建設業の中でも特殊な仕事である「墨出し」。
そして、あらゆる建設物を造る際に必須となる「測量」。
どちらも建設工事において必要不可欠な作業です。
ただ、具体的な仕事内容についてご存じない方もいらっしゃるかと思います。
また、測量には様々な種類や必要な資格というものが存在します。
今回は、墨出し・測量について、色々とお話をしていきたいと思います。
墨出しとは
概要
端的に言うと”実際の建築現場において、設計図を原寸大に描く”というものです。
工事の下地となる印を付けていき、その印が柱や壁・窓などを設置する時の基準となるのです。
そのため、わずかなズレがあっても建物が建てられなくなるため、正確さを要求される仕事です。
特に超高層ビルなど特殊な建築物を建てる際には、より精度の高い設計図通りの正しい位置出しが要求されます。
この作業は全ての工事において必要不可欠であり、墨出しをしないと他の工事を進めることができません。
尚、現在は「レーザー照射器」というものを用いてレーザー光を当て、その線に沿って墨出しを行い、建物に対して柱や床などが直角・水平かどうかを確認することもあります。
墨の種類
墨出しの際には「墨壺」と呼ばれる工具を使用し、基準墨となる地墨や腰墨を引く・木材に直線を引くなどの用途で利用されています。
尚、墨出しの名前の由来は、大工職人がこの墨壺を使用していたことから付けられています。
この墨の種類は、用途によっていくつかに分けられます。
芯墨:壁、柱の中心となる位置に示すもの
返り墨(逃げ墨):障害物などで墨が打てない時に、一定の距離を離し示すもの
仕事を行う際に必要な資格
結論から言うと、必要となる資格は特にありません。
また、墨出し工事のみを請け負う場合であっても、金額に関係なく建設業許可は不要です。
以前は、墨出し工事単体でも大工・鳶・土工・コンクリート工事として認められていましたが、平成19年以後は国より指針が発表され、単体では建設業28業種のどの業種にも該当しなくなりました。
測量とは
地球表面上の点の位置関係を決めるための技術・作業の総称のことを「測量」といいます。
もう少し分かりやすく言うと、地点AとBの位置関係および高低などを明確にした上で、その地点が地球上のどこに存在するかを正確に測ることです。
例えば、「〇〇の土地に会社を建ててほしい」と依頼が来ても、いきなり工事を開始することはできません。
まず、”敷地の大きさ・形・高低差・周囲の状況”などを把握するために、測量が行われるのです。
全ての工事の基礎となる仕事であり、民間の建設工事や公的インフラ整備工事まで幅広く対応しています。
そして、測量には実に様々な種類があります。
地図測量:データを基に地図を作成する
地積測量:土地の面積を測定し、測量図を作成する
尚、この仕事に従事する人を「測量士」といい、測量は”測量士だけが行える独占業務”です。
そのため、測量士のほとんどは、測量事業のみを専門に取り扱っている会社に勤めることとなります。
測量士になるためには
必要な資格
測量士の仕事を行うことができる資格は、下記2つがあります。
測量士補:測量士の補助(サポート)ができる
どちらも国家資格であり、特に測量士の合格率は例年10%ほどと非常に取得難度の高い資格と言われています。
ただし、”無試験”で資格を取得する方法もあります。
次項より、それぞれの資格について詳細をお話していきましょう。
測量士について
まず、測量士の資格を所持できる方法は下記が存在します。
◆文部科学大臣の認定した「大学・短大・高等専門学校」にて、測量に関連する科目を修めた上で卒業。その後、測量に関する実務経験を1年以上(大学)もしくは3年以上(短大・専門学校)行った者
◆国土交通大臣の登録を受けた測量に関する「専門学校」にて、1年以上測量士補となるのに必要な知識・技術を学び、測量に関する実務経験を2年以上行った者
◆測量士補の試験に合格後、国土交通大臣の登録を受けた測量に関する専門の養成施設にて、専門科目を履修した者
◆測量士の試験に合格した者
このいずれかの方法で資格を取得した後に、国土地理院に登録することで、測量士としての仕事に従事することが可能となります。
試験の合格率が低いことから、必要な学校に通い資格取得を目指した方が確実ともいえます。
ただし、学校に通い(卒業し)、その後一定数の実務経験を得る必要があるため、経済的な面で負担が大きくなり、どうしても資格取得までに多大な時間を有してしまいます。
どちらも一長一短ではありますので、それぞれに合ったやり方で、資格取得を目指すのがいいかと思います。
測量士補について
資格を所持できる方法は、下記が存在します。
◆高等専門学校の”土木科”などを卒業した者
◆測量に関する養成施設で、1年間の教育を受けた者
◆試験に合格した者
測量士補の仕事を行うには、資格を所持した後に測量士補名簿への登録をしなければいけません。
尚、これはあくまで測量士のサポートができるだけであり、測量士が行う仕事を扱える訳ではありません。
そのため、測量士に比べると取得難度は易しめになっており、試験の合格率も35%ほどとなっています。
取得難度の関係もあり、まずこちらの資格を取得し現場で経験を積む……その後、測量士の資格取得を目指すという人も多くいます。
試験の受験者数・合格率について
参考に、国土交通省 国土地理院が公表している2019年の受験者数・合格率をご紹介しておきます。
受験者数 合格者数 合格率 前年合格者数 測量士 3,232名 479名 14.8% 278名 測量士補 13,764名 4,924名 35.8% 4,555名
合格率もさることながら、受験者数も測量士補の方が圧倒的に多いのが特徴です。
上述でお伝えした通り、まずは測量士補の資格を所持し、現場で経験を積みキャリアアップを目指していく……という人が多いということですね。
無資格でも就職はできるのか
無資格の状態でも、測量事務所などに就職できます(学歴に応じた実務経験も必要となるため)。
ただし上述の通り、測量士の資格を所持していなければ仕事に従事することはできません。
あくまで、先輩や上司の測量補助を行いながら、現場を通して知識・経験を学び、資格要件を満たす。
そして、試験に合格し一人前の測量士として現場に立つことができるようになります。
尚、この仕事は、
一事業所において、1人以上の有資格者を設置する義務がある
ということから、資格を有した人は会社から必要とされる存在になります。
合格後、同じ企業に勤め続ける人、好待遇を期待できる別の企業に転職する人、中には独立開業をする人もいます。
自身の仕事の幅が大きく広がるため、この仕事を長く続けていきたいと考えている人は、必ず取得しておくべき資格と言えるでしょう。
目指せる年齢について
まず、国家試験そのものは年齢制限がないため、どなたでも、何歳であっても受験することができます。
そのため、30代・40代などで資格を所持し、新たな道を開拓していく人もいます。
ただし、それは実務経験がある人の話です。
未経験者の場合は、30歳を超えると就職先を見つけることが困難となります。
もし仮に「測量士の仕事に就きたい」とお考えの方がいらっしゃれば、求人情報にて、
経験の有無
何歳まで応募可能か
これらを確認しておくといいかもしれません。
また、年齢制限がギリギリであった場合、資格取得よりも実務経験を優先させた方がいいかと思います。
経験があれば、資格を所持していなくても採用される可能性は高まります。資格試験はその後に経験を重ねて取得していくといいでしょう。
その他
【高卒から目指すことは可能か?】
資格所持条件の「学歴」を満たすことはできませんが、国家試験を受けることはできるので、高卒からでも可能ではあります。
ただし、三角関数・行列・ベクトルなど、高度な計算問題が試験内容に含まれているため、よほど数学が得意という人でもない限り、合格の難度は高くなります。
可能ならば、測量に関する専門学校に通い、実務経験を経た後に資格を所持した方が現実的かもしれません。
専門学校には夜間コースなどもあるので、仕事と学業を両立させることもできます。
大変な道のりではありますが、こちらの方が確実に資格は所持できるかとは思います。
【女性でもなれるのか?】
結論からいうと、可能です。
ただし、資格登録者の9割以上が男性であり、女性の測量士は非常に少ないのが現状です。
測量は、市街地だけで行うものではありません。
例えば山や森の中を長時間歩くこともあり、そもそも重たい機材を担いで移動する必要があります。
屋外での仕事も多いため、体力を必要とする仕事です。
仕事を行えない訳ではなく、実際に携わっている方もいますが、相応の覚悟は必要と言えるかもしれません。
仕事内容について
測量士の仕事は、野外で行う測量作業だけではありません。
データの解析や測量図の作成など、デスクワークも相当な数をこなしていく必要があります。
時間に追われやすく、スケジュールを組んで段取り良く業務を行っていく必要があるため、高い管理能力が求められる仕事です。
ただ、言い方を変えれば、野外と屋内の作業の両方を行えるという利点でもあります。
例えば、屋内だけのデスクワークだけだと気が滅入ることもありますし、野外だけの作業だと体への負担が大きくなる場合があります。
それらに比べると、屋内外のどちらも担当するこの仕事は、気分転換がしやすく、心身ともに健康な状態を維持して働ける仕事と言えます。
仕事のバランスの良さが、この仕事の魅力の一つと言えるかもしれません。
IT技術の進化
この仕事は、「測量機器」を使用して行っていきます。
機器には様々な種類が存在しますが、IT技術の発展に比例して、測量機器も常に進化を続けています。
例えば「ドローン測量」。
これは、ドローンを操作して上空から計測を行うものです。
地上での作業に比べ作業効率が最短1/6程にまで短縮でき、人や車両が入り込めない(機材を持ち込めない)場所や人が近づけない危険な場所でも安全に測量が行えるようになります。
ただし、使用するには「ドローン操縦士」の資格が必要です。
他にも、衛星から送られる電波を利用し位置情報を特定する「GPS」や、立体的に測量データを補足する「3Dスキャナー」なども測量を行う上で定番となっています。
これからも技術の進歩に合わせ、様々な機器が取り入れられることが予想されます。
多くの技術を学べるという利点でもあり、常に時代の変化に対応していく必要があるとも言えます。
現状と将来性
測量の仕事は、専門知識・技術が必要であり、全ての工事の根幹となる作業です。
そのため、仕事の需要は安定しています。
さらに、測量の取り扱う範囲は非常に広く、近年ではカーナビ・スマートフォンの位置情報アプリ・WEB上の地図サイトなどでも測量データを求められることが増えています。
多くの仕事に関連する事業であるため、将来性も十分ある職業と言えます。
さらに、現測量士の高齢化による引退が課題にも挙がっており、若手の育成にも力を入れています。
年々受講者の数も増えており、まさに世代交代の真っただ中にあると言っても過言ではありません。
尚、上述で”IT技術の発展”についてお話しましたが、「今後、機械が自動で測量できる日も来るのでは?」と懸念される声もあります。
確かに、作業工程をプログラミングしたりなど、ある程度の部分までは自動化されることはあるかもしれません。
ただ、土地というのは非常に複雑なものです。
使用用途も条件によって様々ですし、誤差がないように正確なデータを分析・修正していかなくてはいけません。
この細やかな作業は、人の手によってでしか行えないものです。
仮に全てが機械に取って代わられるというのは先の話であり、仕事そのものがなくなるということは近い将来ではあり得ません。
地道な努力が必要な、決して楽な仕事ではありませんが、将来性は十分あると言えるはずです。
まとめ
墨出し・測量は、どちらも工事の基礎であり、なくてはならない大切な仕事の一つです。
どちらも時代とともに扱う機材などが変化し、柔軟に対応していく必要がありますが、職に就くことができれば長く需要のある仕事と言えます。
どちらも土木・建築工事に関係する仕事であり、建築に関する知識を学んでいけば、他の仕事にも携わることができるようになります(例えば、測量士が建築の知識を学べば、工事全体のコンサルティングを併用することができるなど)。
できる仕事の幅が広がれば、同じ仕事をしている人と差別化が図れ、会社にとっても必要な人材と認められるようになります。
自身の努力次第で、様々な道が開ける仕事です。
関心を持たれた方は、さらに色々な情報を調べて知見を広げてみて下さい。