古き良き家の土間。土間のある家はなぜか懐かしく、暖かみを感じることのできる家です。
土間は、先人たちが考えた非常に重要な役割と知恵が詰まった床であることは言うまでもありませんが、近代では土間のある家がほとんど無いと言っても過言ではないでしょう。
そんな土間はいったいどのようにして作られているのか。また土間の役割や意味は何でしょうか。土間のある家のメリットやデメリットも加えてまとめてみましたのでご紹介していきたいと思います。
1. 土間っていったい何だろう(意味と役割)
土間は日本建築における家屋内の一部を構成させる間取りの一種で、日本の伝統的な民家や乃屋の屋内空間に敷かれています。
この屋内空間は、人間の生活面が柱によって地面より高くしつらえられ、木の板などが敷かれた「床」というものが敷かれた部分と、地面と同じ高さの部分とに分けられます。この後者がいわゆる「土間」なのです。
土間は地面とほぼ同じ高さで、生活空間である廊下・居間・寝室といったような部屋よりも一段低いのが特徴で、屋外と連絡するための人が出入りします。ここには大きく開く扉、もしくは引き戸がかならず設けられています。
現代の民家建築では、土間は単なる屋外と屋内の境にある玄関の狭い空間に縮小していて、単純に靴を脱ぐための場所となっています。それによって伝統的な土間の重要な機能だった「生業の作業空間」というものは、生活家屋内からなくなっていることが多いです。
土間の役割
土間は、戸外と屋内の中間的な場所にあって、日本家屋では「屋内は靴を脱ぐ」という生活習慣がありますが、土間に限っては土足のままでもかまいません。このため現代住宅でも「靴を履いたり脱いだりする場所」として位置づけられて存在し続けています。
作業場
雨天などの際に、農機具や漁具の手入れを行う作業場として活用されています。数畳から十数畳程度の広さを持っていて、「ござ」や「すのこ」を敷いて座ったり、靴を脱いでその上に立ったりします。
ゴミやホコリの出やすい作業をするうえで、掃除の簡単に済ませられる土間を利用したと思われています。一方で、古い農村部の日本家屋では、板の間がそのまま生活空間で、作業場所は特別に設置しなかったため、汎用性にあるスペースとして活用されています。
また、伝統的な家屋では、用途によって板をはめて板の間として使用したり、その板を外して土間として使用したりするスペースが設けられている場合もあります。
炊事場
調理では火や水を多く使うことから、「床が腐る心配が無い」「燃え移ることが少ない」という理由で必然的に土間が利用されました。
また、かまどなど火を使う設備を設置するうえでも、土間の方が設置がしやすく、火災予防の観点からも有効だったと言えます。
このために旧家屋では炊事場が土間になっていることが多いのが特徴です。
2. 土間ができるまでの流れ
ではその土間において、いったいどのように作られていくのかをここでご説明していきたいと思います。
水盛り・遣り方
どんな建設現場でも水平を保つために測量を行います。
掘削
土間はいきなりコンクリートを打つのではなく、建物のレベルに合わせて掘削を行います。
油圧ショベルを使用する場合は騒音に注意しながら行わないといけないので注意が必要です。
また、掘削を行った際に出る「残土」の処分も行います。
以下に土間の断面図を紹介しますので参考にしてください。
出典:庭ファン
https://springbd.net/dustconcrete-procedure
砕石
コンクリート打った時に自重で沈下しないように砕石を敷き詰めていきます。
またこの砕石は施工面を綺麗に保つためにも必要な工程です。
砕石は、基本的に人力で搬入し敷き均していきますが、場合によっては重機を用いて敷き詰める場合もあります。
転圧
砕石を敷き詰めた後にその砕石に圧力をかけて締め固めていきます。
これはコンクリートを打った際に、その重みで沈下を防ぐための用途でもあるので非常に重要な工程です。
この転圧には、転圧機という機械を用いますが、かなりの騒音が発生するので周囲の住民の生活への影響を最小限に留めるなどの注意が必要になってきます。
ローラーを使うこともありますが、主な使用機器は転圧機を使用します。
型枠
砕石を敷き均し転圧した床にコンクリートを流し込むとコンクリートが流れ、仕上がりが悪くなってしまいます。そうならないために、コンクリートを打つ前に、型枠というものを設置します。
型枠は、その範囲内でコンクリートが固まるように必要な範囲をコンパネと呼ばれる板で囲っていきます。
ワイヤーメッシュ(溶接金網)
型枠の施行が終わったら、そこにワイヤーメッシュをという金網を敷きならべていきます。
どんな建築物でも基礎の部分には「鉄筋」と呼ばれるものが入っています。
コンクリートは圧縮には強いですが引張には弱く、鉄は引張には強いのですが圧縮には弱い。この特性を活かしてコンクリートの中に鉄筋を入れているのです。
これと同様に土間にもワイヤーメッシュという鉄製の網を利用するのです。
このワイヤーメッシュを敷き詰めるのにも均一の高さに揃える必要があるので、スペーサーブロックと呼ばれる四角いコンクリートブロック制の物を要所に配置していきます。
コンクリート打設
生コンクリートを流し込んでいきます。
コンクリートは手押し車で流し込むものもあればポンプ車を使って流し込む場合もあります。
流し込む時には均一な高さを保てるように流し込まなければなりません。
表面仕上げ
コンクリートを打設したら、仕上げはその日のうちに行います。
コンクリートが固まってしまっては元も子もないので、ここは職人の腕の見せ所です。
方法は刷毛引きと金鏝(かなごて)を用いて用途に合わせて使い分けていきます。
コンクリートは気温や天候にもよりますがだいたい1日~3日で固まっていきます。
しかしコンクリートが完全に固まるまでには日数がかかるために養生期間として数日置いておかなければなりません。
以上のように、土間を施行するのはただコンクリートを打つだけではなく、それまでにさまざまな工程が存在していることがお解かりいただけたでしょうか。
3. 土間のある家のメリット・デメリット
では土間にはどんなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
メリット
あまり汚れが気になりにくい
土間は上記にも述べた通り、主にコンクリートやタイルなどで覆われているため、よく使われているじゅうたんやフローリングなどに比べると汚れが目立たないのが特徴と言えます。食べ物や飲み物をこぼしてもシミにならずに掃除も比較的簡単に行うことができます。
キッチンから出るゴミなどは一度屋内に置いておく場合もありますが、そのような時に土間があるとその場所を活用することで、ゴミから出る汚れが万が一床に着いたとしても、モップなどで綺麗に洗い流すことができます。
夏場の快適さ
夏場は土間にいると涼しいものです。
このコンクリート面積が多ければ多いほど家全体が涼しくなり快適な生活空間を保つことが可能になります。
多目的な用途に使える
ガーデニングの材料の一時的な置き場や、自転車やバイクなどの置き場としても活用できます。
もし土間がなければ、自転車などは風雨にさらされてしまったり、ガーデニングの材料も水浸しになってしまいます。
このようなときに土間があるとそれを防止することができ、生活に余裕ができるのではないでしょうか。
また、子どもの遊び場やペットの遊び場などにも使え、リビングやダイニングとしても活用するのも良いでしょう。
ちょっとした来客のコミュニケーション
近所の方が回覧板を回しに来た時などに、ちょっと話をする程度で上がってもらう程でもないときなどにコミュニケーションの場として土間は活用できるのではないでしょうか。
土間に縁台などを設置していれば、靴を履いたままでお茶でも飲みながら会話を楽しむこともできます。
庭のひとつとしても応用できる
土間が庭と面している場合に限られてしまいますが、庭と面していることでガーデニングなどで衣服に着いた土などを土間で落としてから部屋に入ることもできますし、自転車やベビーカーなど気軽に置くこともできます。
また、庭でバーベキューなどを行った際に、それに使用する道具などを一時的に仮置きしておけば必要な時に土間へ取りに行くことができ、わざわざ靴を脱いで屋内に取りに行く必要もなくなります。
デメリット
冬場は寒い
土間は地面に近く、施行の素材によっては冷え込む場所になります。
ましてや土間は土の上に造られていますので、土の冷たさがそのまま表に出てしまい、冷えを生じてしまいます。
さらにはコンクリートなど熱伝導の高い素材などが多用されていますので、より寒さを感じてしまう場所になります。
キッチンやダイニングテーブルを置くスペースになっている場所ですと、底冷えは大きな問題になり、土間にも床暖房設備を設置するなどの対策が必要になってきます。
部屋同士の分断・行き来の面倒さ
土間の場所によっては、部屋同士の行き来が面倒になります。
いったん靴を履いてまた脱ぐという行為が発生してしまうためです。これは日本古来の家で良くみられる現象です。
ただし、二世帯住宅などプライベートの確保のしやすさから言えばある意味メリットかもしれませんが、部屋の分断という意味ではデメリットになります。
よってきちんと導線などを考慮した土間の配置が必要になってきます。
段差
土間は土の上に造られ、部屋は基礎の上に造られるので、どうしても段差が出やすくなります。
年齢を重ねていくとこの段差によってつまずいて怪我をするなど非常に危険な要素となってきます。昔からの家屋による土間はこれがひとつの原因として減少しているのも事実です。
バリアフリーを謳われている今、この段差は非常に重要な懸案要素となっています。
4. 土間のデメリット対策
土間というのは非常に落ち着く空間です。しかしデメリットも多く存在します。
ではこのデメリットに対して有効な対策はあるのでしょうか。
寒さ対策をしっかり行う
土間は冬場になるととても底冷えしてきます。
土間の暖房を最大にするのも手ですが、底冷えは治まることは少ないのではないでしょうか。
そこで威力を発揮するのが「床暖房」です。
床暖房で対策することによって土間から発する冷たい冷気を遮断し、暖かい床に変えていきます。
そうすることで底冷えのする土間を暖かくし、そこにリビングを設けたりテーブルを置いたりすることができます。
また、間仕切りで寒さを仕切る方法もあります。
夏場のことを考慮して引き戸を使い、夏になったときに引き戸を全開にすればとても涼しく過ごすことができるでしょう。
移動の不便さを解消する間取りにする
土間がひとつ部屋との間にあると先にも述べたように移動が面倒になり部屋の分断に繋がります。
設計の段階で土間を通らなくても隣の部屋に移動できる通路や、靴を履かなくても土間にいられるスペースをつくるなどの工夫を行えば、部屋同士の分断は避けることができるでしょう。
段差を極力なくす
土間と隣の部屋には段差をできるだけ作らないようにしなければなりません。
段差は高齢者や子供には大きな障害となります。仮に「自分は若いから大丈夫」と思っていても、いずれは年を取っていくのです。
自分が高齢者になったときに失敗したと思っても手遅れです。そうならないためにも設計段階から充分に施工業者と打ち合わせをし、極力段差を作らないように施工することが重要となってきます。
5. 土間のある暮らしを考えてみる
かつては多くの日本家屋にあった「土間」。現在ではほとんど姿を見せなくなってきています。
しかし、土間のある暮らしはさまざまな可能性を秘めた暮らしの提供場所となることは間違いないと思います。
リビングにしたり、趣味の活用スペースや作業スペースにしたり、子どもの遊び場としても活用することができます。
土間は発想次第で使用できる用途が無限大に広がります。
しかし、先に述べた寒さ対策や、段差の対策、部屋の分断などのデメリットに対する対策も忘れてはいけません。
これらの対策を施して土間を造れば、とても快適な生活環境のひとつとなることは間違いないでしょう。
6. まとめ
いかがだったでしょうか。土間は日本古来の独特な懐かしい雰囲気があります。
しかし土間にはメリットやデメリットも存在していて、この点も充分考慮しなければならないことがお解かりいただけたのではないでしょうか。
これから家を新築される方も、今後リフォームに土間を取り入れたい方もこのようなメリットやデメリットを充分考えたうえで、デメリットに関しては対策を充分行い土間の導入をお考えいただければよいと思います。
土間のある暮らしはわたしたちの暮らしに大きな影響を与えてくれます。環境面や精神面でも工夫次第では憩いの場所となることでしょう。
この記事を通してそのような対策などの手助けになれば幸いです。