何事も”基礎が大事”と言われますが、それは建築物においても同じです。
住宅における基礎というのは、建物を支える土台部分のことであり、「基礎工事」はこの土台を造り上げていく作業を指しています。
今回は、基礎工事および杭打ち・アンカー工事について、詳しくお話をしていきたいと思います。
基礎工事とは
冒頭でもお伝えした通り、住宅の基礎とは”建物を支える土台”のことであり、家の重さを地面に伝えるという重要な役割が存在します。
そもそも、これまでの日本の家の寿命は、世界に比べてとても短いとされてきました。
その理由として、以下の背景があります。
・日本は、高温多湿かつ地震が多い国であること
・家の資産価値は築20年を境に無くなる、という考えが浸透していた
このことから、基礎に使用されるコンクリートは、耐久年数が30年ほどのものが使用されていることがほどんどでした。
尚、イギリスなどは「メンテナンスをしながら良いものを長く使い、資産価値を上げていく」という日本とは真逆の価値観を持っています。
ただ、日本も古くからの価値観が少しずつ変化しており、現在は「長期優良住宅」など、長期に亘り安心して暮らせる家づくりを応援する制度もできています。
そのため、基礎工事はこれまで以上に重要な工程となっているのです。
種類について
特徴
工事の種類は大きく3つに分けられます。ここではそれぞれの特徴をご紹介していきましょう。
【布基礎】
布基礎は、古くから使用されている工法です。
家の壁に沿ってコンクリートを流し込み、それを薄いコンクリートで横に繋げていきます。
布基礎の場合、住宅を支えるのは立ち上がっている部分のみであり、鉄筋もこの部分のみに使用されています。
これのメリットは、
- コンクリート使用料が少なく、コスト削減が可能
- 縦長の構造であることから、集中的に負荷が掛かる重さに強くなる
- 基礎そのものが軽いため、負荷が掛かりにくい
などがあります。
ただし、床下空間がないため点検や修繕が困難であったり、そもそも長期優良住宅として認定されないという問題もあります。
【ベタ基礎】
近年、多くの住宅に活用されている工法の一つです。
これは、床下部分にコンクリートを流し込み、立ち上がっている部分と床一面を鉄筋を入れたコンクリートで一体化しています。
布基礎との違いは、建物を支えるものが”点”か”面”かという点です。
このメリットは、下記が挙げられます。
- 建物の重さを、地面全体に分散させることができる
- 地中からのシロアリの侵入が防げる
- 地面から湿気を防げる
ただし、コンクリート使用量の関係からコストが高くなりがちであり、新築してから1~2年はコンクリートから水分が出てくるため対策を施す必要があります。
【SRC基礎(逆ベタ基礎・蓄熱床工法とも呼ばれる)】
これは、外周を立ち上がり基礎で形成し、内周に「H型鋼材」という素材を組み込んでいきます。
その後、床下に砂利とコンクリートを敷き詰めていく工法です。
この工法の最大の特徴は”床下自体がない”ということ。
そのため、湿気が入り込むことがなく、床下浸水も発生しません。
加えて、
- シロアリ、腐朽菌が発生しない
- 地震の揺れを吸収して分散できる
- 地中からの蓄熱で床暖房効果がある
といったメリットも存在します。
ただし、コンクリートを流し込む工程が、ベタ基礎よりも1回多いというデメリットもあります。他に比べ工程が長くなる点には注意が必要です。
適切な工事を選ぶこと
上記でご紹介したものは、それぞれに特徴があり一長一短です。
どれかが優れているという訳ではなく、地盤の状況など適材適所で選んでいく必要があります。
尚、この工事は、基礎を専門とする職人によって行われ、専用の資格も存在します(大工が行う場合もある)。
建物の土台を造る大切な作業なので、携わる人は相応の知識と技術を必要とします。
杭打ち工事
概要
正確には「基礎杭打工事」と呼ばれる基礎工事の一つで、構造物を地盤の上に安定させ、建築できるようにするための工法のことです。
特に「軟弱地盤」と呼ばれる、柔らかい地盤の上に建設が行われる際に利用され、この工事を行うことにより耐久性の高い構造物を建てることが可能となります。
尚、もう一つ「直接基礎工事」という工法も存在します。
これは、その名の通り、地盤に杭打ちを行わず直接構造物の基礎を造っていくことをいいます。
“杭を打ち込む”という作業がないため比較的安価で工事を行うことができますが、しっかりとした地盤でしかこの工事を行うことはできないので、使用される場面は限定されます。
特に、日本の地盤はほとんどが軟弱地盤であり、また地震が多い国でもあるので、日本でこの工事が行われることはほとんどありません。
杭および工法の種類
基礎杭打工事と一言でいっても、地盤や構造によって使用されるものは異なります。
・木杭:木材でできた杭であり、特に松などが使用される。古くから利用されている杭であり、好気性に優れる。ただし、防腐処理を行う必要あり
・鋼杭:鋼でできた杭で、ビルなど重量がある建築物や地滑りが起こりやすい場所で重宝される
・コンクリート杭:コンクリートでできた杭であり、柔らかい地盤に使用されることが多い。また”水分が多く、腐植が多い地盤”などでも使用される機会が多い
【工法の種類】
・アースドリル工法:地盤を削る・掘るなどで穴を開け、杭打ちをする方法であり、最も広く使用される工法
・オールケーシング工法:鋼管(ケーシングチューブ)を使い振動・圧入をし、ハンマグラブで掘削や排土を行う工法。硬い地盤などで使用される
・鋼管回転圧入工法:鋼杭の先端部に先端翼をつけ、回転させることで地中に埋め込む工法。掘った土は産業廃棄物となるが、これが発生しない無排土工法として開発された
必要な資格
杭打ち工事は基礎工事の一つなので、資格は基礎工事に関連するものを取得すれば問題ありません。
基礎工事を行う上で必要な資格は「基礎施工士」です。
これは、基礎の工事の中でも重要である「場所打ちコンクリート杭工事」の技能を認める資格で、一般社団法人 日本基礎建設協会が実施する検定試験に合格することで取得できます(民間資格です)。
試験の形式は、択一式・記述式による学科試験で構成されており、合格率は30~40%ほどと言われています。
ただし、受験資格を得るためには一定の実務経験が必要であり、下表のようになっています。
以下学校を卒業 | 必要な実務経験 | |
指定学科 | 指定学科以外 | |
大学 | 1年6カ月以上 | 2年6カ月以上 |
短期大学、高等専門学校 | 2年6カ月以上 | 3年6カ月以上 |
高等学校 | 3年6カ月以上 | 5年6カ月以上 |
中学校 | 8年以上 |
この試験に該当する指定学科は、以下の通りです。
- 土木工学
- 建築工学
- 機械工学
- 都市工学
- 建設工学
- 建設基礎工学
- 電気工学
- 地学
- 地質学
- 資源工学
- 衛生工学
- 交通工学
- 安全工学
- 環境保全工学
- 計測工学
また、資格の有効期限は5年であり、維持するためには5年ごとに更新講習会を受講する必要があります。
その他についての詳細は、日本基礎建設協会の公式ホームページをご覧下さい。
アンカー工事
概要
これは、構造物のコンクリート部分にドリルを使って穴を空け、アンカーボルトを埋め込んでいく作業のことです。
主に、耐震補強工事・コンクリート箇所の強化・配線や配管の固定などで利用されます。
尚、この工事は建設現場だけではなく、
・看板・標識の取付け
・室外機・物干し金具の取付け
・フェンスの固定
など、様々な用途で使用されています。
これらは「あと施工アンカー」といい、コンクリートが固まった後で施工されるものです。
そして、この仕事に従事している作業員は「アンカー工」や「アンカー屋」と呼ばれています。
仕事をするには
会社により必要となる条件は異なるものの、一般的にアンカー工になるために必須となるものはありません。
まずは、この工事を扱っている建築関連の会社に就職し、見習いからスタート。先輩の下で現場を経験し、知識・技術を深めていくのが良いでしょう。
また、次項で資格についてご紹介しますが、一部のものは一定の実務経験を必要とします。
資格に関しては、”自身のキャリアアップのために取得する”という認識でもいいかとも思います。
資格について
アンカー工事に関連する資格として、下記2つが挙げられます(どちらも民間資格です)。
【1.グラウンドアンカー施工士】
一般社団法人 日本アンカー協会が実施している試験で、取得することでグラウンドアンカーに関する知識・技能を証明することができます。
グラウンドアンカーとは、
・構造物の転倒・浮き上り防止
・仮設山留め・土留め
など、幅広い用途で使用されるアンカー工事の中でも特に重要な専門分野です。
この資格の受験資格は、下表の通りです。
以下学校を卒業 | 実務経験 | |
指定学科 | 指定学科以外 | |
大学 | 2年6カ月以上 | 3年6カ月以上 |
短期大学、高等専門学校 | 3年6カ月以上 | 4年6カ月以上 |
高等学校 | 4年6カ月以上 | 6年6カ月以上 |
その他 | 9年以上 |
指定学科は下記が該当します。
- 土木工学
- 建築工学
- 機械工学
- 都市工学
- 建設工学
- 電気工学
- 地学
- 応用地学
- 資源工学
- 林学
- 衛生工学
- 交通工学
- 安全工学
- 環境保全工学
- 及びこれ等に関連する学科
合格率は、約40%前後となっています。
また、登録の有効期間は5年であり、期間内に更新講習を受講することで更新が可能です。
【2.あと施工アンカー施工士】
一般社団法人 日本建築あと施工アンカー協会が実施している試験です。
こちらは、いくつかの分類があり、受験資格はそれぞれで異なります。
分類 | 試験内容 | 条件 |
第2種 | 筆記試験 | 中学校卒業もしくは中学校卒業者と同等以上の学力を
有すると技術者審査委員会が認めた者(15歳以上) |
特2種 | 実技試験 | 第2種の資格登録後、6カ月経過している者 |
第1種 | 筆記試験
実技試験 |
第2種もしくは特2種の資格登録者 |
さらに、「技術管理士」という分類もあります。
この資格は施工自体を行うことはできず、あと施工アンカー工事を適正に実施するために、施工計画・施工図の作成・工程・品質・安全管理などを行うための資格となります。
そして、この資格を受けるためには、一定の事務経験が必要です。
以下学校を卒業 | 事務経験 | |
指定学科 | 指定学科以外 | |
大学 | 1年以上 | 1年6カ月以上 |
短期大学、高等専門学校 | 2年以上 | 3年以上 |
高等学校 | 3年以上 | 4年6カ月以上 |
実務経験8年以上(学歴・資格に関係なく受験可能) | ||
1・2級建築士、監理技術者、主任技術者、施工管理技士などの資格を有している者 | ||
第1種あと施工アンカー技工士の資格登録者 |
尚、指定学科は、下記が該当します。
- 建築(工)学科>
- 森林土木学科
- 緑地学科
- 電気・電子工学科
- デザイン工学科
- 土木工学科
- 鉱山土木学科
- 造園学科
- 機械工学科
- 建設(工)学科
- 砂防学科
- 都市工学科
- 情報工学科
- 農業土木科
- 治山学科
- 衛生工学科
- 環境工学科
また、この資格も5年ごとに更新手続きが必要となります。
試験の合格率は他に比べて比較的高く、第1種や技術管理士でも50%前後となっています。
平均年収・給与について
アンカー工事は、建築の現場に必要不可欠な存在であり、一定の市場ニーズがある仕事です。
そのため、他業種と比べて給与面が高く設定されています。
年齢や経験・資格の有無によっても変動してきますが、平均年収は400万~900万円ほどと言われており、月収は25万~58万円ほどが目安となってきます。
もし、賞与も付与してくれる会社であれば、さらに一定のボーナスも付きますし、比較的収入面は安定しています。
ただし、会社によっては歩合制や日払いとしている会社もあり、条件は企業ごとに異なります。
もし就職をお考えの方がいれば、事前に会社側にお話を伺ってみたり、求人情報などで確認をしてみるといいでしょう。
まとめ
基礎工事は工事の根幹を担うものであり、全ての建設工事を行う際に必須となる作業です。
そのため、今後も一定の需要がある仕事と言えます。
ただし、将来的には機械化が進んでいく可能性があることは注意しておかなくてはいけません。
現在、日本のコンクリート工事は、ほとんどの会社が手作業で行っています。
しかし海外では”機械と手作業の融合”が進んでおり、大まかな作業を機械が・細かい部分は人による手作業で行われているケースも見受けられます。
全てが機械に取って代わられるということは早々ないかと思いますが、いずれ日本でも機械化が進んでいき、人件費削減という意味合いで職人の数が減っていく可能性はゼロとは言えません。
今後、長く職人として生き残っていくためには、多くの知識・現場経験・資格を有していることが条件の一つとなってくるかもしれません。
また、今後機械化が進んできた場合、その機械を扱える技術を有し、時代の流れに臨機応変に対応する力も必要となってくるでしょう。
決して楽な仕事ではありませんし、将来が約束されたものでもないため、仕事に就いた後もひたすらに努力を積み重ねていく必要があります。
しかし、それはどの仕事でも同じことです。常に先を見据え、広い視野を持って仕事に携わることが、長く仕事を続けていくためのコツと言えるのかもしれません。