“現場の華”とも称される鳶職(とびしょく)。
しかし、建設現場の中でも高所で作業をする機会が多いことから、常に危険と隣り合わせとなる仕事でもあります。
ここでは、鳶職についての基礎知識や種類、必要な資格などを一つずつご紹介していきたいと思います。
「鳶職」とは?
「鳶職」とは、建設現場において”高所での作業を専門とする職人”のことをいいます。
「鳶」「鳶の者」「鳶工」とも言われ、町場では基礎工事や簡単な地業および関知石積なども行います。
“現場の華”と言われる所以は、高所を華麗に動き回ることからきています。
尚、鳶という名称の由来は、日本で建物を新築した際に行われる「上棟式」という祭祀の時、梁から梁へ文字通り”飛んだ”ことがキッカケとされています。
新築・改修工事の現場において欠かせない存在ですが、高所での作業が中心となることから常に危険を伴います。
そのため、高い技術や体力はもちろん、強い集中力と経験が求められる仕事です。
鳶の種類
一言で鳶職と言っても、携わる作業によって様々な呼び方をされています。
大きく「足場鳶」「鉄骨鳶」「重量鳶」に分けられます。
足場鳶
足場鳶は、建設作業に必要となる”足場を設置する職人”のことをいいます。
図面から建物をイメージし、後から作業に入る他の職人の作業効率が上がるように、そして安全に作業が行えるように設置していく必要があります。
現場の状況に合わせて足場を組み立てる必要があることから、的確な判断力が求められます。
そして、会社として、仮設足場のレンタル・据付・解体までを一括で請け負っている場合が多いのが特徴です。
「鉄骨鳶」(てっこつとび)
鉄骨鳶は、鉄骨構造の建築物において、柱や梁になる鋼材をクレーンなどで釣り上げて”骨組”を組み立てる職人のことです。
鉄骨を組み上げることや高所で作業を行うことから、一歩間違えれば大けがや命に関わる危険性もあり、作業現場の中でも特に難易度の高い仕事と言われています。
この作業は「下まわり(地走り)」「取付け」という二つのグループに分かれて行われます。
尚、鉄骨造では鉄骨を組んだ後に足場の組み立てを行うため、同じ鳶職人が鉄骨と足場の組み立ての両方を担うこともあります。
「重量鳶」(じゅうりょうとび)
重量鳶は、建物内部の大型機械などの重量物の設置を行うことをいいます。
上二つの鳶職に比べてより専門性が高い仕事であり、土木では橋梁の現場で主桁架設も行っています。
また、プラントや空調給排水設備・電気設備工事の一部を担当する場合も多いのが特徴です。
「職長」(しょくちょう)
職長とは、他の鳶職人を監督・指揮する立場の人のことで、工程管理や施工管理・安全管理といった仕事を行っていきます。
現場は、作業員だけでなく、物や資機材などが常に動いており、危険有害要因も常に変化しています。
緊張感を持って作業に従事していても、自身の作業に集中してしまうことで周りに対する認識が薄くなってしまうこともあり、その際に事故は発生してしまいます。
その事故を未然に防ぎ、現場作業が滞りなく進むように、現場全体を監督していくのが職長の務めなのです。
職長は、各現場に必ず一人は必要となります。
また、職長教育を受け、職長教育終了証を取得していなければ、この仕事を行うことはできません。
尚、「安全衛生責任者」と混同されることがありますが、この2つは似て非なるものです。
端的にまとめると、
・統括安全衛生責任者との連絡など、対外的な業務を行うのが”安全衛生責任者”
となります。
どちらも重要な仕事に変わりはありませんが、役割や職務内容はそれぞれで大きく異なります。
鳶職人になるには?
まずは見習いとして現場を経験する
現時点では、鳶職を学ぶための専門学校などはなく、基本は学歴不問や資格が無くとも採用されるケースが多いのが特徴です。
まずは高等学校卒業後などに、鳶職人や土工を扱う建設会社に就職し、見習いとして現場を経験していきます。
尚、18歳未満の場合、高所作業に従事することは法律で禁じられています。
そのため18歳になるまでは、運般など地上での作業を中心に行っていくこととなります。
冒頭でもお伝えした通り、鳶の仕事はケガや人命に関わってくる危険な仕事なので、”事故を起こさないために”先輩からの厳しい指導を受けることもあります。
仕事に慣れるまでの間は、体力・精神面ともに厳しいと感じることもあるかもしれません。
取得しておくべき資格
職に就くのに必須となる資格はありませんが、就職後に取得すべき資格は多数存在します。
まず、必ず取得しなければいけない資格は「玉掛け」「足場」「鉄骨」の3つです。
「玉掛け」
まず、一番はじめに取得する資格が「玉掛け」です。
これは、クレーンなどに“荷を掛け外しする作業”のことをいいます。
フックに荷を掛ける作業を「玉掛け」、逆に荷を外す作業を「玉外し」といい、この一連の作業全てに資格が必要となります。
尚、クレーン運転から玉掛け作業までを一人で行う場合は、クレーン運転免許と玉掛け両方の資格が必要です。
そして、玉掛けの資格を取るには、下記に記載されている通り1t以上のクレーンなどを使った技能講習を修了しなければいけません。
「足場の組立て等作業主任者」
下記のように、吊り足場や張り出し足場、もしくは高さが5m以上ある構造の足場の組み立て・解体・変更の作業を行う場合に必要となる資格です。
労働災害の防止を徹底して行い、これら作業に携わる場合は、足場免許の有資格者を配置することが法律で義務付けられています。
足場の資格を取得するためには、足場の組み立て・解体・変更など足場に関する作業の経験が3年以上必要です。
もし、学校で土木・建築・造船に関する学科を専攻して卒業していた場合は、足場作業の経験は2年以上となります。
建築物等の鉄骨組立て等作業主任者
建築物の骨組みや塔であって、5m以上の高さのある金属製の部材により構成されるものの組立て・解体・変更の作業を行う場合に必要な資格です。
労働災害の防止などを行い、仕事を行う際は「鉄骨の組立て等作業主任者の有資格者」の有資格者を配置する義務があります。
こちらも、鉄骨に関する実務経験が3年以上、もしくは学校で土木や建築に関する学科を専攻して卒業している者は2年以上の実務経験を経たのちに、受験することが可能となります。
「とび技能士免許」
「とび技能士」は、鳶職人が将来的に取得を目指す重要な国家資格です。
等級は1級(上級技能者)・2級(中級技能者)・3級(初級技能者)まで存在し、それぞれに実技と学科試験が用意されています。
尚、下記のように、2級は2年以上・1級は7年もしくは2級取得後に2年の実務経験を必要とします。
特に1級の取得難度はかなり高く、相当な知識と経験を要します。
ただし、1級を取得すれば独立が可能となり、職業訓練校などで指導員として働く道も開けます。
将来的に、鳶の親方として独立を考える場合は、必要不可欠な資格と言えるでしょう。
その他に取得しておいた方がいい資格
一部の作業を行う際に、必要となる資格には下記があります。
「コンクリート橋架設等作業主任者」
「地山の掘削及び土止め支保工作業主任者」
「型枠支保工の組立て等作業主任者」
また、フォークリフトを運転することもあり、最大荷重1t以上の運転をするには「フォークリフト運転技能講習」の終了証も必要となります。
高所で作業をすることから「高所作業車運転技能講習」の終了証も必要です。
他にも、
「工事用エレベーター組立・解体等作業指揮者安全教育」
「クレーン組立・解体作業指揮者(クライミングクレーン関係)安全教育」
なども取得しておいて損のない資格です。
特に、職長・安全衛生責任者教育は、現場を任される立場となるには必須となります。
勤務時間・休日
建設現場の作業は“8時~17時”と決まっており、建設作業員はおおよそ7時半頃までには現場に入ることがほとんどです。
会社によっては、早朝に集合し各現場に行く職人を振り分け、現場ごとに移動を行う場合もあります。
残業はほとんどなく、また集中力を伴う作業であることから、10時・12時・15時まで一定時間に休憩を取っています。
休日は、日祝が休みになることが多いです。
お盆や年末年始などの夏季・冬季休暇もあり、普段の休日が少ない分、この時期に比較的長めの休暇を取ることができます。
尚、外での作業となることから、雨の日は休日となります。しかし、工期の関係から現場によっては工事が行われる場合もあります。
繁忙期についてですが、新築工事は工事開始時期が家によって異なるため、明確な繁忙期というものはありません。
しかし、マンションなどの大規模改修工事の場合は、居住者の利便性の関係から、2月や9月に工事が行われることが多いのが特徴です。
鳶職人…特に足場鳶は、足場を組む2月と9月、解体をする6月と12月が繁忙期と言えるでしょう。
給料について
以前は、専門性があり危険を伴う仕事であることから、比較的高額な収入を得ることができました。
しかし、建設不況の昨今は下落傾向にあります。
給料は会社によって様々ではありますが、経験や実力・資格の有無によって変動があります。
そして、固定給ではなく、日給月給制がとられることが多いのが特徴です。
例えば、日給の場合は、
【一般の鳶職人】10,000円~14,000円
【職長クラス】12,000円~18,000円
このような場合が多いようです。
また、ボーナスの有無も企業によって異なります。
近年は改善傾向にはありますが、社会保険などの福利厚生が十分でないところもあり、企業によっては保険や年金を自身で払い確定申告も行う必要があります。
自身で支払う場合、当然月給から支払いをしていかなくてはいけないので、手取りがさらに少なくなってしまうケースもあります。
もし就職を検討する場合は、給料面だけでなく、福利厚生がしっかりしているところを選んでいく必要があります。
求人サイトの情報や、面接の際に待遇面をしっかりと確認しておきましょう。
仕事は大変だが…
高い場所での作業はもちろん地上であっても重たい荷物運びなどを行うため、ケガや事故を起こしてしまった場合、自身のみならず周囲の人達にも被害が及ぶ可能性があります。
そのため、鳶職人は常に極度の緊張の中で作業をしています。
時には厳しい言葉が飛び交うこともあるでしょう。しかし、これは作業員が真剣に作業に取り組んでいる証拠なのです。
また、夏の暑い時期や冬の寒い時期であっても常に屋外で作業を行います。
重たい荷物を運ぶための腕力、高所で作業するための脚力なども必要で、かなりの体力を要する肉体労働でもあります。
このことから、特に見習い時代は肉体・精神面ともに忍耐の日々が続きます。
しかし、その経験を経ても長くこの仕事を続けている職人は数多くいます。
「完成した建物を眺めていると、それまでの苦労が吹き飛ぶほどの達成感や満足感を得ることができる」ためです。
“建設は、鳶に始まり鳶に終わる”という言葉があるように、基礎となる重要な工事です。
その責任感と緊張感は現場を経験した者にしか理解し難いものがあります。
しかし、この大きな責任こそ、自身の仕事に誇りを持つことができる最大の理由とも言えるでしょう。
鳶職の将来性について
昨今は“建設不況”と言われており、業界の市場規模は縮小傾向にあります。
しかし、一戸建てやマンションの新築・改修工事など、建築現場において鳶職人は必要不可欠な存在です。
特に、マンションの改修工事が行われる繁忙期は人材不足が問題となることもあり、一部では鳶職人の奪い合い…のような状況となることもあるそうです。
また、熟練職人の高齢化が進み、人材不足の問題が深刻化しているのも現状です。
過去の建築不況により中堅層の人材が育っていないことが問題視されているのです。
そのため、若年層の育成を急務としていますが、現場の緊張感もあってか新規参入者が少ないという現実も問題として挙げられています。
しかし、機械に頼ることができない・人の手で正確に行わなくてはならない鳶工事は、建築の現場において欠かせない工程の一つです。
今後も鳶職は無くなることはない、必要とされる職業と言えるため、環境もさらに変化してくる可能性もあるかもしれません。
まとめ
人材不足により、求人募集が比較的多い
若年層の育成を重要視しているため、若者が参入しやすい
など、現状は職に就きやすい仕事と言えるかもしれません。近年では女性の鳶職人も増加傾向にあります。
また、人材不足の問題から、近年では鳶職人のアルバイト求人も豊富に存在します。
学歴や経験も不問の場合がほとんどなので、比較的スムーズに採用される可能性が高い業種です。
そこから正社員に昇格できる可能性もあるので、「現場を経験したい」「鳶職のことを身近で知りたい」という場合は、アルバイトから入っていくのも良いかもしれませんね。
ただし、現場の即戦力として数えられることも少なくなく、緊張感を持って作業を行う職人ばかりなので、安易な応募は他の作業員の迷惑になるため避けるべきではあります。
職に就くことはできても、その後長く続けていけるかどうかは自身の努力次第です。
仕事を始める前に”鳶とはどういうものか?”をしっかりと勉強した上で、始めるべきかどうかを検討するようにして下さい。