなっています。
人々の暮らしに欠かせない『大工』。その大工になるためにはどうしたらよいか。大工にはどのような特徴があるのか。などをこの記事を通して詳しく紹介していこうと思います。
大工の特徴と定義(大工とは?)
大工とは、主に木造建造物の建築・修理を行う職人のことで、出された設計図を基に、寸分狂いなく巧みな技術で建物を気づき上げるプロフェッショナルです。
古くは、建築技術者の職階を示していて、木工に限らず各職人を統率する長、または工事全体を束ねる人物のことを大工と呼んでいました。
ちなみに飛鳥時代に聖徳太子が都づくりのために天皇のそばで建築の『木』に関わる組織を『右官』、『土』に関わる組織を『左官』と呼んでいたという説があります。
現在の建築で『左官』以外の職種は、設計も含め『大工』より派生したものが多いとされています。
大工に必要不可欠なものは『大工道具』です。
大工は鋸(のこぎり)・鉋(かんな)といった様々な工具や釘を使いこなします。
またその道具は大工にとって生命線であり、日々手入れを欠かせません。道具によって大工がある。と言っても過言ではないでしょう。
一人前の大工になるには、一般的に親方(棟梁)に弟子入りして基礎知識から高度な技術までを叩き込み、一人前になるまで最低でも10年はかかると言われています。
それだけ厳しい職人気質の高い世界であることは間違いないでしょう。
大工の種類について
ひと言で『大工』と言ってもその種類は様々で、家屋大工から宮大工、船大工などいろいろな分類の大工が存在します。
ではその大工の種類にはどのようなものがあるのか、詳しく見ていきましょう。
宮大工(みやだいく)
宮大工は、神社やお寺など、昔からの伝統的な建物を建造する大工のことを言います。
釘を使わずに引手と呼ばれるものや継ぎ手などを駆使して伝統的な技法を後世に伝えています。
宮大工は昔、寺社のことを「お宮さん」と呼ばれていたことにちなんで『宮大工』と呼ばれるようになったそうです。
宮大工は主に『木造軸組構法』と呼ばれる技法で寺社を造っています。
『木造軸組構法』は柱を立てて桁(柱間に架ける水平の部材)を支え、その桁に梁をかけて主要な構造としている構法のことを言います。
江戸時代に町奉行や寺社奉行という行政上で自治管轄が違ったために町大工と区別されてきたそうです。
一般の大工は一通り仕事ができるまでに2年から3年でできるようになりますが、宮大工は一人前になるまでに最低でも10年の修行が必要と言われています。
それだけひとりひとりの技術力が必要であり、何十年、何百年とびくともしない建造物を造る必要があるのでそれだけの修行が必要になるわけです。
都市近郊では未だに築300年ほどの建築物も多く存在しているというから驚きですね。
宮大工は使用する木材をすべて手作業で加工します。そのときに使う道具もすべて宮大工が自分でつくるそうです。
よって実際に接木(2つの木材を人為的に作った切断面でつなぎ合わせること)までにかかる時間が長く、最低10年ほどは師匠のもとで基礎を叩き込む必要があるわけです。
家屋大工(かおくだいく)
家屋大工は、一般的な木造住宅においての木材の加工や取り付け作業を行う人のことを言います。
宮大工ではありませんが、基本的に木材を扱い、『墨付け』から『きざみ』『建て方』『屋根の仕舞』『外部・内部造作』にいたるまで建て方全般をバランスよくこなしていきます。
一般的に『大工さん』と親しみを込めて呼ばれているのはこの家屋大工のことです。
しかし現代では木材をコンピュータを使った機械で自動カットする『プレカット木材』の建前をする大工が多く、外装壁のみならず天井造作やフロア貼りなども専門の業者が行うようになってきているのが現状です。
とはいえ、近年では木のぬくもりを重視する家が再認識されてきて家を建てたい人の中には木のぬくもりを感じられる木造建築を望む人が多くなってきています。
ですので、天然の木を使って家を建てる家屋大工の仕事も重要な位置づけとなってきています。
町大工(まちだいく)
町大工は木造建築を取り扱う点において、家屋大工とほぼ似ています。
こちらも『大工さん』と呼んで差し支えないでしょう。
かつて町大工は公共事業の建物の建築を担ってきました。
町単位で様々な行事が行われてきたので、それらにまつわる建築物を造る際に活躍したのが町大工です。
昔は消費者が好きなものを好きな業者に頼むことがでない時代でした。
家を建てるときは地元の町大工に依頼することが多かったのです。
こうした自治の中で町大工は、冠婚葬祭や互助活動、消火活動、祭礼、橋、井戸の屋根など町内のインフラの作成や保守などを鳶職と一緒に協力して担ってきました。
現代で言えばインフラ設備を大工が造りイベントを鳶職が行ったと言えます。
昔は普請(公共事業など)においてその町に住む人は土地の大工を使うのが決まりであり、それをたがえる人はそれなりの理由とあいさつが欠かせませんでした。
今日の町大工は、いわゆる『工務店』として店を構えるケースが多く、もともと町大工だった業者がそのまま工務店として引き継いでいるケースが多くなっています。
中には創業から何十年、もしくはそれ以上の年数を誇る業者も少なくありません。
実際に工務店は地元密着型が多くそういう面でもまさに昔の互助活動などの名残があるものと言えると思います。
数寄屋大工(すきやだいく)
数寄屋大工は、茶室を造る大工です。
こちらも主に木造軸組構法で家屋を造る大工となっています。
茶室は柱に皮付きの木材を使ったり、華美な装飾をしないなど『詫び錆び(わびさび)』を感じさせる空間の建築が求められます。
よって数寄屋大工には茶席での知識も含めて茶の精神が必要になってきます。
町大工は社会的な公共事業が多く、顧客も庶民であることから実用的な建築が求められ、宮大工は、神社や寺といった様式美が求められてきました。
それに対し数寄屋大工は予算的にも自由が利き、今で言うと芸術家肌と言うことができます。
船大工(ふなだいく)
船大工は、読んで字のごとく『船』を造る大工です。
取り扱うのは木材で、木造船(和船・帆掛け船・屋形船)の建造などを行っています。
船番匠とも呼ばれています。
1965年(昭和40年)頃までは各港の河口付近で『だるま船』と呼ばれる運搬船を改造してそこに住む人が数多くみられ、木造船は身近な存在でしたが、近年では純木造船が著しく減って、技術を伝える人がほとんどいないのが現状です。
漁師町では、大工と漁業と兼業する人も多く、社会的な役割も町大工に近い存在であったと言われています。
型枠大工(かたわくだいく)
型枠大工は、コンクリート打ち込み用の型枠を造りこむ大工です。
コンクリートが固まったらその型枠を外すまでが一連の流れです。
簡単に言うと建物の各パーツの形を決める『鋳型(いがた)』を造る職人と言えばわかりやすいでしょうか。
鉄筋コンクリートの建物を造るとき、コンクリートでできた壁や柱を運んで組み合わせるわけではなく、実は現場でコンクリートを流し込んで固めて造って行きます。
そのときに欠かせないのが『型枠大工』なのです。
この型枠大工はまさに職人で、垂直制度±3ミリというのが業界の一般的な許容範囲とされています。
この許容範囲を超えてしまうと建物の強度に影響を及ぼしたり、建物そのものが歪んでしまいます。
それをコンピュータも使わずに人の手で図面との誤差を±3ミリ以内に収める。それが型枠職人の成せる技なのです。
作業内容を細かく述べますと、コンパネと呼ばれる合板と角材を釘でつなぎ合わせ、内側、外側の両面を一定間隔の内法で保持金物(セパレーター)を使って確保・固定をし、型枠を造っていきます。
さらにはコンクリートを流し込んだ時にその重みで変形や破壊されないように単管と鎖、支持鋼管などで外側から圧力をかけ支持力を保つ作業も行います。
ただ型枠を組めばいいというものではないわけですね。誤差±3ミリを確保しつつ流し込んだコンクリートの重量に耐えうる型枠を組む。
まさに職人技と言えるでしょう。
建具大工(たてぐだいく)
建具大工は、障子やふすまなどの作る大工です。
昔はふすまや畳などは引っ越す際に持ち運んで引っ越していたために顧客層に違いが生じ、家屋大工と建具大工の分業が進んで今となったと言われています。
現代ではふすまや畳は家の物でしたが、昔は人の物だったわけです。
この建屋大工は年々減少傾向にあると言われています。
理由は先に述べたようにかつては引っ越しの際に持ちまわっていたふすまや畳も、現代ではもって引っ越す人はほとんどいないからです。
新築にしてもすでにふすまや畳は用意されていますので持ち運ぶ必要がないのです。
そのために建屋大工の出番は新築のふすまや障子を作ることのみになってきています。
家具大工(かぐだいく)
家具大工は、まさに家具を作る大工です。
しかし、より身近で日常的に使われる家具ですので、極めて高度なクオリティーが求められる仕事です。
家具大工にも様々な業務形態が存在します。
工務店に雇われて家具大工もいれば家具メーカーに雇われ専用の工場で家具を作る大工もいますし、オーダーメイドで独自の家具を作る家具大工もいます。
どちらにせよ、ハイクオリティーな家具を求められるのはどの業務形態も同じです。
造作大工(ぞうさくだいく)
造作大工は、『たたき大工』とも呼ばれ、主に住宅やマンションの内部の造作やプレカット住宅の内部造作を行う大工です。
一般に造作とは、梁・柱・土台・小屋組・階段といったような建物の主要部分を除いたところを指します。
壁・床・天井・窓枠などがそれにあたります。
造作大工は建築物の仕上げになる材料を取り扱う仕事です。
内装の仕上がりに大きく影響してくるのがこの『造作工事』です。
内装にこだわりを持つ人は高い技術力を持った造作大工に担当してもらうことで、イメージ通りの内装を実現することができるでしょう。
造作大工は昭和50年代頃より、壁や天井の造作が軽量鉄骨工事に切り替わっていくことによって大工仕事は木材を使う部分に限られてきました。
それゆえに材料の特性(伸縮・堅さ・木目など)を充分熟知したうえでその特性に見合った使用方法や仕上げ方法を考え材料を選定しなければなりません。
木材の加工や組み立てには木材に関する豊富な知識と経験による高い技術力が要求される大工なのです。
大工になるためにはどうすればよいか
さて、これまで大工という仕事に対して、様々な分類の大工を説明してきましたが、では大工になるためにはどうしたらよいか説明します。
大工になるにはいたってシンプルです。
「大工になるためには資格は必要ありません。」
早い人であれば中学卒業後に親方に弟子入りする人もいます。
しかし、それだけに大工になるためにはその人の適正さが大きく左右されます。
ものづくりが好きな人やこだわりを持った人。そういうことに喜びを感じることができる人が一番でしょう。
大雑把さが目立つ人や、それを自他ともに認められる人には向いていません。
さらに手先の器用さも大きく求められる要因のひとつです。繊細で精巧な図面に対してそれを実現させるためには高度な技術が必要です。
であるがゆえに手先の器用さは必要になってきます。
さらにこの業界は上下関係が厳しく自分の腕がものをいう職人気質です。そういった環境で生き残るだけの粘り強い精神も必要になってくるでしょう。
まとめ ~昨今の大工事情を踏まえて~
わたしたちの生活に欠かせない『家』を造る大工についてお話してきました。
厳しい環境の中ではありますが、それだけにカタチの残る物を後世に語り継いでいけるのも大きな魅力と言えます。
「この建物は自分が造った」と誇りをもって言うことができるでしょう。
しかし、昨今の大工事情は非常に厳しいものがあります。
大工の人口が年々減少傾向にあり、1985年には人口81万人が2030年には21万人に減少するとまで言われています。
それによって大工の高齢化問題も浮き彫りになってきているのです。
「町から大工さんが消える」そんなことのないように職場環境や評価制度、賃金制度などを改善していく必要があると考えます。
その一翼を担うのはあなたかもしれません。
建築業界になくてはならない存在の大工に魅力を感じている方や自分の技術がどこまで通用するか試してみたい方などいろいろな考えを持っている人がいるでしょう。
いずれにせよたくさんの人々に笑顔を与えられる魅力的な大工さんが増えていってくれることを願うばかりです。