「左官屋」「土間屋」もしくは「土間左官業」という言葉を聞いたことはないでしょうか?
一般的には「左官業」と一括りに言われますが、両者の仕事内容は全く異なります。
端的にまとめると、建築工事において壁や床などを塗る職人を「左官」、コンクリートの床をつくることを「土間」といいます。
ここでは、左官・土間の違いや、左官業に就くための知識などをご紹介していきます。
「左官」と「土間」の違い
左官とは?
「左官」とは、建物の壁や床・土塀などを塗る職人のことです。
鏝(こて)という道具を使い、土や漆喰・珪藻土などを塗って壁を仕上げたり、砂とセメントを混ぜた「モルタル」というものを塗って床や壁を仕上げる作業を行っています。
自然素材からなる塗り壁や吹き付け壁のことを「左官壁」といい、左官壁に使う素材を左官材料といいます。
左官壁の利点は、
・室内の調湿効果や消臭効果が期待できること
といった点が挙げられます。
特に日本は雨が多い気候であり、湿気調節のために左官壁の存在は非常に重要な役割を果たしています。
逆に、左官壁の欠点は、
・職人の技術が仕上がりに大きく影響する
ことです。
建設工事の中でも仕上げに関わる部分を担当することが多くなるため、丁寧に根気強く…集中力を持って取り組む姿勢が求められる仕事となります。
土間とは?
「土間屋」とは、床専門の左官業者の通称です。
漆喰塗りなどで内装や外壁を仕上げる「左官」に対して、コンクリートの床をつくるのが「土間屋」の仕事となります。
例えば、私たちが普段歩いているコンクリートは、土間屋が作ったものです。
他にも、行政施設・商業施設・学校施設など、人々が利用しているコンクリートの床でできている施設は、全て土間屋が関わっているのです。
近年は大型商業施設など建物の大型化が相次いでおり、施工する床の面積が広くなっています。加えて、時間との勝負でもある土間の仕事は人数を必要とします。
ハードな仕事内容ではありますが、少しずつ機械化も進んでおり、環境も変化し続けています。
床コンクリートは世界共通であり、建物が建設される限り無くなることはありません。
今後もさらに発展を続けていく事業と言えるでしょう。
建築における「土間」とは?
少し話が逸れますが、家によっては「土間」というスペースが存在します。
建築物における「土間」とは、居室との間にある”土足で歩ける空間”のことです。
土間は、昔の日本の家…特に農家では当たり前に存在する空間でした。
三和土(たたき)と呼ばれ、画像のように釜戸があって炊事をしたり、野菜などの農作物の下準備をしたり保存をしたりと多彩な使われ方をしていました。
現代では、オシャレな空間として演出されており、また屋内の一部として壁や天井が設けられていることから、子供の遊び場スペースとして利用されることもあります。
また、土足OKな場所であることから、汚れたものや水を使う作業も行えます。
例えば、自転車のメンテナンスや、アートの作成などで使用される場合が挙げられますね。
もちろん、昔ながらの”コミュニケーションの空間”として使用することもできます。
テーブルとイスを用意すれば、オシャレなカフェ空間の出来上がりです。
この土間も「左官」が作業を行っています。
漆喰や珪藻土、石のタイルなどが敷き詰められることが多いですが、現在は床に木材を張って土間にするケースも増えています。
左官の仕事に就くために必要なこと
左官になるには?
まず結論からお話すると、左官職人は学歴不問とされる場合が多く、職に就くために必須となる資格はありません。
左官業を営む左官工事会社や、内装工事会社に就職することで、すぐに左官になることができます。
昨今は職人の高齢化が進んでおり、建築業界全体で後継者不足が深刻化しています。
そのため職の求人数も多く、「未経験からでもOK」と門戸は開かれているので、職に就くこと自体はそう難しいことではありません。
ただし、一人前の左官職人への道のりは、長く険しいものです。
高い技術を求められる左官は、一通りのことを身に着けるだけでも数年、一人前とみなされるようになるには10年ほどの修行が必要と言われています。
まずは見習いとして先輩のもとで修業をし、長い年月をかけて現場を経験し、少しずつ腕を磨いていくのです。
左官の基礎を学べる学校
上記で学歴不問と書きましたが、建築系の専門学校(建築大工科/伝統建築科/工芸デザイン科など)で、左官に関する基礎的な知識や技術を学ぶことはできます。
基礎知識は現場に出た時に必ず役に立つものですし、学校から就職先を紹介してもらうこともできるため、スムーズに左官職に就くことが可能です。
また、全国各地には社会人を対象とした職業訓練校もあり、現役の左官職人から実践的な技術を学ぶことができます。
こちらも修了後に就職先斡旋の体制があり、加えて学費が安いという利点もあります。
ただし、どちらの場合であっても、学べるのは”基礎的な知識と技術だけ”なので、技術を磨くためには現場での経験は欠かせません。
左官に必要な資格
左官になるために必須となる資格は特にありませんが、キャリアアップのために取得しておいた方がいい資格は複数存在します。
ここでは、各資格についてご紹介していきます。
「左官技能士」
代表的なものとして、左官に必要な技能を認定する「左官技能士」があります。
国家資格である技能検定制度の一つで、特に1級を取得できれば”国が認めた立派な職業”として身の立て方の証となります。
技能検定には、現在「特級/1級(単一等級)/2級/3級」の等級区分があり、それぞれの試験程度は下記のようになっています。
技能検定の合格者は、厚生労働大臣名や都道府県知事の合格証書が交付されます。
尚、職業能力開発促進法により、資格を所持していない人が左官技能士を名乗ることは禁じられています。
また、受験資格として、各等級ごとに一定数の実務経験が必要です。
基本的には下記画像の通りとなりますが、職業訓練歴や学歴などによって短縮される場合もあります。
特級や1級を取得するには、相当な知識と経験を必要とします。
しかし、取得すれば仕事の幅が広がることはもちろん、自身のスキルアップ・キャリアアップに繋がるため、毎年多くの左官職人が試験に挑戦しています。
「登録左官基幹技能者」
「基幹技能者」は、現場の技術者と技能者の中間に位置する者の能力を認定する”民間資格認定制度”で認定された人のことをいいます。
建設現場において、生産性の向上などを目指して行われているものであり、左官職の親方として独立をする際に必要となる資格です。
尚、一定の能力水準の保持や、技術の進歩・法令改正などに対応していく必要があることから、5年ごとに”更新講習”を行うことが定められています。
その他の資格
【切削工具研削技能士】
「切削」とは、金属などに切削工具を押しつけ、表面を削る加工方法のこと。この資格は、その切削 に関する技能を認定するための国家資格となります。
研磨は、左官の仕事と関係性が深いため、取得を目指す人が多くいます。
【高所作業者免許】
左官は、壁を塗る仕事も行うため、作業場によっては高所の壁を塗る場合もあります。
この資格は、その際に役立つ資格です。
左官業界の実態
給料や年収
一般的な左官職人の平均年収は、300万円~400万円ほどと言われています。
しかし一人前になるまでは、それよりも少ない収入となることもあり、見習いの期間は特に厳しいと感じることもあるかもしれません。
しかし、その分高い技術や資格を身に着ける程に、収入は増加していきます。
特に現在は人手不足が深刻なため、技術力の高い職人であるほど現場に必要とされ、給料の大幅アップを期待できる可能性もあります。
ただし、給与形態は日給制や月給制など、各企業により異なります。
月給制の場合は月ごとに一定額が保証されますが、日給制の場合は雨天などで仕事ができず休日となった場合、その日は無給となるケースもあります。
就職を検討する際は、給与形態や待遇面もキチンと確認しておいた方がいいでしょう。
勤務時間や休日
勤務時間は基本的に8時~17時が一般的で、8時から作業を開始するため7時頃には現場に集合し、作業の準備を進めることが多いとされています。
ただし、時間帯は作業する建設物や工期によって変わることもあります。
例えば、生活している個人宅で作業をする場合、9時頃(居住者に迷惑が掛からない時間)に作業を行うことが多くなります。
また、お客様が休日しか在宅しないという場合は、日曜日に作業を行う時もあります。
他にも、工期が遅れている現場では、残業になったり休日出勤となることもありますし、室内作業の場合は投光器をつけて夜間に作業をする場合もあります。
状況によりけりではありますが、勤務時間や休日が変則的になる可能性もあるということは認識しておいた方がいいでしょう。
左官職人に必要なこと
左官道具やセメント・砂を持った移動、塗りや壁づくりとった実作業を1日を通して行うため、非常に重労働な仕事と言われています。
また、外部で作業を行う場合は、季節ごとの天候や気温の影響も受けてしまいます。
夏は熱中症、冬は低気温による体調不良など、良好な健康状態を保つための対策を常に講じておかなくてはいけません。
また、一人前になるまでの期間が長いこともあり、その成長の過程において先輩から叱咤を受けることや、技術が思うように向上せずに思い悩むこともあるかもしれません。
左官に向いている人は、
・忍耐強い
・技術習得のための努力を惜しまない
・向上心が強い
こういった、仕事を前向きに捉えて努力し続ける人だと言えます。
他にも、手先が器用な人であったり、一つの現場で他の業種の方との連携が必要となる場合もあることからコミュニケーション能力の高い人も適正があると言えるでしょう。
将来性について
これまでにも何度かお話しましたが、建築業界は職人の高齢化が深刻化しており、人手不足が課題の一つとなっています。
また、一人前になるために長い期間を要するため、特に若者の採用を望んでいる企業が多いのも特徴です。
そのため、左官の求人数も多く就職状態も決して悪くはありません。
ただし、零細企業や個人事業主も多く、勤務時間や給与に関しても企業によって形態が異なることから、雇用条件はしっかり見極めて判断をしていく必要はあります。
商業施設や行政施設、新築やリフォームなど、左官の仕事はこれからも無くなることはありません。
さらに、健康志向が高まる近年では、自然素材を活かした日本建築の存在も新たに見直されており、これまでの左官文化にも改めて関心が寄せられています。
女性の左官職人も増加している
左官の仕事は技術力がメインであり、スピードより完成度が重要視されます。
女性ならではの繊細さや手先の器用さ、そして丁寧さを活かせる職業でもあるため、以前から積極的に女性を採用している企業も存在します。
また、現在は結婚後も継続して働く女性もおり、多様な働き方のニーズに答えるため、そういった方の勤務時間や休日を調整してくれる企業も増えています。
ただし、技術力がメインとはいえ肉体労働が必要なことに変わりはないので、慣れるまでの間は体力面で厳しいと感じることはあるでしょう。
「フリーランス」としての働き方
長い年月を経て一人前の職人になった後、”独立”を検討する人もいらっしゃるでしょう。
左官は独立がしやすい職業であり、自身のスキルを頼りに生計を立てていく人も少なくありません。
経営者として独立する人もいれば、現在は「一人親方」としてフリーランスで働く人もいます。
これは、現場ごとにクライアントと契約を結び作業を担当していくものです。
ただし、あくまで個人事業主のため、各種保険の手続きや経費処理・確定申告などは自分で行っていかなくてはいけません。
また、独立時点では何の実績も信用もないため、技術の証明として「左官技能士」などの資格は必須ですし、独立して工事を請け負う場合「建設業許可」も取得しなくてはいけません。
クライアントとの交渉や現場での他の作業員とのやり取りなど、コミュニケーション能力やスキルも必要不可欠です。
これらの点は、企業に属している間にキャリアを積み、技術面だけでなく人脈も広げておく必要があるでしょう。
まとめ
左官は、建物の仕上げ作業を中心に行うことから、手掛けた職人の個性が表れやすく、目に見えて形に残ります。
手掛けた仕事が長い年月に渡って多くの人々の目に映ることから、そこにやりがいと責任を感じ、長く仕事を続けている職人が多いのです。
シビアな世界ではありますが、納得のいく仕事ができた時の達成感は格別なもの。さらに、超一流となった左官職人の中には、建築施工のレベルを超え”芸術”とまで称されることもあります。
一つの道を極めていく面白さ・やりがいが左官にはあります。
興味を持たれた方は、ぜひ左官についての知見を広げ、職人の道へと一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。